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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
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114 第12章 ホワイトタイガー



 コヨコの提案で少し前に持ちかけられたギルドの設立は果たされた。

 アテナやルーンその他の協力を経て、設立されたそれは試験的に開かれている。

 ギルド名はホワイトタイガーだ。

 選が以前所属していた組織の名前らしい。


 アテナのお説教によってまず選達と友達になった後、コヨコはメンバーを決めた。

 コヨコ、選、緑花、ミルスト、華花、の五名だ。アテナとルーンはお手伝い的な位置にいる。


 そして、アーバンの町でのギルド前例を上げ、色々相談事を煮詰めて、活動計画を進めた。とりあえず当分は、人数が少ないので、何かの依頼を受けたら動けるメンバーがそのままこなすという事になった。


 住人からの認識は何でも屋に近いだろう。

 こういう組織は仲介約として腕のある人を見つけて、依頼を紹介するのが本来の流れらしいが。今までにない事をすると、何が起こるか分からないということで、現在のような形に落ち着いている。


 それで、数日経過して今のギルドの状況を緑花から聞くのだが、万屋というか困った時の駆け込み所みたいな感じになっていた。

 最初の頃は雑用とか、小さな事ばかりだったのだが、わざわざお金をしてもらうのだからと、だんだんと規模の大きな依頼が増えてきたという。


 最近は、それぞれのメンバーも慣れてきたようで、受付として華花やミルストが書類仕事をしたり、選や緑花が現地へ行って解決したり、ルーンやアテナが足を運んでは雑事を手伝ったり、イチャイチャしていったりの風景が、いつもの日常としてなりつつあった。


 数日ぶりに顔をだしたコヨコはそれらを聞き終えて一言。


「上手くいってるようで何よりだわ。私ももっといろいろ手伝えたらいいのに」


 うまくいってるのは嬉しいが、そこに自分が必要ない気がしてちょっとだけ寂しかったりもする。


「私だって、魔法……はちょっと特殊なのしか使えないけど、書類仕事……はどうやってやるのか分からないけど、掃除とかぐらいならできるし」


 しかしあらためて何かしようとしても、自分の能力のあまりの使えなさに頭を抱えたくなった。


「後は、ゴミ出しとか雑巾がけとか、料理とかならちょっとできるし……」


 他に何かないかと口に出すものも、どれもここで働くにしては必要だといえるようなものではなかった。

 これでは完全に下っ端ではないか、と自分で言っておいて愕然とする。


「まあ、コヨコにしかできない事があるわよ。そのうち見つかるわよ」

「そ、そうだといわ」


 本当に。

 言い出しっぺである自分が対して役に立たないのは割と辛い現実だ。


「それで、収入の方はどうなの? 効率は良くなった?」

「そうねぇ、お金は華花に管理してもらってるんだけど、前よりはよく稼げてると思うわ」


 緑花は慣れない頭脳労働をしているらしく、眉間に皺を寄せ目をつむって考え込む。


「同じ金額でもっと危険な仕事もあったわ。全体を見れば、ちょっとだけ危険は増えたけど、あたし達なら大したことにはならないし、プラスになってると思う」

「そう、それを聞けて良かったわ」


 ギルドとやらの恩恵がどのようなものか知りたいという気持ちもあったものの、元々は緑花達に恩返ししたいという気持ちもあったので、その言葉を聞けてコヨコは少しだけ安心した。


 そこへ腕を組んだルーンとアテナがやってくる。

 空気に色をつけるとするなら桃色が似合いそうな、そんな雰囲気を作りだしながら。


「今日も本当に女神のように可愛いねアテナ。いくらでも目に入れておきたいよ」

「もうそんなに褒めても何も出ないですよ。ルーンこそ今日も素敵ですです」


 耳を澄ませばそんな砂糖をさらに甘くしたような会話内容だ。

 この二人はセットにすると、人目もはばからず絶えずイチャイチャしまくる。

 コヨコは呆れた視線を向けた。


 普段はすごい冷静で現実的なことしか言わないししないのに、恋をすると人って皆ああいう風になっちゃうのかしら。


「アテナさん、久しぶりね」


 普段人を呼ぶときは呼び捨てである緑花はアテナのことをさんづけして呼ぶ。これは選やミルスト、華花もそうだ。

 大人だって事が普段の物腰や言動からで分かるからだろうか?

 自分の方が偉いはずなのに、背丈は同じくらいなのに、どうしてなのか釈然としない。友達なのにさん付けは困るが、釈然としないのだ。

 あんな砂糖空間を見た後だと尚更そう思う。


「久しぶりです。毎回毎回うちのちびっ子がお世話になっているですです」

「友達だからな」

「友達だもの」

「貴方達が良い人達でよかったですよ、ホントに。ちょっとくらい迷惑かけられても見放さないであげてほしいですです」


 困った娘を持ったお母さんみたいなことを言われて、コヨコはもちろん慌てる。


「め、迷惑なんてかけてないわよっ」


 そのかわり利益も生み出していないが。

 自分の言葉に自分でショックを受けて、うなだれる。


 今度はアテナの横でルーンが口を開く。


「ギルドとやらはちゃんと機能しているようだね。具合はどうだい」

「バッチリですよ。収入も前より全然いいです」

「そうかい、それは良かった」


 そういいながら緑花が運んでおいた、絵の具の入った容器へと近づいていく。

 これから壁に絵を書く予定なのか、腕まくりしはじめたルーンだが、残念ながらコヨコの意識は落ち込んでいるばかりでまったくそちらに向かなかった。


「ところで今日は君達にお願いがあってきたんだけど」


 そしていざペイント、というところで、ルーンが思い出したように緑花に告げる。


「美術品のモチーフの依頼なんだけど、断崖絶壁でちょと生死の境をさまよっってもらえないかな」




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