138 第36章 次元の違う近接戦闘組
ギルド ホワイトタイガー前 『+++』
数日前に迫った水礼祭のショーに出ることになった選や緑花、ミルストはギルドの建物の前で訓練をしていた。
彼らがやるのは演武だ。
向かい合う選と緑花、二人は拳と木剣を交わしてショーの演目の練習をしていた。
至近距離にいる二人は目に留まらぬやり取りを交わす。
選が木刀を振るえば、緑花は回避しざまに拳を放つ。その拳を、軌道変更した木刀でそらす選は、相手の足を狙おうと蹴りを放った。
「すごいですね、お二人とも」
離れたところで見つめているミルストは目の前で繰り広げられる、達人も絶句するようなやりとりにただただ感心するしかなかった。
そこに声をかけるのは建物から出てきた緑花の双子の妹……華花と、そんな二人の妹である水連だ。
「あの二人は小さい頃から、練習を積んでいますから」
「もうほんと、ソレしか頭にないのー? ってくらいアレばっかりやってるんだから、上手くもなるよ」
「なるほど、長年修行を積んだからこその光景なんですね。格好いいです」
そんな風に彼らが会話しているうちに、選と緑花は次元の違う近接戦闘に一区切りつけたらしく、その場から離れて距離をとっていた。
そして二人は、心底面白そうに笑みを浮かべ語り合う。
「とうとう決着をつける時が来たようだな」
「ふっ、そうね。この際だからどっちが強いかはっきりさせてやろうじゃない」
「どっちが勝っても負けても恨みっこなしだ」
「私たち自身の手で、今日ここで終わらせる……っ」
ただの練習のはずなのに異様な盛り上がりをみせるギルド前の空間。
先手は選が動くようだった。
「選王流、獅子炎超!」
選が木刀を振ると、何故か周囲に火の粉が舞うようなイメージが見え、緑花へと突進する選に追随する。
緑花はその技を回避するために跳躍、その勢いを殺さぬままギルドの建物の壁を足場にして、走り始めた。
「扇央流、秘儀、壁掛け! ……次いで落日拳!」
そして選の真上に来ると落下し、拳を彼に向って突き落とす。
「やるなっ!」
選はそれを木刀で受けた後に、緑花を上空へと跳ね上げる。
「ならこれはどうだ!」
選は力を貯めるように木刀を後ろ引いて、突き技をだすように先端を緑花へと向けた。
「必殺……」
そして発声とともに選の攻撃が放たれようとしたとき。
「危ない!」
その場に、ここいはいないはずのギルドメンバーの声が響いた。
視線を向けると、いつの間にか集まった見物人たちの一画に、ギルド本部の壁から飾りにつけていたオブジェがはがれて落下していく。目も合わせたくないようなホラーな鉄製の仮面が落下していった。
それに、緑花が対処する。
「でやあっ!」
空中にいた緑花が、選を足場にして再度跳躍、落ちてくるオブジェを足でけりとばした。
離れたところに落ちた不気味なオブジェは、粉々に割砕けた。
「あ、ありがとうございました」
そのままだったら怪我人になっていたかもしれない女性が、緑花にお礼を言う。
「当然! というか良く考えればアタシ達のせいよね。ごめんなさい」
緑花がギルドの壁を伝って壁走りした影響で落ちたのだろうと判断して、その女性へと謝る。
「こっちからも悪かった。あっ、じゃなくてすみませんでした。場所変えるべきだったか?」
選も女性に頭を下げて、ギルドの建物の方を見る。
相変わらず不気味な外見の建物は、飾りのオブジェが一個欠けた事で、少しばかり不気味さが増してしまったように見える。
そんな言葉に華花が答える。
「やっぱり、オブジェは外した方がいい思います。今日のような事はともかく、強風が吹いたら困りますし。ルーンさんには申し訳ないですけど。後で説明しておかなければなりませんね」
異論はないらしく、その意見にミルストも水連も同意する。
「賛成です、このままだと心配ですしね」
「ほんとだよ。それにお化け屋敷みたいな外見じゃ迷惑だもん。えーぎょうぼうがいって奴?」
建物に向かってプリプリ起こる少女に、最初に木気を知らせた少女コヨコは話す。
「ギルドが営業できるのはルーンのおかげでもあるけどね、ともかく怪我がなくて本当に良かった」
「コヨコ、さっきはありがとう、助かったわ」
「ホントだな、教えてくれなかったら大変な事になる所だった」
彼女の存在に気付いた、緑花と選が感心するように言えば華花も同意する。
「本当です。皆さん二人の戦いにばかり目を向けていたのに、よく気が付きましたね」
「え、ええまあ。たまたまよ、たまたま。それより、あの人達には何かお詫びをした方が良いんじゃない?」
コヨコは視線をそらし、声を詰まらせながらも言葉を返し、話をそらす為に別の話題に移る。
「そうですね、地域のお助けやさんが住民に怖い思いをさせたままではいけませんしね」
そう言って、何が良いかどうしようかと、相談する彼女達を見てコヨコは胸をなで下ろした。
「ふぅ、つい力を使っちゃったけど仕方ないわよね……」