表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役の分際 ぷらす。  作者: 猫田 蘭
大学生編こぼれ話
7/25

けせらんさまとわたし。(拍手お礼+α)

 本格的な引越しを翌日に控えた、春休みのある日のこと。

 お風呂上りでホカホカしながら部屋に戻ると、侵入者が待ちかまえていた。


「金を出せ、なう!」

 え、カツアゲ? それとも強盗? (あれ、そういえばこの二つってどう違うの?)


 不法侵入されて、刃物なんかよりもよほど物騒な棒(これ一つで5人戦隊をこき使い、都合の悪い目撃者を気絶させ、記憶を消し、敵対する宇宙人を捕縛しているわけだから間違いなく凶器だ)を心臓に向けられて金品を要求されているこの状況は、強盗だよね?

 たしかケセラン様って、地球の平和を守りに来た宇宙警察だったよねぇ? なんで平気でこういう犯罪行為に手を染めちゃうの?


 それにしてもこの部屋は招かれざる客を呼び寄せる機能でもついているんだろうか。吸血鬼の次は宇宙人(てゆーか毛玉)だなんて。どうしてケセラン様が単独行動してるの。こんなの野放しにしちゃダメじゃない、中山君!


 とにかく状況が全くつかめないんだけど。お願い、だれか説明してええええ!


 と、まぁ、心では動揺しきりだったけれど、家族を巻き込まないために一番大事な作業をした。すなわち、ドアを閉めて、鍵をかけること。


「ふぅ……」

「きいているのか、しもべの助手! 金を出せ、なう!」

 ケセラン様はなかなか答えない私にじれたのか、持っている棒をぶんぶんふりまわして見せた。光景だけなら和まなくもない。白くてまるくてふわふわした物体だから。


 うん、しゃべらなければ癒されるかもしれない。「まぁ、ぐずっちゃって」みたいな?

 実際はそんな可愛いもんじゃないんですけどねー! 「キケン、取り扱い注意」だけどねー?


「それで、ええと、いかほどご入用ですか?」

 だから、我慢よ私。確実に潰せるチャンスが巡ってくるまで、がんばろうって誓ったじゃない! (戦隊のみんなと)

「ありったけ、なう!」

 り、理不尽だあぁっ。こっちだってお小遣いをやりくりして貯めてるのに、なんだそれ。


「差し支えなければ用途と、返済の目処なんかをお聞かせ願えると、ありがたいかなぁ、なんて……アハハ」

「生意気なう。まったく、しもべたちよりも使いにくいなう」

「あはは……」

 あぁ、5人戦隊は言われるまま、用途も聞かず返済の期待もせずにお金をさし出しちゃったのか。可哀想に。もうちょっとガンバレ。

「しかたない、聞かせてやるなう。先日講演会で……」


 毛玉はどうやら、恩師(要するにコイツがこうなった責任者ですか?)の講演会のために里帰りしていたようだ。そのまま戻ってこなければ良かったのに。

 とにかくその講演会のタイトルは「現地人の上手な利用法」で、鞭だけではなく飴も使いこなせ、と説いていたらしい。さすが、毛玉の恩師。(いろんな意味で)


「つまり、戦隊の不満を抑えるためにお給料を出す事にしたんですね」

 まