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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
192/516

157 第55章 水上ショー(姫乃)



『アピス』


 日が暮れていくにしたがって、人は少なくなっていった。

 だがそれでも前年よりも人の集まりは多い。


 町の富裕層の住民であるアピスという青年は、人の多さに少し驚いていた。

 富裕層の者達は、祭は庶民の遊びだという感覚でめったにこういった催しものには顔を出さない。関わるとしても開催者側としての方面のみだ。


 しかし、ここにいるアピスなどは変わり者で、何やら時代が変わりそうな評判や情報を嗅ぎつけて、たまには参加してみるのも悪くないだろうと思って、やってきたのだ。

 アピスの周りにも、数人の男達がいて、最後の見世物を楽しみに待っている。


 一日目のレースも前年にはない面白い物がたくさんあったし、二日目の今日のショーもどれも感嘆するものばかりだった。


 舞台の清掃が終わり、楽器らしき物が運ばれているのを見ながらアピスは仲間たちと会話をする。


「見たか、昨日のレース。凄かったんだぜ」


 一言いえば、仲間達はひっきりなしに口々に己の感想を出して言い合い始める。


「ああ、本当にハラハラしたよ。あんな見世物まであるとは思わなかったし、なんたってあんな小さな子供が優勝しちまうなんて、誰も思ってなかっただろ?」

「まあ、前年のトップとの同着だったが……。それでも凄かったよなぁ。まるで一心同体みたいにコケトリーを操って走らせるんだから」

「こういうのもなかなか面白いし賑やかでいいよな。他の連中も来ればよかったのにさ」

「だよなぁ、あいつらずっと難しい顔して、浄化の能力者がどうとか世界がどうとか言ってんだぜ、辛気臭くてかなわねーよ」


 最近ヘブンリーフィートでは、良くない空気が蔓延している様に感じるのはアピスの気のせいではなかったようで、仲間たちも同様の事を考えていたらしい。


 何でも白い服を着た奇妙な集団が色々な屋敷を出入りしたりするのを見たとか、武器や変な護符などを急に売りつけられたりしているらしいのだ。


 統治領主への不満も耳に入るようになってきたし、未だ見つからない浄化能力者の情報についての様々な憶測が飛び交っている。


 アピスら若者連中には、そういった空気が受け付け難かったのだ。


 その感情は、物事はどうせなるようにしかならないし、今まで何とかやってきたんだったのだから最後には何とかなるだろうという、楽観からくるものでもあったが、そうでなくてもおかしいと感じるほどの違和感だった。


「連中は一体何をそんなに怖がってるんだろうなぁ、いざとなったら憑魔なんて兵士がやっつけてくれんだろうに」


 これが一般庶民たちなら、物事の成り行き次第では世界の状況に左右されやすい立ち位置にいるため、違った感想になるのだが、生憎アピス達にとっては無縁の事であるため、そこまで思い至らなかったのだ。


 そんな風に考えていると、舞台の準備が整ったようで、アムニスの説明が入り、十ぐらいの年の子供達が出てきて立つところだった。


 子供だと侮ることなかれ、同じくらいの年の少年少女でも目を見張るような演武をこなして見せたのだ。目の前の彼女らからも、何が出てくるか分からない。

 さて、最後に彼女らは一体どんなものを見せてくれるのだろう。

 アピスは期待に胸を膨らませながらその時を待った。


 舞台上。

 そこには数人の少年少女が立っていた。

 真ん中に赤毛の少女。こちらから見て右にアクリリュートの前に座る濃い茶髪の少女、左に淡い茶髪の少女と黒い髪の少年が立っている。

 赤毛の少女が、何やら魔言を唱える。


 すると会場にの真上に水球が現れた。

 同時にアクリリュートの演奏が流れる。


 浮かぶ水球に風が吹き、流れる音楽の中、ゆっくりと空でダンスした。

 観客達から歓声が上がった。

 アピス自身ももちろん声を上げていた。


 綺麗な光景に見とれていると、それだけで終わりではなかった。


 水球の中に何かが見える。

 あれは魚だ。

 色とりどりの魚が泳いでるのが見える、さっきまでいなかったのに。

 それらは幻なのだろう。

 水球に現れては消え、別の水球に出現してを繰り返す。


 歓声に驚きの声が交ざる。


 しばらくすると魚が消えて今度は水球が光を放ち始める。

 電流の様なものが水球の表面を網の目状に覆って光を放ち輝いている。


「ふぃにっしゅなのー」


 一番背の低い子の声。

 手にしていた籠の中から白い花びらが舞った。


 淡い青の水球に、白い花びらが風にまって周辺に降り注いだ。

 くれる空の中、光を纏う水球、そしてその光をうけて淡く輝く白い花びら。

 一瞬の芸術がそこにはあった。


 演出が終わって、舞台上の少年少女が礼をすると、一瞬後割れんばかりの歓声が湧き起こった。



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