127 第25章 地下遺跡内部
状況をなんとかする為にも姫乃は一旦、気を落ち着けた。
できれば使いたくないなんて言ってられない、この先ももっと必要になるはずなのだから。
背に腹は代えられないのだ。
姫乃は火の魔法を集中した。
火のイメージを形にする。
だが失敗だ。
「うまくいかないな」
そう呟いた時、別のところから火があがった。
明かりだ。
視線を向けると……。
「姫乃」
そこにいたのは、内部に火を灯したランタンのような物を持ったツバキだった。
「ツバキ君……? どうしてここに」
思わぬ所での思わぬ人との再会に、姫乃は当然驚いた。
ひょっとして助けに来てくれたのかな、とも思ったが違ったようだ。
「四宝を探していた」
「四宝……?」
探し物の用事があってここにいたらしい。
「姫乃は……」
「えっと、お城の中にいたはずなんだけど、限界回廊っていうとこに入ったら。よく分からないとこにいて、ここがどこだかツバキ君は分かる?」
明かりに照らされた周囲を観察する。
長い通路がのびている。
部屋の中とかではなかったらしい。
どうりで歩いても壁や端に着かないと思ったわけだ。
「ここは、エンジェ・レイ地下遺跡だ」
「エンジェ・レイ?」
地下遺跡ということは何となく察していたけど。
名前は聞きなれないものだ。
「千年前にシュナイデの地下につくられた遺跡だ」
「やっぱりここ、町の地下なんだ。四宝っていうのは?」
「百年前に製造された人智を越えた力を持つ道具だ」
「それが、ここにあるかもしれなくて。ツバキくんは探してる途中なの?」
「そうだ」
頷きと肯定の言葉が返ってくる。
歩き出したツバキの後ろを姫乃はついていく形で遺跡の中を歩く。
「ツバキ君はそれを探しだしてどうするつもりなの?」
「分からない。命令だから探している」
「誰かに言われたから、ツバキ君はいつも行動してるの?」
「そうだ」
ツバキくんに言ってる人は一体何のためにそんなことしてるんだろう。
「その人が悪い人だったら……、ううん悪い人だと思うけど。だったらなおさら、どうしてそんな人の言う事を聞いてるの?」
魔大陸を用意して憑魔を使って町や村を襲ってる人の言う事なんてどうして聞いてるんだろうと姫乃は思う。
何かしら理由はあるのだろうと思うけれど、ツバキの事を良く知らない姫乃には予想できない事柄だった。
「それは……」
答えようとするツバキ。
だが通路を進んで、左右への分岐点となっている所まで歩いてきた時、左右から奇妙な生物が現れた。
リーブス街道でも遭遇したツリーメメントだ。
大窯のような袋状の胴体に葉っぱのふたがついて、無数の根っこであるいて移動している害獣。
「下がれ」
ツバキは姫乃を庇うように前にでて、それらと戦い始める。
彼の実力は知っての通り。戦闘はものの数秒で終結した。
それからも何度か害獣とエンカウントしたが、姫乃が何か行動を起こす前に全てツバキが瞬殺していった。
敵にしたらきっとたまったものじゃないだろうが、味方でいてくれると本当に心強い戦力だった。
「炎って怖いものばかりだと思ってた」
それから少し経った後姫乃達は、周囲を警戒しながらも、一時休憩をとった。
弱ってきたランタンの内部の火に新たな火をつけ直すツバキ。
石の様なものをこすり合わせて、発生させた火の粉を注いでいる。
「こうやって明かりになってくれたり、温もりを分けてくれることもあるんだよね」
怖いって気持ちが全てなくなるわけじゃない。でも……、それだけじゃないってことが分かったから。
何となくだけど、今ならコントロールできそうな気がした。
これからの魔法の修行に希望が持てたところでツバキが唐突に立ち止まった。
前を向いて歩いていた彼が振り返る。
「そろそろ戻った方がいい。存在が薄くなってきている」
「え?」
「今のお前は、魂だけがここにある状態だ」
「えぇっ!?」
いきなりの発言に自分の体を見下ろす。
驚愕の事実を目撃してしまった。
透けてる……。
「ど、どうなってるの……」
これってもしかして幽体離脱みたいなことになってるの?
だとしたら私の体は?
限界回廊の中……とか?
今の自分、まるで幽霊みたいだ。
幽霊ってあれだよね。人を祟ったり、呪ったりして悪さをする。
良い幽霊もいるかもしれないけど、だいたいそんな存在だよね。
もう一度自分の体を見下ろすが。
うん、透けてる。
現実は逃避させてくれなかった。
あ、ちょっと、恐怖で泣けてきたかも……。
「こ、このままだとどうなるの?」
「……」
返ってきたのは無言だ。ものすごく不安になる。
スパっといつも何かしらは答えてくれる人が口を閉ざしたら、ものすごく不安になる。
「どうしよう、どうやったら体に戻れるの?」
「分からない」
感覚とかはあるのに、どうしてこんな状態になってるんだろう。
限界回廊って入ったらこんなことになっちゃうような所だったの?
軽くパニックに陥りそうになった時だった。
声が聞こえた。
『ー……』『……ん』『…………ちゃま』
聞きなれた声。
この声は、皆の声だ。
そう思った瞬間。体が上に引っ張られるような感覚がした。
限界回廊 扉の前
「わっ」
目を開けると、皆の顔が飛び込んできた。
未利、啓区、なあちゃん、それに離れたところに先生にアテナさんと兵士の人がいる。
「中で倒れてたから、びっくりしたしホント」
「誰かに怖い目に合わされたとかー、大丈夫だったー?」
「姫ちゃまがおめめぱっちりしたの。心配だったけどおはようになって良かったの」
中にいた姫乃を発見して外に運んでくれたらしい。
どうやらかなり心配をかけてしまったらしい。
「ごめん、それと……ありがとう。なあちゃん見つかったんだね」
「なあ、ごめんなさいするの。でも、お友達ができて楽しかったの」
限界回廊に入ることになった原因のなあが見つかった事に姫乃はほっと安堵する。
「とにかく、話さなくちゃいけないことがいろ色あるんだけど……、皆何だか疲れてる顔してるね」
そして自分が経験した体験、見て聞いて来た事を伝えねばと思ったのだが、見回した皆の表情の中にあるものに気付いた。
「姫ちゃんもね」「姫ちゃんもだよー」「姫ちゃま、ちょっとしおしおーってなってるの」
それはどうやらお互い様だったらしい。