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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
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125 第23章 出た



 回廊外 扉の前 『啓区』


 限界回廊から一足早く抜け出た啓区は、扉の向こうからなあが出てくるのに気が付いた。


「ぴゃっ、元の場所に戻ったの。びっくりなの」

「やー、何事もなかったかのように帰還したねー。大丈夫だったー? 何か恐ろしい目にあったりしてないー?」

「ぴゃ、こわこわーにはならなかったの? でも友達さんが一人増えて嬉しかったの?」

「そうなんだー、良かったねー。それってクレーディアとかいう灰色な女の人だったりするー?」

「ちがうの。ハルちゃまって女の子なの。体の向こう側が見えてすけすけしてたの。ちょと変わった女の子なの」

「うん、なあちゃんほど変わってる人ってそうそういないと思ってたけどー」


 変わってるねー。

 だけど、それってひょとしなくても幽霊なんじゃないかなー。


 そんな話を横で聞いてもアテナは顔色を変えずにいる。


「出遭われたんですね。時々出るらしいですよ。その様なものが」


 そう衝撃の事実を真顔で言った。

 アテナが特殊なのか、そうでないのか分からないが。

 この世界の人間は霊魂的なものに対する忌避感とかないのだろうか。


「なあちゃん、大丈夫ー? 何か肩が重くなったりー、心が病んで気力が減ってたりしてないー?」

「ふぇ、よく分からないの。でもなあは大丈夫だから大丈夫なの」

「そっかー」


 憑りつかれたり何なりの貴重体験はしていないようだ。

 中で具体的にどんなことがあったのかとか知りたくなったが、まずは大事がない事にほっとする。

 そうこうしているうちに……。


 また扉から影が出てきた。次は未利だ。


「未利ちゃまなの、でもなんだか元気ないの。どうしたの、ってなあ心配になるの」

「……」


 彼女は、不安げななあちゃんの言葉に反応せずに、こちらをじっと凝視し続ける。

 その意味に気付いた啓区がいつも通りの表情で話しかける。


「幻とかじゃないと思うよー。証明する手立てはないけどねー」

「……ちゃんと、戻ってきたワケか」


 疲れた表所を見せた後、少しだけほっとした様子を見せる。

 そして無造作に手をのばして、啓区の頬を引き伸ばした。


「うん。この感触、間違いなく本物だわ」

「あははー、僕のほっぺ証拠品として使われてるー。何度もつねられてきたかいあったかなー」


 未利はこねくりまわす指の感覚に頷いて納得したようだった。


「未利ちゃま、大丈夫なの? 顔色が良くないって思うの」

「平気だよ。別に」

「先に部屋に戻っとくとかするー?」

「姫ちゃんがまだなのに、帰れるわけないでしょ」

「だよねー。困ったねー。大丈夫かなー」


 それぞれが今だ現れない四人目について心配している様子ではあったが、もう一回入るのという意見は出なかった。


 まあ、当然だよねー。あんな場所好き好んで入りたくなるととこじゃないと思うしー。






 鏡部屋 『コヨミ』


「もーっ、ちょっとくらい良いでしょっ、グラッソの馬鹿」


 同時刻、グラッソの肩に載せられて運ばれてきたコヨミは城の一室にいた。

 内部には、至る所に大小、形様々な鏡が置かれれている。


「ううっ、もう……、融通がきかないんだから」

「そうですか」


 伝えたい事があったというのに、とコヨミは頬をふくらませる。

 ともあれ準備をすませてここまで来てしまったのでは仕方がない、言いたかった事とやらは夜にでも時間を作るとして、これからするべきことへとコヨミは集中する。


 部屋の天井からはいくつもの小さな水晶が吊り下げられていいる。

 多少の省略はあるが、それらは実際の星空を模したものだ


 コヨミは部屋の中央へ歩む。グラッソは扉を閉め、この部屋の窓へと向かう。

 この部屋は定期的に行わなければいけないある事をするための部屋だ。


 視線を下へ下ろす。

 床には特殊な塗料で描かれた魔法陣があった。


「グラッソ、お願い」

「そうですか」


 コヨミが呼び掛けると、グラッソは暗幕を引いて窓をまわり、外からの光を遮断していく。


 部屋には当然、暗闇が満ちる。だが徐々に明るさを取り脅して行った。

 吊るされた石と、魔法陣が光を放ちはじめたからだ。


「この世界の未来を……示して」


 そしてコヨミが行うのは、いつもの人に対する未来予知ではなく、もっと大規模な世界全体の行く末を見るものだ。


 目を閉じ集中。

 意識を開いて、広大な世界へと飛び込む。


 星の瞬きの様な天上の空間を身一つで漂うような、心もとない感覚を味わいながら、未来を読み取っていく。


 しばらくして、コヨミは目を開いた。


「浄化能力者は、未だに見つからない……か」


 そして落胆の感情とともに、結果を口にした。



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