104 第2章 シュナイデル城
コヨミ領 統治領都シュナイデ
船は港に着いた。だが姫乃達は降りずに景色を眺めていた。
海に面する町シュナイデ、港の近くに立つ白のお城シュナイデル城がまず目に入る。
エルケで見たものより大きくて、頑丈そうな城壁に守られている。
そして内陸に向けて、街並みが広がり、沢山の建物がひしめている。
しばらく建物を目で追うと、視線は山肌で止まる。
急斜面のそこにはぽつぽつと建物がへばりつくように建っていた。
イフィールから聞いていたので、少しだけこの町の事は知っていた。
所得の多さに応じて住むところが三つに分かれてる、だったか。
山肌に家を建ててるのはお金も地の人達だ。
あんな所に建てるなんて怖くないのだろうか、落ちてしまわないか見てて心配になる。景色はきっととても良いのだろうが。
考えているうちに船は港を離れていく。
今寄った一般の港だった。一般の人や、郵送物などを降ろさねばならなかったからだ。
この船に一般の人は乗っていないが、それでも郵送物はそれなりに積んであったらしい。
預けた人はウーガナ達がたぶん海賊だって知らなかったんだろうな。
「なんかこの感じ久しぶりかな」
降りた人達の声が離れていくのを感じながら、姫乃は喋る。
「エルケ以来だよね、こういう賑やかさは」
旅で立ち寄ったのは小さな町ばかりだったし、クロフトの町は住人が少なかった。クリウロネには人はいなくて、ロングミストのアレはちょっと違うだろうし。
「ぴゃ、人がいっぱいなの。たくさんなの、わらわらなの」
「ちょっとした町一つぶんくらい?」
「小さい町ばかり立ち寄ってきたからねー」
姫乃の隣でそれぞれが感想を話している。
なあちゃんは興奮した様子で、未利はそのなあちゃんが身を乗り出しすぎて落っこちないように気をつかいながら、啓区はいつも通り笑顔で。
田舎から出てきて都会の様子にびっくりするのと似たようなリアクションを取りながら、姫乃達は離れていく港を見つめる。
ややあって船は目的の場所についた。
お城の兵士が利用する専用の港だ。
姫乃達はそこでようやく久しぶりの地面へと降り立つ。
「見世物になりたくなかったら、ぼーっとしてないでさっさと歩いてください」
お縄につないでいる海賊達はエアロや他の調査隊の人がつれて歩いていく。
「さあ、行くぞ。我らが主コーヨデル・ミフィル・ザエル様の居城にようこそ」
姫乃達はイフィールに案内されて、城のお城の中へと足を踏み入れた。
シュナイデル城
姫乃達は兵士達に入れてもらった門の先、お城の中を緊張しながら歩いく。
「お金かかってる」
「かかってなかったらそっちの方が逆に怖いよー」
何故か小声で話す未利、そのボリュームに合わせる啓区。
お城……シュナイデル城の中は広かった。そしてすごかった。
一区画ごとが、幅が広かったり、天井が高かったり……、通路には綺麗な絵が凝った意匠の額に飾られていたり。
住む世界が違う光景だった。
そんな事を考えながら歩いていると騒がしい声が耳に入った。
「貴方達が金冠の調合士の助手ね。話には聞いてたけど、本当に子供なのね。子供に見える大人とかじゃないの?」
緩やかなウェーブのかかった金髪の少女が目の前に現れてそう言った。
このお城の人だろうか?
「あ、こら。何してるですか。さっさと謁見の間に戻って着替えてください。兵士みたいに制服なんか着こんで、まったくですです」
そこにさらに別の女の子がやって来た。ボサボサの髪を無造作に束ねただけの少女だ。
その少女は、金の髪の少女の襟首を掴む。
「ちょ。引きずらないでよっ。自分で歩くってば!」
そして、ずるずると引きずりながら、そのまま視界から外れていった。
「えっと」
「何あれ」
「ぴゃ、仲良しさんなの」
「あはは、面白い人達だねー」
何だったのだろう。
イフィール達が頭痛をこらえるような表情をしていたのだが、姫乃達は気付かなかった。