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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
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130 第28章 手遅れかもしれない人達



 シュナイデ 医術寮 『コヨコ』


「お邪魔します……」


 コヨミは声をひそめてそっとドアを開ける。


 つい小一時間前、コヨミは久しぶりにギルドホワイトタイガーの建物に顔を出していたのだが、そこで依頼の処理に追われていた花華から、選や緑花の居場所を聞いてここへやって来たのだ。


 当然アテナから、美術館の件についてはあらかじめ聞いた様で、ギルドで姿を見なかったといってもそんなに混乱することはなかった。心配なことには変わりはなかったが、取りあえず意識もはっきりしてるし、ひどく大きな怪我をおっているようでもないらしい、と聞いていたからだ。


 それでコヨミは、前代未聞の速さで慌てて仕事を終わらせて、お見舞いの品を持って二人がいるらしい医術寮へと向かったのだが。


 病室のドアを開けるとそこには……。


「いち、に、さん……」

「し、ご、ろく……」


 目を疑うような光景があった。

 怪我人であるはずの二人が何やら腕立て伏せをしているではないか。


「あ、久しぶりだな」

「久しぶりね、コヨコ」


 二人が並んで良い汗かいてるみたいな表情をしながら、家を尋ねてきた友人に挨拶するみたいにこちらに声をかける。


「……な、何やってるの?」

「え、腕立て伏せだけど」

「腕立て伏せよね」


 二人はお互いの顔を見つめながら冷静に自分の現状について告げる。

 確かに二人はどこからどうみても腕立て伏せをしている。

 している、が。


「寝てなきゃ駄目じゃない、怪我してるんでしょ!」


 コヨコモードに入ったコヨミは、大声を上げて注意していた。

 自分達が怪我人であることを忘れているのではないだろうか、この二人は。


「いや、怪我したっていっても全然大したことじゃないし……」

「そうよ、皆大げさなのよ。後片付けしてたら、貧血でぶっ倒れただけなのに」


 あの後……ツバキが去った後。

 被害のあった美術館の後片付けや清掃に協力していた二人だったのだが。ここのところルーンの作品制作に協力した(主に精神的な)疲れが溜まっていたためか、倒れ込んでしまったのだ。


 よもや先ほどの少年との戦闘で負傷したのが影響では、と焦り始めた近くの職員達が心配になり大慌てて二人はここへ運びこまれる事になってしまった。


「骨が折れたわけじゃないんだ、まあツバでもつけときゃ治るって」

「そうそう、むしろ体動かさないほうが落ち着かないって言うか」


 と、こんな場所につれてこられた人間とは思えない様子で腕立て伏せの回数をこなしていく二人。

 コヨコがそれについて何か反論しようとした時……。

 開けたままだった扉から新たな客が顔をのぞかせた。


「あ、コヨコさん来てたんですね」


 やって来たのはミルストだった。


「あれ、どうしたんですか? そんな心配そうで、嬉しそうで、それでいてちょっと怒ってそうな絶妙な顔をして」


 そしてコヨコの顔をみるなり、とても適格に心情を見抜いてみせる。


「聞いてよ、この二人ってば……」

「あっ、二人とも聞いてください! 水礼祭っていうお祭りがあるんですけど、ギルドの宣伝のためにこれに参加しませんか」

「話を、遮らないでっ、これとっても大事なこと!」


 コヨコがいかに目の前の二人がいかに常識はずれなことをしているか説明しようとした矢先に、話は遮られ、着地場所を失って滞空した。


 ミルストは怪我人になんて提案してるのだろうか。

 いや、それとも自分がおかしいのだろうか。

 コヨコは不安になってきた。


「いいな、それいいアイデアだと思うぜ」

「お祭りなんて面白そうね、宣伝目的じゃなくても参加したいわ」


 二人はもう参加する気でいるようだった。


「ちょっとぉ……私の、意見も聞いてよぉ……」


 とりあえず、ギルドで一番常識人である華花がブレーキ役代わりになる事を期待しようと思う。


 だが、続いて現れた小柄な少女、緑花の妹の言葉にコヨコは悟った。


「あ、緑花、選も。もう起きたんだ。華花がどうしても大変な依頼入ったって言ってたけど、出れそう?」


 あ、これ駄目かもしれない。




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