弟子と師匠06
数週間後
ログプレスについての調査は進まず。
少年の病に対する有効な治療方法は分からないままだった。
もともと、怪我をしているというわけではないので、彼はもう退院しているらしいが、ビビからの情報で居場所は分かっていた。
必要ならすぐに接触できるだろう。
行き詰まっているなら、本人から話を聞いてみるのも在りかと思い始めた頃。
ビビが家へとやってきた。
セルスティーは慌てた様子の彼女から、少年の現在の状況について聞かされた。
「いなくなった?」
「そう、いない。いえ、きえる」
あの少年が家の中から消えてしまったらしい。
セルスティーは「どうして」と、疑問に思う。
一度脱走した経験のある子供だ。
他の者は慎重に彼の事を見ていたはず。
それとも彼の執念や重いが、保護者達の予想を上回ったという事だろうか。
「びょうき、つらかた! おもい、すすむ!」
「まさか、症状が進行したというの?」
「そう、たいへん! つらい、なる!」
ログプレスが進行性の病だったとは聞いていない。
症例が少なかったから、データに載らなかったのか、それとも彼が特例だったのか。
何にせよ、状況は悪い方へ変わってしまった。
「らなー、たすけて、さがす、いっしょ」
「……けれど、私は」
セルスティーは本棚にある医学の本を見つめる。
師匠との話は数日前のできごと。
セルスティーは未だに自分がどうすべきか迷っている。
そんな状況で、うかつに他人の事に首を突っ込んでもよいのだろうか。
けれど、何も分からないからといって、今この場でビビに助けを求められているのをセルスティーが無視できるわけがない。
分かっている事は、
自分が首を突っ込んでも、おそらく何も解決しないという事。
専門家でもない自分の力は、何の役にも立たないだろう。
それはまぎれもない事実だ。
「らなー……」
セルスティーはすがるようなビビの目を見る。
迷いはあった。
いけない事だと分かってもいる。
だが自分には、友達のその目を、無視できそうにはなかった。
「分かったわ。一緒に探しに行きましょう」
答えを告げると、ビビはこちらに腕をとって引っ張り始めた。
「よかた! らなー、いっしょ、ひゃくにんりき!」
「私は大した人間じゃないわよ」
買いかぶられたものだと思いながら、ビビと共に部屋を後にする。
通りを歩きながら目撃証言を集めたり、状況を推測しながら、少年の足取りを追っていく。
世の中には人探しの専門家がいるというが、セルスティーはそうではない。
本で読んで得た付け焼刃程度の情報しかなかったが、それでも必死に頭を回転させる。
絶望した人間がどう行動するのか、彼の望みは何だったのか。
病人である少年の気持ちを汲み取ろうとする。
しかし、自分では限界だったので、友人の手を借りる事にした。
「ビビ、こんな時貴方だったらどうする?」
「むずかし。でもむかし、おもた。いろんなとこ、いく、したい」
「……ごめんなさい」
「らなー。おちこむの、ない。いま、たのし」
以前病気に苦しめられた事のあるビビだからこその、考えだろう。
彼女にそんな質問をしてしまった事を悔いながらも、思考は止めない。
「町の外に向かったのかしら、もっと捜索範囲を広げましょう」
できるだけ遠くにいきたい。
多くの物を見たい。
そんな望みにかけるのだとしたら、少なくとも家の近くや病院の近くにはいないはずだ。
歩いてすぐに行ける場所からも、とっくに去っているはず。
なので、セルスティーは自らの予想が当たっていないように願いつつ、一番危険な場所から当たる事にした。