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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
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118 第16章 険悪続行



 エアロの頭部に何かが当たったらしく軽い音がした。

 視界に黄色い塊が落下する。


「何するんですか!」


 犯人は未利だと思った。

 視線を向ける


 姫乃達は、もうすでに訓練を終えていたらしい。

 額から汗を流しながら、ぐったりした様子で座りこんだりして休憩していたようだったが、その中の一人が、見た事もない黄色い動物の人形をこちらにむかって投げたようだ。

 投擲フォームをしているのはやっぱり未利だ。


「ぴゃあ、アヒルさんがエアロちゃまの方へぴゃーて飛んでっちゃったの」

「アヒルさんは飛行能力を身につけちゃったんだよきっとー、他の人と遊びたかったんじゃないかなー」


 なあと啓区の会話からその物体の名前はアヒルだという事が分かった。

 分かった所でそれがなんだといいたいが。


 ズンズンいう表現が似合うような様子で未利がエアロの目の前まで歩いてくる。

 そのすぐ後ろに慌てたように姫乃がついてきた。


「このバカ、アホ、マヌケ、ウスノロ、カバ、ボケ」

「なっ」


 いきなりの罵詈雑言のオンパレードだった。一部何だか分からない言葉もあったが。


「ええっ、未利。昨日と言ってる事ちが……」

「アタシにエラソーに指図してきたくせに、一人だけ傍観決めようとか何様なワケ! アンタ、いっぺんそこでエラソーにしてるおっさん達にしごかれて、全然大したこと無かったとかいう無様な姿アタシ達に見せたら!」

「ちょ、ちょっと……」


 姫乃が制止しようとしているが、そちらに気を回していられる場合ではなかった。

 あんまりな言いようにエアロは、早期に自制するのを取りやめた。


「大魔導士様に向かって何て口聞いてるんですか、失礼にも程があります。貴方は自分の態度を一度省みるべきです」

「態度ぉ!? 何それ美味しいの!? アンタみたいに他人にやたらめったらこびへつらって何か得でも生まれるワケ!?」

「こび……っ! わたしの姫様への敬愛を侮辱しないでください!!」


 エアロが我慢できずに手を上げようとすると、姫乃が間に割って入った。


「止めて、二人とも! 少し落ち着いて!!」


 普段の様子からは想像できない大声だった。

 至近距離で聞いた事で少しは頭が冷えた。


「そうですね、大魔導士様。お見苦しい所を見せてすみません」


 エアロは近くではなく遠くにいる二人へと頭を下げる。


「もう、どうしてこうなっちゃうの……」

「……うっ。ごめん、姫ちゃん」


 未利もすまさなそうに姫乃へと謝る。

 それで二人して、何やら話しをしているようだったが、訓練室を出ていくエアロには内容は聞こえなかった。


「素直に、一緒に練習しようってどうして言えないのかな……」

「そんなこと別に……。思っては……ないけど。ないから、ない事にしたいってうか……ごにょごにょ。だってムカついて……」

「はぁ……」






『啓区』


 ため息をつく姫乃と居心地悪そうにする未利。


「まーまー、休憩なんだし、休憩らしい事したらいいんじゃないかなー」


 それらを見て離れたところで傍観していた啓区が声をかけ、場の緊張が解ける。

 見計らっていたように雪菜先生の差し出す水を姫乃達は受け取る。

 そのまま休息を取っている中。


「よっせっと。そういえばこういうときに真っ先にケンカ駄目なのーって止めるはずの人がいるはずなんだけどねー……」

「ふぇ?」


 と、啓区は視線を向ける。

 てっきり割り込んでいってとばっちりをくらいそうになるかと思っていたのに。

 そうならない為に、しっかりとなあちゃんの襟首をつかむ準備をしていたのだが。


「うんと、えっと。なあなんとなく止めなくてもいいかなって思ったの」

「へー、そうなのー?」

「うんと。なあは、良いケンカさんだと思ったの。仲良しさんになったらきっともっと仲良しさんになるケンカだと思うの」

「そーなんだー」


 なんとなく啓区はそれ以上聞かず会話を打ち切り、自分の服のポケットを確認する。

 うめ吉が顔をのぞかせて、啓区がその甲羅をパカッと上に開いた。

 それを近づいてきた姫乃が目撃した。


「えぇっ、それ開くの?」


 はい突っ込み入りましたー。


「パカってしてるの。うめちゃまの甲羅がパカってしてるの!」


 聞きつけた未利や目を輝かせたなあちゃんに囲まれる。


「うめ吉の健康診断だよー。大事だからねー、こういうのはー。あ、あったあったすっかり忘れてたよー」


 啓区は中にある配線や部品などを一つ一つチェックしていく。

 ちなみにメンテナンスモードのうめ吉は、停止中なので相槌をうったりはしない。


 それを眺めていたギャラリーが、中に交ざっている毛色の違う四角い物体について指摘した。


「何か関係ないもん入ってない? それ」

「これって、どこかで見たような……。そうだ、お子様ランチとかのおまけとかにあったりガチャガチャに入ってたりする……」


 啓区はそれを周囲の配線を引っこ抜かないように慎重に取りだす。


「そそ、携帯のミニゲーム機ー。忘れてたよー。しまってたんだー」

「仮にも見た目が生き物してるロボにそんなもん置き忘れんな」


 未利の突っ込みはもっともだった。

 他の配線を圧迫したりしないでよかったーと、思う。

 入れた記憶がないということは、きっと何かの拍子で入ってしまい気付かずに蓋をしてしまったのだろう。


 試しにボタンを押すと電源が入った。

 このゲーム機は電池式だ。まだ生きていたらしい。

 画面が点灯し、飛行機のドット絵が横方向へと動きだす。


「これって、シューティングゲームだよね」

「そうそうー」

「うーん、これにもうちょっと機械を乗せて改造できれば、もう一つの通信機にできるんだけどー無理かー」


 喋りながらも手は自動的に飛行機を操作していく。画面に現れる障害物や的を上下へ動いて避けて進んでいく。


「わ、うまいね」

「それほどでもー」

「とか言いながらすいすい動かす、この手付き。こいつ慣れてる……」

「ぴゃ、飛行機さんがひゅんひゅん行ってるの、頑張れってなあ応援するの!」


 なんだが、無性にやりたそうな視線が周囲から注がれてるような気がして、啓区は飛行機を被弾させてゲームを終わらせた。


「あ!」

「ちょい!」

「ぴゃ!」

「休憩だしやるー?」


 次の瞬間ちょっとした抗議が起きたのは予想外だった。

 空気が読めてなかったらしい。



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