表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白いツバサ  作者: 透坂雨音
第一幕 終わる世界
1/506

01 序章 全ての終わりと始まり



 世界名 マギクス  セントアーク遺跡 譜暦ふれき672年 『+++』


 この世界において名の知らぬ者などいない存在、大魔導士サクラス・ネイン。

 二十前後の歳のその女性は、いつもは星をたたえたかのように煌めかせている瞳を曇らせ、苦痛に表情を歪ませながら足を進めていた。


 そんな女性の容姿は、よくできた人形のように整っている。


 薄紅色の長い髪に、雪の様に白い肌。瞳は大粒の宝石のように煌めいて、髪色より僅かに色濃い紅色。そして身に着けている服は元の色は純白だっただろうドレスだ。


 しかし間近でよく見れば、手足や体にはいくつもの細かい傷があり、衣服もところどころ煤で汚れていたり、破れていたりしているのが分かるだろう。


 彼女が進むのはセントアークと名のつく遺跡の内部。

 この世界の北の果て、雪と氷に閉ざされた大陸……リフリース凍土のさらに北の空に存在する建物の中。


 そこは、浄化能力者の旅の最終地点であり、世界救世の重要地点……。

 そして、サクラス・ネインが重要な役目を果たす場所でもあった。


 サクラス……サクラは遺跡の硬い床を踏みしめて黙々と歩いていく。


 ここに来るまでにサクラの仲間は何人も倒れていた。

 彼女の友であるアイナやリク、花姫、シンカーやロゼなども同様。クレーディアや兵士達の大部分は遺跡にすら辿り着けていない。


 サクラの歩みは遅い。彼女は時が経つにつれて、疲労に体が蝕ばれていっているようだった。

 歩く事すらも苦痛に感じる状態にもかかわらず、それでもサクラはただひたすら歩み続ける。一歩ずつ。ゆっくりと。


 そうして時間をかけて辿りついたのは遺跡の最上部だ。


 その場所は空に開けていて展望台になっていた。

 最上階の縁には柵などなく、足を踏み外せば重力に引かれて落ちるのみだろう。

 床には巨大な魔法陣が刻まれていて、七色に代わる光を帯びて自らの存在を示す様に輝いている。


 刻まれた魔法陣の内へと踏み入れ中央へと歩けば、その部分の床から七色に輝く光の粒子が、粒となって舞い散っていった。

 見上げれば現在の時刻を示す様に深い闇色の空が広がっており、無数に輝く星々がこちらを見下ろしている。

 広大な闇の中に浮かぶ光に沿うように、魔法陣から七色の粒が舞い上がる。


「綺麗……」


 思わずと言ったように、彼女の口から言葉がこぼれた。

 しばしサクラは、これまでの事もこれから成すべき事も全て忘れたように、その光景に見惚れる。


 彼女はそうして、つかの間の鑑賞を行った後、視線を下げ、表情を引き締めた。

 彼女は目を閉じて集中し始める。


 この世界は、無限に繰り返す滅亡の危機に何度も晒されている。

 サクラはここで、その連鎖を断ち切らねばならなかった。


 彼女は祈りを捧げるかように両手を胸の前で組んだ。

 そうすればすぐに、サクラの体は淡い紅色の光を放つようになる。


 光は次第に強くなり、旋風を巻き起こすかのように女性を中心に渦を巻き始める。

 その動きは、やがては展望台を光で埋め尽くす程になり、溢れんばかりのまばゆさで暗闇を照らし出した。


 もはや、光の中に身一つでいるような状態になってしまったその場所。

 魔法陣の中心で、サクラは最後の言葉を……願いを口にした。


「心に白いツバサを持つ者達……、この世界をお願いね」


 そして、光が一層強く輝きを放つと同時に、流れ出したそれらは一点に集まり、夜空へと向かって光の柱を作ってみせる。


 そして、光が収束し消え去った後、遺跡の最上部に人の姿はなくなっていた。






 夜空を駆けて、星々に見守られながら長い旅を経た光は、やがて一つの異世界へとたどり着く。

 文明が発達し、科学技術の栄える、巨大建造物(ビル)の立ち並ぶ都市まちが、いくつも存在する世界へと。


 そしてその中の、ある一つの学び舎の大きな一本の桜の木へ、辿り着いた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