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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第四幕 マリオネットの踊る舞台
137/516

102 序章 目覚めた世界は



 譜歴672年 シュナイデル城 『クレーディア』


 クレーディアはぼんやりとした意識のまま、目を開いた。

 灰色の髪をした十代後半くらいの年の女性だ。

 クレーディアは頭を起こし。周囲を見回す。自らが寝ていたそこは、良く知っている場所だった。


 シュナイデル城の医務室。

 直接世話になった事はないが、怪我の絶えない知り合い達のせいでよく足を運ぶ場所。


 自分はその部屋のベッドの上で寝ていたようだ。

 どれくらいそうしていたのかは分からない。

 近くに知ってる顔があったので話しかける。


「どうして……ここに……?」


 自分が何故こんなところに寝ていたのか思い出せず、そんな問いかけを発する。


「覚えていますか? あなたは遺跡の中で倒れていたのですよ」


 目の前の女性、ラダンの町にいるはずの南領の統治領主、ロゼ・スシュタールが痛ましげな表情でこちらを見つめていた。


「遺跡……、っ……!」


 思い出した。なぜこんな簡単な事にすぐ重い至らなかったのか。

 あの遺跡での戦いの場で、最後まで皆に付いていくことも出来ずに敵との戦いで倒れてしまったのだ。

 己の無力さを噛みしめるが、すぐにそれ所ではないことに気付いた。


「皆はっ!」


 どうなったの? 無事なの? 怪我は?


 ロゼに問いかけるが、答えは返ってこない。


「アイナは? サクラは? シンカー達も……」

「シンカーは無事です、けれど……」

「……」


 ロゼは表情を曇らせた。

 それがもう、返答だった。


「どこに……いるの?」

「彼らは、もうこの世界のどこにもいません。命を、落としました。アイナさんは……死んでしまって、一緒にいたリクもです。サクラはおそらく例の話通り消滅してしまったのではないかと……」

「……嘘」


 皆いなくなってしまった。

 そんな現実を、クレーディアは認めるわけにはいかなかった。

 認めることなんてできなかった。


「そんなの嘘」

「……」


 拒絶の言葉に、ロゼは答えない。

 クレーディアはベッドから起きて、その場から逃げだした。


「クレーディア!」


 そもそもの体の作りが人間の女性とは違う。

 寝起きのものとは思えない俊敏な動きにロゼは付いてこれなかった。


「待って、今の貴方が無茶をしたら取り返しが付かない……っ、もうエマは……」


 クレーディアは背後から聞こえる声に悟る。

 エマ。エマ―・シュトレヒム。稀代の機術士と呼ばれた彼も死んでしまったのか。


「こんな事なら……。こんな事になるくらいなら、ずっとあの場所にいれば良かった! あんた達のところになんか来なきゃ良かった。こんな事になるくらいならっ、感情なんていらなかった!」

「クレーディア……っ、待って!」


 クレーディアはどこへ向かうかも意識しないまま城の中を走った。




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