9.回想4〜ニュース〜
しばらく亜季の顔を見るのが辛かった。
私は絶対にしてはいけない事をしてしまったのだ。悪魔は天使に勝つことができなかった。
バカな私。亜季と黒木君を引き離したからといって、黒木君が私と付き合ってくれるわけじゃないのに。
それでも、私は亜季の友達という役を演じ続けなければならなかった。
このまま黙っていれば、亜季は傷つかない。誰も傷つくことはない。
休み時間、昼休み、放課後ー・・
亜季と一緒にいる時間、私の胸は人知れず痛み続けた。
そんな毎日を繰り返して、3月になった。
もうすぐ中1の日々も終わる。4月になったら、たくさんの新入生が入ってきて、私達も先輩になる。
部活で、特別しごかれた訳じゃないけど、やはり先輩になるのは待ち遠しい。
亜季と、そんな事を話していた。
もうその頃は、まだ多少罪の意識はあったものの、だいぶ楽に亜季と向き合えるようになっていた。
なにしろ3月。終わりの季節だ。
きっと、時間が解決してくれるんじゃないかと、私は思っていた。
3月の半ば、卒業式の予行練習が終わって、私は亜季といつものように部室へと向かった。
放課後の部活動もまた、私の罪を軽くしてくれていた。
詩を書くことで、先輩の雑談を聞くことで、私の傷口は少しずつ閉じようとしていた。
無論、亜季は私のそんな気持ちなんて知らないけど、このまま亜季と一緒にいれるだけで十分だと私は思った。
その日、亜季と喋りながら部室の前に来ると、いつもと違うふいんきが漂っていた。
いつも誰かが入るたびに開け閉めされる戸が、今日は開けっ放しになっている。そして、何やらザワザワと騒がしい。文芸部に関係のない者まで、数名紛れ込んでいるようだ。
「・・どうしたんだろう?」
「さあ・・」
何となく近寄りがたくて、私は亜季と2人でしばらく部室に入らずにその場で様子を見守って(?)いた。文芸部に入って1年、こんな事態は初めてだった。
部室の入り口辺りにいる生徒が、ふと後ろを振り返った。そうして、私達の姿に気がつくと、急に大声を張り上げた。
「みんな!来たよ!」
(え・・?)
ザワザワが止まった。部室の中にいる人達が、一人残らず私達に注目している。・・何?
生徒達が端に寄って、ゲートを作るような形になった。入れ、ということだろうか。
亜季と顔を見合わせると、亜季も訳が分からないという表情だ。ますます困ってしまう。
とりあえず、中に入ることにした。一歩ずつ、ゆっくりと歩く。亜季も、そんな私に合わせるように後ろから着いてきた。
部室の中に入ると、普段はあまり顔を出さない顧問の先生が真っ先に歩み出てきた。目が輝いて、頬は紅潮している。
先生は私達2人ではなく、亜季だけを見ていた。何?一体。
困惑した表情の亜季に、先生はゆっくりと近づいた。一度周りの生徒達を一望すると、それを代表するかのように彼女は言った。
「池田さん、あなたの作品が・・コンクールで大賞をとったそうよ!」