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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
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121 第19章 限界回廊(姫乃)



 お城の中を歩きながらなあちゃんを捜索し続ける事、約一時間……。


「見つからないね、どこに行っちゃったんだろう」


 影も形も見えないことに姫乃は段々と不安になっていく。


「まさか城から出ているなんて事はない……、なんて言い切れないのがなあちゃんだし」

「困ったねー。ちょっと心配だよー」


 とりあえず何でもいいから、何か情報がほしかった。

 通りかかった部屋の前、そこに立っていた兵士に行方を尋ねる。


「あの、私達よりちょっと背の低い女の子見ませんでしたか、いえコヨミ姫様ではなく……」

「ああ、実は……」


 兵士は姫乃の言葉に、表情を気まずげに変化させる。


「ちょっと目を離した隙に、それらしき女の子が一人、入ってしまって。すいません。もう一人に今アテナ研究主任を呼びにいかせてますので、少々お待ちください」


 どうやら居場所はここでいいようだった。

 ようやく仲間の居所の目星がついてほっとする。


「中には勝手に入っちゃいけないんだよね」


 それにしても、と目の前の部屋のドアを見つめる。

 何の変哲もないドアノブのついた普通のドアだが、実は特別な部屋とかで、許可がないと入れない場所なのだろうか、と思う。


「ここは限界回廊ですから」

「限界回廊、ですか?」


 言葉の響きからして、何か不穏な感じがする。

 詳しく聞こうと兵士へ先を尋ねようとするが、そこへアテナが到着した。


「お待たせしましたです」


 説明は彼女からされる事になった。


 限界回廊と呼ばれている、その空間は、何でもありの不思議空間になっているらしい。

 元は普通の部屋だったはずなのに、一体どういう原理でこんな事になっているのかさっぱり分からないが、百年ほど前からこのような状態になってしまったらしい。


 だが利点もあるので下手に正常な状態に戻そうとすることも出来ないのだという。

 アテナ達は、この限界回廊を利用して非常時には、ある場所へのワープ装置として使ってるらしいのだ。


「あの、扉を開けるだけですよ。それ以上踏み込まないで下さいですです。どうなっても不思議じゃないですので、どうにかならないようにしないとですです」


 扉を開く許可は下りたものの、そんな物騒な注意をアテナはこれでもかというぐらい念入りにしてくる。兵士も顔を青くして何度も同意するように頷いていた。


「そこまで言われると、ちょっと怖くなったってきたかな……」

「一体どんなとこなワケ、お化け屋敷かなんかなの?」

「お化け屋敷だった方がいいかもねー。種も仕掛けもあるんだしー」


 冗談で済ませられないような雰囲気に、姫乃達は顔を見合わせたりちょっぴり青くしたりだ。


 ともあれいつまでもそうしているわけにもいかない。姫乃は扉の前に立ってドアノブを握ることにした。


「じゃ、じゃあ開けるね」


 そしてゆっくりと回していく……。







 姫乃はいつの間にか別の場所にいた。

 いつの間に、と思う。

 周囲を見回してみるが他の皆の姿はない。


「あれ……、ここは」


 そこはどこかの建物の屋上……、というか最近行った場所だった


「ここってシュナイデル城の上?」


 星詠台(ほしよみだい)だ。

 姫乃は瞬間移動したということだろうか?

 限界回廊の力で?

 だが、中には足を踏み入れなかったはずだ。

 それなのにどうして……。


 疑問に思い観察をつづけていると、離れているところに人がいる事に気が付いた。


 灰色の髪の女性、そして桃色の髪の女性、その二人から距離を置いて立つ城の兵士達。

 兵士たちの服のデザインが姫乃の知っているものとは若干違う。


 それに、二人の女性が見に着けているドレス。コヨミ姫が着ている物としか比べられないけど、厚手の生地に彩度の低さもあってか少し古めかしい印象を受けた。


 桃色の髪の女性は、手すりの方に向かう灰色の髪の女性の背中へと語りかける。


「馬鹿なことは止めて、クレーディア。そんな事をしてもアイナ達は喜ばないわ」

「分かってるロゼ……でも。無理。こんな辛い気持ちを抱えて生きていかなきゃいけないなんて、私には無理」


 クレーディアと呼ばれた灰色の髪の女性は、星詠み台の手すりを握る手に力をこめた。

 真っすぐに向けていた視線を、下の方へとゆっくりと落としていく。


「こんな……心なんて、いらなかった。こんな事になるなら、私は……、感情なんていらなかった! 道具で良かった!!」


 表情は見えない、だけど言葉だけでも胸が張り裂けそうな感情が伝わってくる。


「クレーディア。お願い。そんな事……言わないで」


 ゆっくりと近づいていくロゼだが、その歩みは間に合わない。


「もう嫌だ。何も知りたくない」

「止めて!」


 クレーディアは手すりを乗り越えて、空中へと身を躍らせる。

 ロゼの伸ばした手は届かず、その体は重力に惹かれて落ちていく

 姫乃は自分がどうしてそんな場面に居合わせているのか分からず、ただその場に立ち尽くすしかなかった。



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