弟子と師匠03
医術寮
手を貸してほしいといったビビの頼みを受けるべく、セルスティーは医術寮へ向かうことになった。
施設を訪れたセルスティーとビビは、見る者に清潔感を感じさせるクリーム色の建物へと入る。
建物内部の廊下を歩いているのは、自分達と同じようにこの病院に用がある患者。
けれどその中には、見るからに顔色が悪い人間や、出歩けないほど容態の悪い人間はいない。
医術寮の運営は、聖堂教が手を貸している。そのため寄付で動いている聖堂教にならって、医術寮の運営資金も人々の善意に頼っているのが現状。
ちょっとした軽い病気や怪我なら、ここですぐに治療する事ができる。
しかし、それにも限度があった。
全住民に十分な医療を受けさせることができるほど余裕がないため、重い病気や怪我などは、自腹で治療費を払わなければならない。
セルスティーは医術寮内部の様子を見ながら、つぶやく。
「もっとたくさんの人が医療を受けられればいいのだけれど。難しいわね」
一定期間ごとに各家庭から数コレル分寄付してもらうだけでも、変わってくるだろうが。
しかし、百年ごとにやって来る終止刻がそれを許さない。
終止刻さえなければ、医療も、その他の分野ももっと発展が望めただろう。
そんな風に周囲を見回して考え事をするセルスティーを、ビビが誘導する。
「らなー、うけつけ、こっち」
「そんなに走らないで。危ないわよ」
勢いよく元気に前進するビビを嗜めながら、彼女についていく。
調合士見習いをやっている関係で、何度か来た事はあるが数える程度だったので、内部の様子には詳しくない。
ややあって、数人の看護員がつとめている区画に到着。
ビビがその中の一人に話しかけると、一人の女性看護員が快く対応してくれる。
「びび、きた! ともだち、あう」
「あら、ビビちゃんこんにちは。また来てくれたのね」
笑顔を見せる女性看護員は、すぐに通してくれるようだった。
渡された用紙に、医術寮にきた用事の内容と名前を書き込んでいく。身元を証明するために、住民票も見せた。
いざこざやケンカなどから、数十人がかかわる大事件がらみで治療を受ける患者もいるため、こうした手順を踏む事によって安全には気を配っているのだ。
記入した用紙を手渡すと、目当ての部屋の場所を教えてもらった。
「ありがとう。これでいいわよ。あの子の部屋は……」
「わかた! すぐいく」
そして、再度ビビの案内に頼る。
階段を上がって二階へ。すぐの所にある病室に彼女が、駆け込んでいった。
元気が有り余っている彼女の様子を見てセルスティーはため息をつきつつ、室内へ。
何台かベッドがあったが、使われているのは一つだけだったので迷わなかった。
ふくらみのある、そのベッドへ近づく。
そこに寝かされているのは、少女めいた少年だった。
おどけない顔つきからみるに、まだ五、六歳ほどかと思われる。
「このこ、びょうき。とても、めずらし。よる、みち、みつかた」
夜中倒れていたところを発見されて、ここに運ばれてきたらしい。
「私は病気の専門家じゃないから、調合での治し方が確立している人しか見れないわよ」
「らなー、おいしゃさん、ちがう?」
「ある意味そうだけど、そうじゃない……といっても、貴方に伝わるかどうかわからないけど」
案の定、彼女は「んぅ?」という顔をしている。
自分はまだ見習い。
大人の様に誰かの役に立てるとは思わなかったが、力を尽くさず降参するのはセルスティーの望む所ではない。
とりあえず、できることはしてみるつもりだ。
「詳しい容体を聞きたいのだけど、説明できる?」
「はなし、する」