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白いツバサ  作者: 透坂雨音
短編 調合士の足跡
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弟子と師匠07



 岩沙漠


 セルスティー達は、嫌な予感に悩まされながら、岩沙漠へと向かう方面へ足を延ばした。

 町の外に向かう際、門を出た時に見張りの兵士が少年の脱走を目撃していたからだ。


 ごろごろとした岩が転がる合間を縫って、植物のない沙漠地帯を歩いてく。

 といっても、足を取られるほど深い砂があるわけではないので移動速度を落とさずにすんだ。が、町の外であまり長居していたくはなかった。


 セルスティーとビビは、多少の荒事に慣れてはいるが、本格的な戦闘を経験しているわけではない。


 こんな所でならず者や害獣に襲われてしまうとやっかいだ。


 一応身を守るための装備一式と、調合薬は持ち歩いているが、本格的なものではない。

 だからセルスティーは、少年がいない事と、いたとしても遠くへ行っていない事を、強めに願いながら先へと進んでいく。


 熱された土から発せられる熱と同じく、焦燥がじりじりと心をかき乱す。

 そんな幾分か時間が過ぎていった。


 そろそろ引き返そうかと思った頃に、その姿を発見。


 視線の先に見つけたそれを、ビビが指さした。


「いた、あぶない、たすける」

「最悪の一歩手前と言った所かしら、間に合って良かったわ」


 視線の先では、少年が空を飛ぶエルバーンに襲われている所だった。


 ついばまれそうになっている所を、必死に逃げている。


 だが、子供の足などたかが知れている。

 すぐに追いつかれてしまうだろう。


 だから、セルスティーは護身用に持っていたそれを投げた。


 投擲された小瓶がエルバーンにあたり、破裂。

 中に入っていた水が、燃え上がった。


 爆炎水。


 大量の空気に触れる事によって爆発する水だ。


「こっちよ!」


 その隙に、セルスティーが少年に呼びかける。

 逃げていた少年はこちらに気が付いたようだ。


 けれど、こちらに向かって走って来るではなく、逆方向へ向かって行ってしまった。


 その行動に、冷静だと周囲から評されているセルスティーもさすがに驚くが、考えればすぐに理由が分かった。


「どうせ死ぬくらいなら、って考えているのかしら」


 どうせ病で死ぬなら、狭い世界で生きるより広い世界で生きたい。

 そう思っていても不思議ではない。


 だから彼は、命をかけてこんな危険な場所まで出てきた。


 しかし、それを看過するわけにはいかない。


 何より、ビビがこうまでして心配しているのに、それを無下にする行動をとった事が勘に触った。

 どんな時でも冷静であろうと心がけているが、セルスティーはまだ一応子供。


 よく知らない人間と友人を天秤にかければ、友人の肩を持つ。それくらいはまだ、セルスティーは人間ができていなかった。


「らなー、あぶない。つかまえる、する!」

「ええ」


 しかし、その怒りも当の本人に言われて鎮静化。

 ビビに言われて走り出す。

 このまま見逃してしまえば、無力な少年はどこにも辿り着く事なく力尽きてしまうだろう。


 夜になれば、なぜ自分がそこにいるのか分からなくて混乱してしまうかもしれない。


 そうなる前に、連れ戻す必要がある。


 けれど運は、自由を求める少年に対して、皮肉な結果をつきつけた。


 走っていた少年が唐突にその場に倒れた。


 慌ててセルスティー達が駆け寄る。

 追いついて、少年の具合をみると、足首の辺りが腫れている事が分かった。


 その近くにはトゲサソリの姿。

 害獣ではないが、毒を持っている動物だ。


 つまりこの動物に刺されたらしい。



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