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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
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142 第40章 コケトリースタート



 選手紹介やルール説明などを行った後は、本番だ。

 スタートラインに並んだ選手達も、観客席に座る観客達も、解説役であるアムニスも、皆一様に緊張した面持ちだ。


 スタートラインの脇に立っている人が、何か身の竹以上のサイズの大きな管のような物を操作する。

 事前に聞いているが、あれは一応楽器らしい。

 壊れたり破損したり何かして使われなくなった船の廃材が使われているらしく。

 中に水を入れて音を調整するものらしい。

 確か名前はアクリリュートとか言っただろうか。


 とにかくその笛を操作していく。


「では、準備が整ったようですね。ただ今より、水上レース第一戦目を開始します。選手の皆さん、頑張ってください。優勝者には豪華な景品も用意されてますよ。観客の方たちも精一杯の声援をお願いします」


 アムニスの声がした後、しばらくして、アクリリュートから音が鳴った。

 低い音が一回。次にもう少し高い音が一回鳴る。


 三回目の音で選手達は、スタートだ。

 否応なく高まっていく緊張感。

 心臓は凄くドキドキしているのに、周囲は不思議なほど静寂に包まれている。

 やがて、一際大きく、高い音が鳴り響いた。


 スタート。


 選手を背に乗せたコケトリーたちが一斉に走り出す。

 その中で……。


「ちょおおおっ……」


 一匹だけおかしな行動をとっているコケトリーがいた。

 未利のだ。


 スタートした途端、勢いよく反転して、そのままものすごいスピードで逆方向へと走り去っていくのだ。


「こらあぁぁぁ――――っ!」


 未利の上げた絶叫が遠くなっていく。


「えー……さっそく一名が脱落したみたいですね。コケトリーの機嫌でも悪かったのでしょうか」


 アムリタの声に、観客席からどっと笑い声が湧いた。


「えっと、未利……大丈夫かな」


 未だ逆走し続けるコケトリー。止まる気配がない。

 遠くから聞こえてくる罵声は遠くなるばかりだ。


「大丈夫じゃないかなー。いつも動物にやられてるけどー、まあ何とかなってるしー。それに、他の意味でもこんな人目の多い所で何かが起きたりはしないと思うよー」


 隣を走るコケトリーの上から啓区の声が聞こえてくる。


「そ、そうだよね」


 何もない時から気にし過ぎても仕方のない事だ。

 準備不足であるとか、状況が違うのならまだしも、不要な心配をし過ぎて、それでせっかくの息抜きであるお祭りを楽しめなかったら意味がない。


「優勝は難しいかも知れないけど、がんばらないとね」

「それでこそ姫ちゃんだよー」

「そういえば、なあちゃんが見当たらないけど」


 姫乃は周囲を見回す。

 こんな時に真っ先に未利の心配をしそうな、なあの発言がない事に疑問を抱いたからだ。


「あー、あそこだよー。すごいねーなあちゃん、もうあんな所にいるんだー」

「えっ、本当だ。いつの間に……」


 見つけたらしい啓区の示す方向に視線をやると、先頭集団の中央に見慣れた小柄な体格の少女がいるのが分かった。


「先頭にいるのって優勝候補とか、かなり大会に出場してるって紹介された人達だよねー。そんな人達と混ざってるなんて、びっくりだよねー」

「そうだね。それにすごくコケトリーとも息があってるように見える」


 背後に続く集団を引き離しながら、段々とスピードを上げていく先頭集団。

 その中でなあちゃんは、コケトリーに的確に話しかけたり、指示を出しているようだった。


「なあちゃんってー、意思疎通が難しい生き物ほど心を開かせてなつかせるみたいなー、そんな不思議な力を持ってるよねー」

「なあちゃんの優しさだよね、きっと」


 最初はともかくアルル君とかたまに話しかけるようになっていたし、出会った頃の未利とかもなあちゃんの面倒見だけは進んで関わってるみたいだったし。


 なあちゃんには固く閉ざされた人の心に響くような、何か特別な力があるのかもしれない。




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