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白いツバサ  作者: 透坂雨音
幕間
130/516

第4章 海の男 04



姫乃の姿を見て海賊達が反応する。


「あ? ガキじゃねーか。何やってんだよあいつらは」


ウーガナは、危機を感じるというよりは不信を募らせて発言した。


「もう一度言います。その人から離れて」

「てめぇ、人質が見えないのか。生意気な目しやがって。つうか、なんでこんなガキんちょが調査隊にくっついてんだよ」


 イフィールがそこらへんの事情を聞いていなかったのかそれともまともに耳に入れようとしていなかったのか、ウーガナは理解できないといった様子だ。

 彼は周囲を見回して、眉根を思いきり寄せる。


「どいつもこいつも気にいらねぇな。何が楽しくて、他人の為なんかに生きてんだ。下らねぇ」

「お前は可哀想な人間なんだな」

「何だと」

「可哀想だと言ったんだ。ならばこちらから問おう。自分の為だけに生きてきて楽しいか?」

「誰かの為、なんて結局自分の為だろうが。それなら偽らないだけ、俺達の方がマシってもんじゃねぇのかよ」


 その答えにイフィールの返答は憐憫の言葉と視線だ。


「ああ、お前はやはり可哀相だな」

「この(アマ)……っ!」


 ウーガナが目の前の女性を引っ叩こうと腕を振り上げた時、


「ぶっ飛べ!!」


 猛風が吹いてウーガナを横合いから吹き飛ばした。手すりにぶつかって痛みにうめいている。

 船内の中から隠れていたらしい未利が出てくる。風の魔法を使ったのだ。

 それをきっかけに調査隊の面々が反撃に出る。

 甲板にいた船員達はあっという間に鎮圧されてしまった。






「ちょっと姫ちゃん、段取りが違くない? ……まあ、気持ちは分からなくもないけどさぁ」


 事態が落ち着いたところで、打ち合わせにない行動をとったらしい姫乃に未利が苦情を言う。

 同じような気持ちを抱いたらしく、内容については特になにも言わないでいる。

 未利は心底嫌そうな視線を男に送ったあと、この場にいない顔ぶれについて話す。


「ってか、船の上がこんなになってるってのに、アイツはどこで何やってんのさ。なあちゃんも見つからないし」

「どこかで人質になってなきゃいいけど」


 この状況だ。むしろそっちの可能性が高い。

 爆発音が聞こえなければ残りの船室を調べていたはずだが、あの部屋のどれかに二人がいたのだろうか。

 まともに体を動かせないでいるウーガナを調査隊の面々が縛り上げてる。作業を終えた後イフィールが こちらへと向かってきた。


「感謝する。だが、こんな危ない事はするなと言いたいな。一応手は打っていたんだ」

「そうだったんですか」


 考えて見れば、戦闘向きではないとはいえお城の兵士達なのだ、ただの海賊などに負けるはずがないだろう。


「すみません、見てられなくって」

「いいさ、私の為に怒ってくれたんだろう。ありがとう」


 いつもの毅然とした態度とは違って柔らかく微笑みかけられる。

 その笑みは本当に綺麗な女の人のものだ。

 そしてイフィールは残念そうな視線を捕縛された海賊のリーダーへと向ける。


「あの男には、お前のその優しさですら、優しさとは映っていないのだろうな」

「どうして、そんな考え方ができるんでしょうか」


 ウーガナは縛り上げられた状態で船内へと連れて枯れている。そんな状態でも、こちらをしっかりと睨みつけるのを止めない。


「色々あったんだろうさ」


 てっきり切って捨てるようなセリフが口からでてくると思っただけに驚きだ。


「完璧な人間なんていない。どんな善良な人間でも環境次第で悪に染まってしまう。一概にすべて個人が悪いなどとは、私の口からは言えないな」


 大人の考え方だなぁ、と思った。

 姫乃にはまだできそうにない考えだ。

 ダロスとか許せないと思うし、ロザリーだってなんであんなことをしたんだろうって思うくらいで。


「リラック町長だって、おそらく最初はあんな事をしでかそうとは思っていなかっただろう。そういう事さ」


 イフィールに言われるがあれは、バールたちと同じ町の住人だったからだ。

 同じ場所で共通の思いでを培って過ごした人が裏切っただなんて、誰も思いたくないだろうし。


「ていうか、さっき思ったんだけど、あいつダロスに似てない? ゲスい言動はともかく、精神的には自分強ぇーしてるところとか、具体的には顔つきとかさ」

「そういえばそうだよね」


 まあ世界は広いというし、多少似ている人がいるのもおかしくないだろう。

 仮にそこに何か理由があったとしても、別に進んで知りたいとは思えない。

 そんな事を考えていると、海賊達を連れていっている最中のエアロが話かけてきた。


「隊長! すみませんっ。簡単に人質になったりして」

「まったくだな。気がたるんでいる証拠だ。最近のお前はミスが多いぞ」

「すみません。以後同じことがないよう気を付けます」


 事後処理の為に走っていくエアロの後ろ姿を見ながらため息をつく。


「まったく、変に意地を張っているな……。心配なら海でもなんなり見て自分の心と向き合う時間をつくればいいのに」



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