第3章 未利とトランク 02
そうしてトランクを元の場所に戻して数分後、「よくこんな所で遊ぼうと思った」と言いたくなるような人家のない公園に、挙動の怪しい不審人物が現れた。
それを近くの家の塀の陰から眺める未利達。
不法侵入してるが、それはこの際気にしない。
その人物、男は片手に携帯を持っていてどこかへと話している。
「……だ。ああ、確認した。……だろう。決行は明日の夜だ。……大道寺の御令嬢には少しばかり怖い目をみてもらう」
そんな物騒な内容を喋った後は、どこかへと姿を消してしまう。
「あわわ、暗殺……。大変じゃないですか」
「暗殺者があんなみえみえの行動する? でもとにかく保険の為に行動はしないとね。ふりかかった火の粉を払うためには……。よし。じゃあ明日、大道寺ってとこの家に集合ってことで。場所知ってるでしょ」
「えええええっ、何が!? 何で!? どうしてそんな危ない所に行くんですか。そりゃその人の事は放ってはおけませんけど……。お巡りさんのとこ行くべきですよ」
「だから、あいつらに頼ったってガキの戯言として聞き流されるだけだって。つべこべ言わないで、死にたくなかったら来いっての。じゃ」
「そ、そんなぁっ」
さっさとその場を去る未利。二回目となれは鈴音の行動を把握できたらしく、未利を捕まえようとした行動をするりと回避。
なおもぐずる鈴音はその後、隠れていたその家の住人に見つかってこっぴどく叱られた。
「はぁ、少し気分転換に外出てみればこれか」
帰ってきて家の前に立つ未利は、数十分前の出来事を思い返して頭を抱えた。
「どうして厄介事に自ら体当たりするような人間ってのは、あんなに脇が甘いんだか」
そんなこんなで約一日挟んで、当日の夜。
未利と鈴音は例の大道寺邸の裏に立っていた。
「でか」
「大きいですね」
その建物は一言で言えば金持ちの家だった。
高い塀に囲まれた敷地は何坪あるか分からないし、離れた所に見える邸宅は公共施設並の規模のでかさだった。
「じゃあ、さっさと行くよ」
「ええっ、もうですかっ」
それ以上ここで話すことは何もないとばかりに未利は高い塀をよじ登る。
「わ、私こんなの登れないですよぅ。やっぱり帰り……」
「ほら、ロープ」
「わ、ありがとうございます。……、しまった登っちゃった」
一人コントをやって盛り上がっている鈴音を置いて未利はどんどん先へ行く。
「置いてかないでくださーい」
泣きべそかきながらついてくる鈴音を後ろに、建物の近くまでしばらく進む。窓際に人影が見えるところまでくると、近くにちょうどよく身を隠して下さいとばかりにあった茂みが見つかる。二人はそこに潜む事にした。
「あの人影は、私達と同じくらいの歳の子ですね。この家の子ですかね」
「大道寺三座。大道寺財閥の一人娘、同じ学校にも通ってるはずだけど?」
「ええっ、そんな偉い人が? 知りませんでした」
「偉いのは親でしょ。実際の経営は大人がしてんだから」
それにしても、と未利は後ろを振り返る。
「警備がザルすぎ、これ警報装置とか切ってるんじゃないの? 途中で馬鹿みたいに引っかかると思ってたのに」
途中で引っかかって襲撃計画をおじゃんにした後、犯人の事を大道寺三座に話す。そこから警察に口を聞いてもらってこっちに良いように取りなしてもらおう、そんな計画を未利は立てていたわけだが、早くも狂いそうだった。
「そんな。危険になるだけなのに。何の為に警報を切るなんて事するんですか」
「さあ、待ってれば分かるんじゃないの? 噂をすれば……」
「未利さん淡泊すぎですよぅ……」
人影が現れて、窓に近寄る。
未利達のいる場所とは別のところから侵入してきたのだろうそいつは手にしていたトランクを振り被り……。
「ここにいて」
未利は飛びだした。
「うらあぁぁぁっ」
体当たりをかまし、男を地面に倒す。落ちたトランクに手を伸ばそうとする手を、未利は思いっきり踏んづけた。
「うわぁ」
鈴音の声が聞こえたが無視。
「現行犯ゲット、これで」
結果的には、お偉いさんにも頼らなくても身の安全を守ることができた。その事の流れに安堵してたが、……。
別の所から影が飛びだした。
「二人目……!」
気を取られた隙に、倒れていた男が起き上がる。
対処が間に合わない。
「未利さんっ!」
鈴音の声。
だが。
背後の建物の中から、混のような武器を持った少女が飛びだした。
「はぁぁっ、りゃあっ!」
その人物は、流麗な混さばきで二人目を撃破した。
そして最初の一人は、
パアンッ。
突如発生した破裂音とともに、再び地面に倒れることになった。
「ふぅ、まさか善意の一般人が巻き込まれるとは予想外でしたわね」
混を持った少女を観察する。
栗色の三つ編みに清楚な印象を与える白いワンピース、理知的な雰囲気を纏った人物だ。
「だ、大丈夫……、怪我とかしてない?」
建物の中からは、銃らしき物を持った少年が心配げにこちらを見ている。黒髪にそこらのデパートで買ったような普通の半そでを着ている、どこにでもいそうな気弱そうな少年だ。
「孝子様っ、私は大丈夫ですわ」
「えっ、うん。三座ちゃんも、怪我がなくてよかった」
とりあえずノロケあっている(ように見える)二人に未利は一言。
「どういう事?」
説明すれ。