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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
191/516

156 第54章 舞台裏



 二日目のショー。

 港へと移動してきた姫乃達は、用意された天幕の中、舞台の裏で待機していた。

 出番は遅い。

 前半にトラブルがあったせいか、片付けやら舞台整備やらで長引いてしまっているのだ。

 色々理由は尋ねて、原因が分かって心配になったが幸いにも怪我人などは一人も出なかったのだという。


 午前中は出店を見たりして町を回っていて直接見ていないので人から聞いた話になるが、(誰だか分からないけれど)ショーに出ていた出演者が気づいて対処してくれたみたいだ。


 そんなこんなで再開が伸びに伸びて時刻はもう夕方。

 日が沈み辺りが暗くなってきていた。


 だが、このあたりまで時間がずれ込むことが予想されてなかったとは思えないくらい、舞台環境はいい。


 白くなった光を放つ大きなキリサメ灯の石が用意されていて、周囲の状況に合わせてほのかに輝き始めている。


 この時間になってくると逆光になって、暗い方から明るい方は見えても、明るい方から暗い方は見えにくくなる。

 ゆえに姫乃達が舞台に上がる頃には、観客達の姿があまりよく見えなくなるのだった。

 そのおかげか、それほど緊張しないですみそうだった。


『えー、次の方は……』


 アムニスの声を聞きながら、姫乃達は舞台裏に待機。

 自分達の出番はこの次だ。


 昨日レースの時に聞いたばかりの声が聞こえる。

 レースの時も色々話してたけど、二日間もしゃべり続けて喉は大丈夫なのだろうか。


 舞台上に上がるのは全部で50の団体。

 そして実は姫乃達は、一番最後の出番だった。


 一組の持ち時間はだいたい五分。解説や感想やらで一分少々かかるので、次まで6、7分だろうか。


 マギクスの時の数え方は、メタリカと変わらないようで時計の仕組みも同じようになっている。

 時間が不便なく分かるのは嬉しいだ。

 でも、こういう時は少しかえって緊張しちゃうけど。


 一抱えほどもある物体。見ようによっては古いアンティークの飾り物にも見えなくはない、ゼンマイ式のからくりの置時計。そんな物体が舞台裏に置かれていて、カチコチ秒針を鳴らして、一周すればがカチッっと音を鳴らし、一分時が進んだのを知らせる。


 後5、6分かな……。


 姫乃は未利の方に声を掛ける。


「そっちの方は大丈夫?」

「ん、へーきだと思う。何とかなりそう。本音を言えばもーちっと時間が欲しかったところだけど、まあ、無いものねだっても仕方ないし」


 言葉を返す未利は、姫乃の方を向かない。


 彼女は、ピアノみたいな楽器の前に座っていて、鍵盤を叩いたりして考え込んでいるようだった。

 普通……メタリカの物は弦が張ってあるのだが、マギクスのそれには何本もの筒が入っていたり、時折り側面から水が蒸気となって出ていくのが見える。違うのは内部構造のみで、基本的な見た目はピアノとさほど変わらない。


「アクリリュートだっけ、マギクスにはこんな楽器があるんだ」

「だねー、水でどうやって音を出すのかすっごい不思議だけどー、ほんとにピアノみたいな音だったよねー」

「音がポロロンて鳴ってすっごく綺麗でいいの」


 この楽器を舞台で使う事に決めたのはほんの数十分前だ。

 舞台で演奏している人がいて、それで未利が「閃いた!」とか言い出して、いきなり舞台から降りてきたその人と交渉しだしたのだ。


 どうやら彼女にはピアノが弾けるみたいで、姫乃達のショーに使うために練習しだして、あっという間に楽器を慣れた様子で演奏し始めたのだ。

 ちょっと、意外だと思える特技だけど、何となく楽しそうだし予定とかに無いけど別にいいかな、なんて珍しく姫乃は思った。


「ふっふっふ、この世界の愚かな民共の耳に異界の調べをこびりつかせてやんよ」


 だ、大丈夫だよね……?

 変な事したりしない、よね?


「ピアノ、好きなんだね」

「え?」


 だから、姫乃はそうなんだろうと思った事を口にしたのだが、未利は軽快に動いていた指を止めて、首だけめぐらせて、こちらを見つめてくる。


「別に好きでもなんでもないけど?」

「え?」


 今度はこっちが疑問の声を上げる番だった。


「何となく進んで弾いてやってもいいかって思ってるから弾いてるだけ、別に好きなわけじゃないよ」

「そうなの?」

「そうそう」


 そうなのかな?

 姫乃としてはすごく楽しそうに見えたんだけど。


「あ、でも別に嫌々弾いてるワケとかじゃない、……から。今は」


 今は、ってことは今までは嫌だったのかな。

 未利はすごく微妙そうな顔を鍵盤へと向けている。

 あれだけ滑らかに動いていた指が今は止まってた。

 私、余計なこと言っちゃったかな。


「未利ちゃま、なあピアノさんをえんそーしてみたいの。猫ふんじゃわなかったさん、弾いてみたいの」


 そんな風にしていると、なあが姫乃がいる方とは反対側のほうからやってきて、未利へと声をかけた。


「いや、そんな曲ないし。ネコふんでないネコふんじゃったってどんな? え、アレンジしろって事?」

「わー、さっすがなあちゃん冒険心してるねー」


 会話に啓区が交ざりだしていつもみたいな賑やかさが戻ってくる。


「ぴゃ、猫さんふんじゃいながらえんそーは駄目だってなあ思うの」

「いやいや、そういうアレじゃないから」

「あ、でも未利だったらやりそうだよねー」

「んだとゴルァ!」

「いひゃいよー」


 そんな様子で時間が過ぎていけば、緊張なんて気にならなくなる。

 そしてしばらく時間が過ぎた後、姫乃達の出番がやって来た。



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