第4章 海の男 05
ぽつりと、冷たい雫が頬に当たって。空を見上げる。
雨が降ってきた。さっきまで晴れていたのに空はいつの間にか厚い雲に覆われている。
「嵐が来る。縄を解けこの野郎。誰が船操んだよ」
だんだんと強くなっていく雨を見てとり、ウーガナが調査隊の人達に抵抗している。
流れていく雲へと視線を投げかけ、眉間に皺を寄せながらだ。
この先の天気が分かるようだった。
そういえばと姫乃は思う。
どうするのだろう。
この人達、海賊だけど一応船を動かせるんだよね。
「他の者でも動かす事ぐらいできるだろう、リーダーである貴様を自由にするとでも?」
「クソが、嵐で沈んじまえ」
「その場合、貴様も運命を共にする事になるが」
「うるせぇ」
イフィールは、なおも罵声を浴びせるウーガナを先に行かせた後で姫乃達を中へと促す。
「風をひく、中に入ろう」
調査隊の他のメンバーの驚いたような声があがったのはその時だった。
「何だ、あれは」
船の横に水柱が立つ。
何か巨大なものが自ら出てきて、それが大量の水を吹き上げたのだ。
その水の遮蔽物が重力に従って落下する。
そこには体長三十メートルはあろうかという生物がいた。
白くて、頭は細長くなっている、波間からは(ここからじゃ確認できないが正確には多分十本くらい?)足が何本か見えてて、大きくて淀んだ赤い瞳がこちらを見ている。
「イカが巨大すぎる件について……、この現実いかが?」
隣で未利がおかしな事を言っている。
だが姫乃も目を疑った。
いきなり船の横にそんな巨大生物が現れたら驚くだろう。
「あれがここ最近、海を荒らしているという噂の魔獣……。出てきたか。お前たちは中へ入っていろ。隊列を組め、炎系統の魔法をお見舞いしてやれ!」
待っていたとばかりにイフィールさんは、すばやく指示を飛ばして、仲間と共に甲板へと向かっていく。
「私達にできる事は」
「さすがにないって、あんな巨大生物。霧の魔獣も大概だったけど、その上を行く奴がいるとは」
姫乃の魔法は水系だ、相性が悪い。さすがにこの状況で力になれるとは思えなかった。
このまま出ていったところで邪魔になるというのも分かっている。
だが、それで大人しくできる自分でないという事はもう分かり切っている。
「考えなきゃ……」
どうにか力になれる方法はないかと考えていると、何かが軋むような音がした。そして大きなものがぶつかるような音。
そしてゆっくりと船体が傾いた。
「きゃっ」
「うわっ」
塗れた床に足を滑らせた。
未利は、ドアの取っ手へと捕まったが。姫乃の体は斜面を滑っていこうとする。その時、自分の手を何者かがつかんだ。
「無事か」
「ツバキ君?」
そこにいたのはしばらく見てなかった褐色の少年だった。
「ありがとう」
幸いな事にすぐに船体はすぐに戻った。
何が船体を、と見ると。
その巨大なイカが船に乗りかかろうとしていたのだ。
そんな事したら船がひっくり返ってしまうかもしれない。