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白いツバサ  作者: 透坂雨音
第三幕 立ち向かう意思
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97 第21章 東の地の戦い方



 クーディランス跡地 『ロザリー』


「あははははは」


 ロザリーは、笑っていいた。

 ロクナに後始末を頼まれた時は気のりしなかったが、来て良かったと今は思っている。

 来る日も来る日も地味な仕事ばかりで、飽きていたからだ。

 自分は強い。

 だから、いつも一瞬で仕事が終わってしまう。

 たまには、もっといたぶりがいのある獲物を相手したいと思っていたのだ。


 この仕事は、いい。

 とても、いい。

 獲物が逃げる所とかが特に、だ。


 手加減をしてより長く苦痛を与えることができるし、その様を特等席で見つめることができるのだ。それも邪魔者抜きで。


「あはははは」


 笑いながら、手当たり次第に壊して回る。

 いたぶるようにゆっくりと。獲物がいないか確かめるように。


「そーれっ、うふふふ」


 さて、あとどれくらい残っているだろうか。

 どれくらい楽しませてくれるだろうか。


 しかし、その場に新たな獲物が入り込んだのに気が付く。

 人の気配に視線を動かすと、そこには大勢の獲物。


 獲物の一匹は叫んでいた。


 諦めるのか、と。






 暗殺者ロザリーの大鎌には何かが巻き付いていた。

 それはロープだ。先端には船が停まる時に使うイカリがついている


「何かしら」


 ロザリーはそのイカリを投げた人間のいる方、背後にある建物の屋根を見やる。

 そこにはバールを含めた数人の人間が、警戒するような表情でロープを手に立っていた。


 そして、


「それにこっちも……」


 視線を下に戻し建物の影を見つめたロザリーは、一瞬後その場を飛び退った。

 なぜなら、先ほどまで彼女が立っていた場所を、魔法で生み出された火球が通過していったからだ。


 その結果を見て、誰かの声。


「当たると思ったんだが、さすがは漆黒だな」

「あら、私の素性知ってるの?」


 それを見届けた後で建物の陰からでてきたのは金髪の兵士、イフィール含める変装した調査隊の人間数人。


 いずれも戦闘ができる人間ばかり。体格や足運びを見れば分かる。

 

「無粋ねぇ。というかあなた達、一体どうやってここにやってきたの?」


 ロザリーは心底気分を害したという表情を作り、不満げにその場にあらわれた者達へ視線を向ける。


 それに答えたのは子供達だった。

 子供、達?


「そんなの列車からに決まってんじゃん」

「そーそー、列車からねー」

「なあは達、電車さんから来たの!」

「たぶん、聞いてるのはそういう意味じゃないと思うんだけど……」

『あんた色々大変だなぁ』


 答えたのは襲われかけていたリラック町長の背後から近づいてきた少年少女達だ。

 若干ずれた受け答えをする者達に赤毛の少女がつっ込めば、同情するような様子で魔獣のレトが話しかけた。


 ありえない光景を前に、思わずといった様子でリラックが問いかける。


「な、何故ここに。何故私らを……」


 それには、屋根上にいるバールが答えを返した。


「きちんと理由を聞く為だ。許すも許さないも、死んじまったらケリつけられないだろうが」


 それに、とバールは周囲に並び立つ町人達を見やる。


「ディテシア様に助けられた身だしな……。ここで自分達の問題に顔背けたら、罰があたる」


 皆、小さく頷きを返して、ここにいる事を当然と受け止めているようだ。


 そんなやりとりを観劇するロザリーは、時間をもてあましていた。


「もう、いいかしら。そろそろ退屈してきたわ」


 これ以上は待てないので、大鎌を構えなおして戦意を示す。

 戦闘態勢をとるロザリーを前に、集った一同は気を引き締めた。


「逃げるという選択はないようだな」

「どうして? こんなにたくさん獲物がいるのに」


 視線の先ではイフィールが、自身の武器である剣を構えた。周囲の兵士たちも同様だ。


「その言葉、後悔する事にならないといいが、なっ」


 不敵な笑みを表情にして金髪の兵士が前へ。漆黒の暗殺者、ロザリー・コクォートスとの戦端が開かれた。






「だてに東の地に住んでるわけじゃねぇんだよ。暗殺者だろうが、何だろうがなめんなよ!」

「しつっこいわねぇ」


 やりにくい。

 戦闘開始じから、ロザリーはそう感じていた。


 飛んでくる周囲の屋根上から飛んでくるロープを避け、大鎌で粉砕しようとするが、その隙を狙って地上にいる兵士たちが襲い掛かってくる。かといって、兵士たちの方に対処しようとすれば、上空からの攻撃に対処が遅れる。同時にいくつも気を配らなければならなくて、意識が散漫になり非常にやりにくいと感じていた。

