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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第一幕 終わる世界
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18 第17章 コンプリート・レター



 何故カミルさんはユミンの事を姫と呼んでいるのか。

 その理由を話し始める。


「僕たちの家は男兄弟が多かったんですよ。人数としていえば…、僕の上に四人、僕とユミンの間に二人でね。そんな中、ユミンは一番下で生まれてしかも女の子だったので、それはもうものすごく可愛がられてお姫様みたいに育てられたんです」


 お姫様みたいに可愛い、だから姫かあ。

 話すカミルの顔のほころび様を見てれば、どれほど彼女が可愛がられてたかは想像がつく気がした。


「実際ユミンはものすごく可愛かったんですよ。何を着せても似合うし、どんな色も合う。似合ってしまう! 容姿だけとは言わず、性格も素晴らしいんです。聡明で慎ましくてけれども臆病までとはいかず、ときには思い切りが良くて元気で……」


 と、カミルさんがユミンをとめどなく褒め始めて、途中から残念になった。


「カミルさんはユミンちゃまの事がとても好きなの、仲良しなの」


 残念な所もなあちゃんにアレンジされれば良い美点だ。


「だけど、さすがにそれじゃあいけないと思いまして。姫は物覚えが良くて、道を覚えるのが得意だったから、じゃあ配達人を手伝わせてみようって事に……」


 なあちゃんから美点フォーローに、顔をほころばせてその通りだと頷きつつカミルさんは続ける。


 男兄(おとこあに)達は思った。

 仕事に就くのだからいくら身内でも厳しくしなければ。

 これは今まで甘やかした分を取り戻すいい機会だ。


 そう、これまで過剰な妹愛を注いだ分だけ配達人の心得をみっちり教え込んだのだが。


 その結果、


 カミルはうなだれるようにして話す。


「姫は、兄達に頼って後ろについて歩いていた日々を恥じるようになって、全部一人でこなそうとする子になってしまったんです……ああ……」


 うなだれるようにして、ではなかった。

 思いっきりうなだれていた。


「だから強引にでも、あの子の手を引いてくれて助かりました」


 カミルさんは、弱気そうな表情でそう言う。配達人として、厳しくあたっていた自分ではその役目はこなせないとそう思ってる様だった。


「困った時は、周りに頼ればいいのだと、そんな簡単な事ですら私は教えられませんでしたので。あらためて、お礼を言います。ありがとうございます姫乃さん。……と、皆さんもでしたね」


 真摯な態度でそんな風にお礼を言われると、こちらとしても困ってしまう。

 照れくさいというか、恥ずかしいというか。

 年上の人から、こんな風に丁寧に話されるなんて今までなかったから。


「そうなのっ、なあ達頑張ったの。でも、カミルさんにありがとうって言われなくても、きっと頑張ってたの。だからそんなに、ありがとうしなくてもいいの」

「たまたま時間があったら手伝っただけだし、アタシは別にどうでもいいんだけどね。語尾に付け足されるくらいの存在感みたいだし」

「未利ちゃま、トゲトゲしちゃダメなの。めっ、なの」


 付け足しで礼を述べられた二人。未利は棘を含んだ言葉を発するが、なあちゃんは素直に喜んでいる。




 

 そんな感じでカミルさんと話した後、今日の手紙捜索は終了。日も暮れてきたし最期の一通は明日に持ち越しだ。


「やっぱり、今日全部見つけてあげたかったな……」

「まだ言ってる。いいじゃん別に、まだ明日もあるんだしさ」


 セルスティーさんに今日の作業分終了のお知らせをして、帰り道。姫乃は一日の成果を振り返って、思わずそう言葉をもらしていた。


「でも、明日見つかるかなって、ユミンが不安なまま夜を過ごすのかと思うと」

「姫ちゃまも、夜になると不安さんでたくさんなの? 不安さんになると良くないの、心がもやーってなっちゃうの」

「え? 私の事じゃなくて……」

「いや、それっておんなじ事じゃん。そのユミンが手紙を見つけられるかなーって、姫乃も不安になるでしょ」


 あ、そっか。


「何か時々、お人好しすぎてなあちゃん並みに心配になる」

「え、そんなに?」


 そうだろうか。よく分からない。

 自覚は無いし、自分がそんな大層な事をしてるとは思えないのだが。

 これはあれだろうか。

 自分の事になるとよく分からないとかいう。精神論的な。

 どういうあれだろう。

 何かよく分からなくなってきた。


「良い人だとしても、何にも役に立てなかったら……しょうがないよ」


 苦笑交じりに、そう言ったら。

 未利となあちゃんが顔を見合わせた。


「気づいてない」

「姫ちゃま、そんな事ないの。なあ、知ってるの」

「誰だって自分の事はよく分かんないもんなんだね」

「せーしんろん、なの? なあ難しい本で読んだから知ってるの。三ページまでしか読めなかったけどなの」


 気づいてないって、何がだろ。

 ……そんな事ない、って。そうなのかな……?

