113 第11章 ホラーギルド
カランドリ ギルド ホワイトタイガー 『コヨコ』
一般的な所得の者が住む町並み、小さな家々や店などが立ち並ぶその一角に、一つだけ目立つものがあった。
それは木材で組まれた頑丈そうな建物だ。
やや周囲より背が高くて、周囲に満ちる庶民的な雰囲気から外れているような感覚はあるものの、それだけをみれば、まだまともだ。
だが、細部に目をこらすと途端に、おかしくなる。
まるで地獄の業火に身を焼かれでもしているかのような表情の面や、最愛の人を目前で失ってしまったかの様な……そんな絶望の表情を刻んだ木彫りの面が、外壁を飾っていたのだから。
「なあお前、中入っていけよ」
「やだよ怖いよ。入ったりなんかしたら中にいる人食いの化物に食べられちゃうよ」
そこは、ご近所の子供達に、ホラースポット扱いされるような場所だった。
そんな様子を横から見つめる少女、コヨコ。
空を仰いで心の中で叫んだ。
……私達のギルドの建物。どうしてこんなになっちゃってるの!?
少し前まではあんな恐ろしげなものは貼り付いていなかったはずなのに。
まあ、それも中に入れば分かる事だろう。
そう思い、事の真相を尋ねる為に建物の中へと入ろうとするが……。
「あっ、駄目だよお姉ちゃん。食べられちゃうよ」
「馬鹿、早まるな。どんな辛い事があったか知らなけど、強く生きてれば幸せだって見つかるんだぞっ」
未だ近くにいたらしい子供たちに引き止められる。
「いや、あの。ここはそんなに恐ろしい所じゃないわよ。中にはとっても親切な人達がいるだけなんだから。困ってる事があれば何でも解決してくれる凄い人達なんだから」
誤解を解きつつ宣伝もかねようとそう言えば、子供達にブンブンと首を振られる。
「お姉ちゃん騙されてる」
「悪い奴が必ず悪い顔してるとは限らないんだぞ」
それは確かにそうだが。
というより、中に入れとけしかけてた子まで止めに入るのはどういう事なのか。
ただ友達が怖がるのを見て楽しんでいただけなのか。
「こう見えても私、中の人と友達なのよ、絶対大丈夫だから」
とりあえず、見せた方が早いかもという事でコヨコはその建物のドアを開けて見せた。
「うわぁぁぁっ、もう駄目だぁぁぁ!」
「この世の終わりだぁぁぁっ!!」
今まさに入ろうとしている建物の壁にかかっている面のような表情で叫びだす子供。
大げさね、と思って室内に目を凝らすと……。
血まみれの少女が床に倒れた状態でこちらを見ていた。
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
コヨコはこの世の終わりのような顔で叫んだ。
建物の内部は木の香りが満ちていた。
それに混じって、かすかに甘い花の匂い。
コヨコは緑花に向かって、猛烈に抗議していた。
「び、びっくりしたじゃない。死体かと思ったじゃない。子供達なんて、ここが呪われた場所だって誤解したまま逃げていっちゃったじゃない!」
「ごめんごめん、ルーンさんの絵の具運んでたら、利用者の誰かが放っていった果物の皮に足をとられちゃって……、建物内飲食禁止って張り紙貼るべきよね」
応じる緑花は平謝りだ。
過ぎた事をいつまでも言いあっていても仕方ない。
それはともかく、とコヨコは建物の内部を観察する。
案の状、だった。
一見すると普通に見える。
中にある掲示版や、机、イスなども同様に新品でまだ汚れも傷もあまりついてない。できたばかりの内装に華を添えているのは、華花という緑花の双子の妹が手作りしたキルトの飾りだ。
だが細部に目をこらすとおかしい物がちらほら目に入ってくる。
部屋に飾られている絵画。そこに描かれている人物の顔がことごとく恐怖に満ちていていたり、絶望し きっていたり、悲嘆に暮れてたり、憎悪に染まっていたりしているのだ。
「ひょっとして、ルーンが持ちこんだの?」
「そうよ。この絵の具もルーンさんが壁に絵を描いたらどうかって言ったから」
アテナの彼氏である、ルーンは少し変わった芸術家だ。
一般的な作品も作れないことはないのだが、彼はなぜかこういう人をことごとく恐怖させるような作品ばかり作りたがるのだ。
「止めさせるべきよね」
このまま放置していたらどんな混沌とした場所になるか分からない。
次に会ったら、何としても説得しなければとコヨコは決意した。
それはともかく、
「ひさしぶりね、とりあえずどんな事があったか聞かせてくれる?」
顔を出せなかった数日分の出来事について尋ねた。