 訓練された兵士たちはともかく、ただの民間人など取るに足りない存在だと思っていたのに。なかなかよく戦っているではないか。


「ちょっと、びっくりしちゃうわね」

「褒め言葉として受け取っておこう」

「あら、ちゃんと褒めてるわよ。皮肉とかじゃなかくて」


 大鎌を振り、範囲外から逃れたイフィールは返答を口に出しながらも剣筋をぶれさせずに適格に急所に斬りこんでくる。

 身をひねって回避し、時に武器ではじく。ようやく隙を見つけたかと思えば、仲間がそれをカバーし、反撃を打たせないようにしている。当初はこのような、息つく暇もない攻防になるとは思わなかった。

 今回の依頼を受ける前、真面目に聞いていなかった話を思いだす。


 彼らの居住地は、終止刻エンドラインの被害を真っ先に受ける場所だ。西の地域と違い、毎回のように甚大な被害を受ける。発生確認には人々は必ず立ち会うことになるし。当然、その状況とやらを確認するためには、憑魔ひょうまの被害だって覚悟しなければらない。


 いくら百年前までは臨時の砦が近くに建っていたと言えども、力なき一般人達がまったく備えていないなんてことは、ありえないのだ。

 圧倒的な強者に立て向かう術として、彼らは高所の利をいかした戦法を編み出し、訓練し続けてきたのだろう。


 それが今、自分めがけて発揮されている。

 凶暴生物扱いされるのは不満だが。良いチームワークだ。

 周囲の建物の屋根に散開した彼らは、アイコンタクトだけで会話することなく、互いに意思疎通を図っている。誰がどのタイミングでロープを使うか分かっているかのようだ。


「ほんと、ちょっとあなどってたわ」


 相手の強さを認め、敬意すら抱くロザリーの取る行動は、しかし変わらない。

 圧倒的強さを持って弱者をいたぶる楽しさが、互角の強さを持つ強者としのぎを削りあう楽しさに変わっただけなのだから。


「うふふ、もっと楽しませてちょうだい」


 だから、ロザリーは大鎌を振るう。

 心からの笑みを浮かべて。






『姫乃』


 ロザリーとバール達やイフィール達が戦っている間、姫乃達は割り振られた役目をこなして、再び合流する途中だった。

 しかし戦場に向かう途中で、建物の陰を見つめて立ち止まる。


 人の気配を感じたような気がしたからだ。


「ちょっと、待ってて。確認してくるから……」


 そこに誰かいるかもしれないと思い足を運ぼうとするが。


 その行動をとめるのはいつも笑顔でいる彼。

 だが、少し今はその表情が困っているように見える。


「うーん、そこには人はいないと思うよー」

「そうなの?」


 啓区に言われて、歩みを止め振り返る。


「人の気配がしないっていうかー、ないっていうかー。うん、人はいないと思うー」

「よく分かるね」


 どういう根拠で言っているのか、啓区の態度からは分からない。

 でも、一応確認しといた方がいいんじゃないかと視線を戻すと……。


「誰もいない」


 未利に先をこされてしまった。


「そっか、じゃあこれでもう逃がさなきゃいけない人はいないよね。早くイフィールさん達のところにいこう」


 作戦の要となる人物がこのメンバーに含まれているのだ、ロザリーに勝つためには早くバール達に合流した方がいい。

 本当を言うともうすでに、作戦は始まっていたりするのだ。魔法も発動して、万が一間に合わなくても大丈夫なようにはなっているが。


「皆頑張ってるのに、私達だけその場にいないのはつらいしね」


 その魔法の効果範囲からバール達を出さないためにも、リラック達に自力で避難するように言って回る事しかできなかったが。だがそのおかげで早く元の場所に戻る事が出来る。


「こうして動けるのも結界破れたからなんだよね」


 姫乃のが啓区の棘の剣のことを思いながら、呟く。


「本当にねー。すごいもの持ってたよねー、霧の旅人さんとやらー」


 張られた結界を前に足踏みしていた時のことを思いだす。目的地を目の前にして焦る姫乃達は、前に結界が破られた出来事を思いだして色々と試したのだ。残念ながら前回同様にうめ吉の人力(亀力?)ではどうにもならなかったが、棘の剣が効いてくれて本当に良かったと思っている。


 剣がどうしてそんな事ができるのか分からない。啓区の魔法……なのかなぁ、とは思ってるが、魔大陸では当人がいなかったし……。


「ここに来たことを無駄にしないためにも、あともう少し頑張ろう」


 再び目的地へと走りだす姫乃の背中で、未利が啓区へ小声で何かを話しかけている。内容はうまく聞き取れなかったが。


「さっきの、何で分かったの?」

「分かったんじゃないけどー、何となくかなー。別に未利が見る必要なかったのにー」

「見なきゃウチ等、進めないでしょ。効率」


 彼等がそんな会話していると聞きつけたなあちゃんが横から入っていったようだ。


「啓区ちゃまも未利ちゃまも何のお話してるの?」


 それに対して二人は、


「あー、言葉って便利だなって話?」

「そうそうー、言いようだねー」


 そう誤魔化した。



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