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白いツバサ  作者: 透坂雨音
幕間
124/516

第3章 未利とトランク 01



 未利は思う。

 その瞬間まではいつもの日常だった。

 退屈な日常。面白味とか新鮮味とかかけらも期待できない日常。

 だが、だからといって奇想天外な事件に巻き込まれたいとは思っていなかった。

 運命の女神とやらがいるのなら、文句を言いたい。退屈まぎれに事件を起こすくらいなら、もっと別の方に労力を使えと。





 中央心木学校


「せんせー、こいつおもちゃの指輪持ってきてるー」

「はぅっ!」


 学校の廊下、放課中に歩いてたら未利の耳にそんな会話が聞こえた。

 通りがかった下級生の教室の中で二人の人物が向かいあっている。

 一人は告発相手に指さして、もう一人は指さされて思いっきり狼狽していた。

 その告発された側の少女は何かを決心したかのような表情をみせ告発した少年にくるりと背中を向ける。そして一瞬で手の中にあった何かを飲み込んでごまかした。


「な、何も持ってないよー、ほらぁ」

「あれ、おっかしいなー」


 チクった少年は首を傾げならも、少女の手にの中に何も持っていないのを確かめると、追及を諦めて、別の友人たちの輪へと混ざっていく。

 ごまかし終わった後、いそいで廊下に出てきた、少女は絶句した。


「あれ、飲み込んじゃった」


 通りすぎる予定だったのに、それを聞いて未利は思わず突っ込んでいた。


「馬鹿じゃん」


 その少女との関わったことが後に大変なトラブルに巻き込まれる伏線になろうとは、この時の未利はまったくといっていいほど思っていなかった。





「出てこないー」


 少女は喉を絞り上げたり、頭を振りだしたりの奇行を始める。


「あっ、そこの何か可愛い感じの服着た先輩!」

「…」


 少女は取り繕いだけは可愛いとは言えなくもない未利の姿を見て声を発した。

 これは自分の服ではないが、こんな可愛い装いをしているなどとは認めたくない未利は足早に通り過ぎようとする。


「無視しないで、助けてくださいー」


 だが服の裾を掴まれて、立ち止まざるをえなくなる。


「何?」


 仕方なしに問いかければ涙声が返ってくる。


「大事な物を飲み込んでしまった時、どうすればいいんでしょう!」


 未利は無言で拳を作った。


「ひぃぃっ、女の子を問答無用で殴ろうとするなんて、凶暴じゃないですか!」

「誰が凶暴だ」


 コロン。

 少女のスカートから、指輪らしきものが落ちてきた。

 どうやら飲み込んだと思いこんでいただけらしい、首元から服の中に入っていたようだ。


「あ、えへ」


 少女は愛想笑いを浮かべた。

 それに対して未利は、拾い上げた指輪を思いきり投げつける事で返答した。





 その少女の名前は音無鈴音(おとなしすずね)というらしい。名前なんて知りたくなかったが、向こうが名乗ったので聞いてしまったのだ。あからさまに厄介事の気配がする。耳に入ってしまった言葉をどうにかして忘れてしまいたかったが、この頭はそう簡単には忘れないように出来ているらしい。苦い思いと共にしっかり収納されてしまっているようだ。

 思い出しては渋面を作る未利。


「未利ちゃま、どうしたの? とってもイライラさんがたくさんしてるように見えるの」


 教室に戻るとクラスメイトでもあり友達でもあり、天然記念物&要注意保護生物のなあちゃんが声をかけてきた。


「別に何もない」

「でも何だか、いわいわさんみたいに見えるの」

「違和感でしょ?」

「そうなの違和感さんなの」

「なあちゃん以外の変な生物に遭遇した、それだけの事だって」


 それ以外は話す気にもなれず適当な話題を投げかけて話を変えさせる。

 余計な事を話したことがきっかけで、この少女とあの少女が関わるようなことにはなってはいけない。

何だか性格的に大変な事になりそうだからだ。

 一人面倒を見るのも大変なのに、もう一人なんて増えてたまるか。

 未利はそう毒づいた。





 そんなやり取りがあった数日後。

 ひょっとしたらもう忘れられるかも、と思ってくる微妙なタイミングだった、鈴音と会ったのは。

町中、いつもの様な可愛い系の服装ではなく少年と見間違えるかのようなラフな格好をした未利は対面から歩いてくる存在に顔をしかめる。


「ふぅ……、重いなぁ。何が入ってるんだろう」


 例の少女、鈴音が重そうなトランクを転がしながら歩いていた。


「……」

「あ、未利さん」

「……」

「ああっ。無視しないでくださいよ」

「話しかけんな、厄介事の気配がする」


 足早に通り過ぎようとしたのに、素早く回りこまれてしまった。

 重そうなトランクが仕事していないようだ。職務怠慢だろう。


「家出でもするつもり?」


 無視する事もできず、仕方なしに話しかける。


「いえ、ちょっと近くの公園で落とし物を見つけたのでお巡りさんに届けに行こうかと、あ、勝手に中開けちゃ駄目ですよっ」


 静止の声を無視し、トランクを開けると見慣れない物が入っていた。

 タイマーがカチカチ言ってて配線が付いてる。

 それは爆弾だった。


「……じゃ」

「ま、待って下さいぃ。何ですかこれぇ、どういうことですかぁ!」


 逃亡しようとする未利に泣きながら鈴音が縋りついてくる。


「アンタ、どんな闇取引の現場に遭遇したワケ?」

「遭遇なんてしてないですぅっ、ただベンチの下に置かれてたから忘れ物だと思ってぇ!」

「取引前か」


 何という間の悪さだろう。

 未利は周囲を見回す、特に人の気配はないが……。


「口封じに殺されたりして」

「えぇぇっ、そんなの嫌ですよっ」

「はぁ、とりあえず元の場所に戻して来れば?」

「あれ、お巡りさんに届けないんですか?

「警察? 何それ、無能の集まりでしょ」


 ともあれ未利は、鈴音からひったくったトランクをゴロゴロと押していく。




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