 そうだったら良いとはいつも思ってるけど。


「あ、ヒメノちゃん。朝ぶりだね」


 声をかけられてユミンだと気づく。

 帰途に就こうとしている人たちの合間をぬって、こちらに駆けてくる。


(あに)ぃから聞いたよ今日の事。たくさん集まったんだって。わざわざ、宿に来てもらうのは大変だから受け取りに来たんだ」

「そんな、そっちこそ。帰るついでに寄るだけだから気にしなくてもいいのに」

「そういう訳にはいかないよ。寄るだけって言ったって確実に時間使っちゃうんだし、何しろ私の失敗のせいだから。これくらい当然」

「でも……」

「あ、私の方でも、一つ見つけたんだ。何とか、仕事の合間に時間作って。まさか、お城の中の窓枠に挟まってるとは思わなかったけど……。外から見える所で良かったよ」


 ユミンの方でも、見つかったという事は、これで全部集まったという事だ。


 姫乃は、休憩中に集めた手紙たちを渡す。

 ユミンがそれらをざっと確かめていく、その顔は真剣そのものだ。

 やがて、すべてを見終わった後、笑顔で顔を向ける。


「すごいっ、本当に全部だよ。すごいよ、ありがとうヒメノちゃんっ!」


 どうやら、ほんとうに勘違いでもなんでもなく、全部だったらしい。

 屈託のない笑顔を向けられて、こちらも嬉しくなる。


「良かった、これでみんな配達できるね」

「うん、うんっ。良かったあ。一時はどうなるかと思ったけど……。あ、そうだ明日お礼するから宿の部屋に来てよ」


 大切そうに手紙を抱えるユミンを見て、本当に良かったと思う。


「アタシ等もがんばったんだけどね。やっぱり、醸し出すオーラが違うとか。主人公オーラ」

「未利ちゃま、なあ達は手紙さんが見つかればそれでいいの。よかったねって思えるからいいの」

「はいはい、そうだねそうだね」


 カミルと時と同じような状況にコメントする未利に、めっとするなあちゃん。

 そんな二人に気付いて慌てて、二人にも感謝してる事を伝えるユミン。


「もちろん皆もありがとう。とにかく、明日は(あに)ぃと相談して何かすごいの考えるから。期待しててよ」

「お礼なんていいのに、実際私はあんまり役に立たなかったから……」

「そんな事」


 姫乃の言葉にユミンが反論しかけたとき……。


 ふいに強い風が吹いて、腕の中の手紙が一通飛ばされてしまう。


「あっ……」


 慌ててユミンが掴むも、その拍子に掴んだところの紙が破れてしまう。

 

「ああっ! どうしよ」


 さっきまでの笑顔はどこにやら、一瞬で泣きそうな表情になり、手紙とにらめっこを始める。

 見つめたら見つめただけ、手紙の損傷が治る魔法とかあればいいんだけどなあ。

 失くすよりはいいかもしれないけど、最後の最後に訪れた不幸に、少しぐらい手紙も空気を読んでくれたっていいのにな……なんてルミナリアみたいな事を考えてしまう。


「手を離して」


 しかし、最後の最後などではなかった。

 いつの間にか、セルスティーさんがユミンの手紙を掴んでいる。


「え……?」


 調合薬の材料でも買った帰りだろうか。

 ユミンは訳も分からずキョトンとしている。


「早く、危険よ」

「……?」


 危険と言われ、その手を離すユミン。当然手紙はセルスティーさんの手に渡る。

 何が何だか分からないまま、挙動を見守っていると


「ウィンド」


 手紙を投げた!?

 そして、風で、吹き飛ばした!!


「えぇっ、あの、ちょっと!」

「セルスティーさん!」


 驚くのも無理はない。

 だってやっと、見つけた手紙なのだから。

 ただ、数秒後にもっと驚くことになるとは思わなかった。


 直後、爆発した。

 手紙が。

 爆発したのだ。あの手紙が。


 見事な速さですっ飛んで行った手紙は、空の彼方で勢いよくそれはもう、目の疑いようがないくらいはっきりと、そしてまざまざ見せつけるよう爆発したのだった。


 ……今の、何が起きたの……?


 もちろん、そこにいる一同は当然そんな事を思った。



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