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白いツバサ  作者: 透坂雨音
幕間
121/516

第2章 クロスバード紙芝居屋 01



 セルスティー宅


 つい数日前に調合士で有名な彼女のお世話になる事になった啓区。

 一人増えると一人分賑やかになるのが普通なのだが、それが二人分も三人分も増えるのは彼らが普通ではないからだろう。


 その新顔、啓区と未利の言い争いが今日も勃発していた。


「くぉらっ、待たんかワレぇ、よくも服にどう考えてもお落とすのに苦労しそうなギトギト油を落としてくれなぁ……っ」

「わー、ヤクザみたいなセリフと般若みたいな顔で未利が追いかけてくるー」


 ただし、言い争いの姿勢を見せているのは片方だけだったが。


 二人ともとっても仲よしだ。仲良しは良い事だと思う。

 なあはニコニコしながらその様子を眺めていていた。

 啓区がこの家に来てから、未利はとてもとても楽しそうにしている。


 ちょっと前……元の世界にいた頃は、皆の遊びにも参加せずにつまらなさそうに一人でいる事が多かった。

 なあはとても心配だったから、今騒がしくドタバタしてる未利たちの姿を見て良かったなあと思うのだ。


 でも、この世界に来る前だって、啓区と三人でいる時は……。

 そこまで、考えてそんな事あったかな、となあは首をかしげる。

 うん、あった。でもなあの脳裏には、つまらなさそうにいつも未利が一人でいる光景しか浮かばない。


 あれれ?


 と思うが、まあいいかと思う。

 分からないけれど、たぶんそんなに大した事じゃない気がしたからだ。


「貴方達、もう少し静かにしてくれないかしら……」


 そんな二人の騒ぎ声が頭に響くのか、セルスティーが表情をわずかに変えながら声をかけた。

 眉根に皺が出来てる。それは不幸の源だ。


「う、だってこいつが……。うぅ…、悪かったっ」

「あはは、昨日徹夜だったのにねー。セルスティーさんごめんねー」


 言い訳をしようとしてセルスティーの無言の視線圧力に耐え切れず、未利が謝罪。

 啓区は事情を知っているので、(だけど笑顔)で謝罪。

 このところセルスティーは、啓区の手伝いを借りて夜遅くまで、魔力計測器の作業していることが多い。

 おそらく昨夜も、同じだったのだろう。


 頑張る事は大変だ、となあは思う。

 一生懸命に頑張れば、頑張った分だけ大変になるのだ。


「ごめんなさいする事は大事なの。なあ、悪い事したら素直にごめんなさいってするのが、良い子だって知ってるの」


 なので、良い子になった二人に偉い偉いしてあげよう。

 だが、背が低いので手が届かない。


「はい、よっこらせー」


 啓区に持ち上げられたので、身長差がなくなったなあは未利に偉い偉いが出来た事に満足する。


「恥ずいっ、しかもウチだけ! どんなプレイっ!?」


 未利は顔を真っ赤にして、外の空気を味わいに出て行ってしまった。

 たぶんだけど当分帰ってこない気がした。


「頼み事があったのだけれど、あのままついでに魔法の練習に行って戻ってこないわね……。まあいいわ。二人にお願いできるかしら」

「セルスティーさんがなあ達にお願いなのっ? 何だろって思うの。なあ一生懸命頑張るのっ!」





 セルスティーに頼まれたのは、ヌイグルミ集会への度重なる使用によって修理に出したヌイグルミを取りに行ってほしいというものだった。

 啓区と二人で、頼まれたお店へと向かう。


 その途中で通りかかった道に人だかりが出来ているのを発見する。


「ふぇ、たくさん人がいてワイワイしてるの」

「何だろうねー」


 近づいていってみると、その人だかりのほとんどは羽ツバメの休憩寮(きゅういりょう)の子供たちだった。


「あ、アホの姉ちゃんじゃねぇか」

「なあちゃんだ」「年上だから、なあお姉ちゃんだよ」「えーなあちゃんでいいよー」「なー、なななーっ、ななー」


 一番最初にアルルが気付いたのをきっかけに次々に、子供達が声をかけてくる。


「さすがなあちゃんだねー、こーんなちっちゃい子たちからフレンドリーに呼ばれてるよー」

「そうなの、とっても仲よしさんなの!」


 その反応に、啓区が感想を言う。

 ここで未利や姫乃がいたら鋭い突っ込みや柔らかい指摘が来るのだが、いないので納得の言葉しかでない。


 わぁわぁ言いあっている子供たちを前に、なあはとっても嬉しくなった。

 皆が元気そうだ。

 アルルとも仲良くやってるみたいで、なあはとてもとても安心した。


「何やってるの? なあに教えて欲しいの。みんなとっても楽しそうなの」


 返答は一斉だ。言葉の海。物量攻撃だった。


「あのねー、紙芝居」「お芝居―」「お絵かきして絵にしてー」「昔のお話―」「ぶゆーでんとか?」「昔話なんだよー」


「良かったら、一緒にご覧になっていきますか?」


 なあは、その紙芝居でお芝居でお絵かきの昔らしい、話題の人物の男性に声をかけられる。

 答えはもちろんイエスだ。


「お願いするの! あ、自己紹介しなきゃなの。なあはね、なあって言うの。よろしくなの」

「僕は啓区だよー。なあちゃんのおまけかなー。よろしくー」


 人を安心させるような柔和な顔付きの男性は、ぺこりと軽く頭を下げる。


「どうも、僕はハッセ・クロスバードです。趣味で紙芝居屋をしてます」



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