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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
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140 第38章 賑わう空気



 港 レース会場観覧席 『コヨミ』


 今まさに姫乃達が到着したばかりである会場。その観覧席。レースの為に用意された席の後ろの方ではコヨミ達が立っていた。

 その脇には、護衛のグラッソと、魔同装置研究の主任アテナが立っていてしっかり見張っている。


 一般の観覧席とは違って、後ろの方に設置されたその場所は、一段高いところに設置されている。そのため、見通しが良く、簡単に他の人間が入ってこられないように工夫されていた。


「レースが楽しみ。姫乃ちゃん達が出てくるのよね。応援頑張ってしないとね。それが終わったら町でギルドのみんなと町を見回って……」


 もう待ちきれません、とばかりにそわそわしながらコヨミは周囲を見回していた。

 祭りが楽しみな子供の行動そのものを見てアテナは苦笑をもらす。


「はいはい、分かってますですよ。レースが終わった後の午後からは、予定を開けてますですですから。自由行動にして良いですよ」


 アテナは、「まあ、もちろん護衛の自分対もついていくが」と、思ったがわざわざそんな事まで言わなくともいいだろうと、口をつぐんだ。

 コヨミはそれはそれはもう嬉しそうに、ぱあっ、と表情を変えながら、午後にやるべき事リストを数え上げていく。


「出店を見るでしょう、町を見て回るでしょ。芸術通りでルーンの作品を探して、それからそれからお腹がすいたら美味しい食べ物を食べるのよ」


 もう楽しみで楽しみで、と。

 全体的にこれでもないくらい分かりやすかった。


 こんな姿を見て、一体誰が統治領主だと思うだろう。

 まあ、気づかれては困るが。


 王女らしくしてほしくはあるが、いくら現実的な考えを持っている彼女とて、こんな日まで説教をするつもりはなかった。


「あ、昨日新しく書類が増えちゃったけど、途中で……」


 しかし、コヨミは昨日執務室に届いた仕事の存在を思い出してか顔を曇らせる。


「そんな目をしなくても、監禁したりしませんです。約束しましたですですから」

「そうよね、約束は大事なんだから」

「よっぽど、友達に飢えてたんですね」

「あっ、別にアテナに不満があるわけじゃないのよ。ただちょっと、貴方は私の身分を知ってるから……」


 アテナが率直な感想を言葉に乗せれば、コヨミは慌てたように返す。


「分かってますですよ。同じ顔ばかりと付きあうのも良くないですですし。肩書のない場所で羽を伸ばしたいという気持ちも分かっているつもりですから」

「そうよね。仕方ないわよね」

「その代わり、ちゃんと祭りが終わったらお仕事の方もちゃんとやってほしいですですが」

「うう、分かってるわよぉ。はぁ、緑花ちゃん達といられる時間をできる限り伸ばせないかなぁ………」


 そんな風に肩を下ろすコヨミだが、ふと何かに気づいた様子でアテナの方を見る。


「そういえばアテナはルーンと一緒にいなくていいの?」

「ああ、別に大丈夫ですよ。本音を言えば恋人を優先したいですですけど、向こうも色々お仕事がありますですから。その分、後夜祭では甘えさせてもらおうと思ってますですですが」

「そう」


 自分だけが楽しむことに負い目を感じてもいるのだろう。

 まったくせっかく息抜きの機会を用意したというのに、息抜きにならなかったら困るではないか。


「気にする事ないですよ、人の数だけ恋の形はあるっていいますですです。みんな同じようにラブラブ熱愛してたら、大変なことになったしまうですよ」

「それは本当に大変そうね。皆が皆、普段のアテナ達みたいにみたいになったらどうすればいいか分からないわ」


 主に目のやり場に、とコヨミが顔を赤くしている。

 お子様なコヨミにはまだ恋愛は早いようだった。






『+++』


 そんな風にコヨミとアテナがやり取りをしているのと同じころ、大通りの一画では、白いイヌ(?)を囲む子供たちがいた。


 シュナイデにある休憩寮の子供達だった。少年少女は、道で出会った白くてもふもふした存在にすっかり夢中である。


「あ、わんわんだ」「イヌヌだ」「わんこだぁ」


 お祭りの期間で、水上レースを見に行く子供たちは、町中に飾られているオブジェに目を輝かせながら、 レフリーに先導され歩いていたのだが、途中で出会ったその白い生物に釘付けになったのだ。。


「違ぇ、俺はイヌじゃねぇ。だったら何だと問われれば、何も言えないけど、少なくともイヌじゃないからな」


 メタリカではイヌと称される動物のこの世界の名称はイヌヌと呼ばれる。そのイヌヌと呼ばれるように見える白い生物は、なぜか子供用の改造フードで体を隠していた。


「喋った生意気ー」「生意気が言葉使った」「イヌヌなのに生だぁ」


 子供達は興味深そうにその白イヌヌの周りに集まり始める。


「ああ、面倒だな。つか、生イヌヌってなんだよ。あー。あいつマジで何してんだよ。イヌ……じゃなかった俺が建物の中に入れないのをいいことに」

「耳ー」「お手ー」「おすわりぃ」

「だぁあっ、やーめろー!」


 耳や手を触られモフモフされる白イヌヌ(?)は、我慢ならんといったように叫び声をあげるのだが、子供たちは聞かないまま。


「あらあら駄目よ、皆。ワンちゃんが嫌がってるでしょう」

「だからイヌじねぇよ!」


 保護者らしき女性がたしなめるが、子供はまるで聞こうとしない。


「聞けよ、たく。これからレース見に行こうってのに、時間きちまうじゃねぇか」


 会場に直接行くわけではないし、観客席をとる金はない。

 それでもレト達がレースを見る方法はある。


 それは水鏡だ。


 その本来通信用に使われる魔法を応用したもので、どこでも遠くの映像が見れるというものだ。

 波長の合う相手で、かつ同じよう用に水かがみを使える人間でなくてはできない魔法だったが、協会の白金騎士団が、新しい方法を編み出したのだ。最近になって。


 会場に集まった人間しか見れないのでは祭りの盛り上がらないので、水鏡を出現させ。町中の至る所に対抗策がとられているのだ。


 中でも港の水鏡は大きくて見ごたえがあると、話を聞きつけたレト達は今向かっている最中だったのだ。


 しかし、とレトは思考を脇道にそらしてディテシア聖堂教の事を考える。


「生活にしみこんでるよな。つくづく思い知らされるっていうか。俺はあっちの世界だからそうまで盲信してないんだけど。なんつったってあんな状況にいる人間を立ちなおさせちまうくらいなんだもんな」


 休憩寮や病院 蔵書館や学者の設立など、日常を見回すだけでも彼らの手は広く深い。


 しみじみと、そんなことを考えていると、レース会場に行くという言葉を拾った子供達が、これ幸いにと話しかけ始める。


「わんわんレースいくの?」「僕達と一緒」「一緒にいくの!」


 追い打ちをかけるように用事をすませたレトのツレが建物の中から出てきて茶化す。遅すぎた。


「なんだレト? もうここのちびっ子達と仲良くなったのか? 連れてってもらえばいいじゃないか、俺たちここの事あんまり知らないんだし」


 レトはじゃれついてくるというよりは、ほとんどぶつかってくるに等しい勢いで接してくる子供たちをの中心で、今の心境を心いっぱいに吠えた。


「お前いっぺんイヌになってみろ、そしてら俺の気持ちわかるからな!」




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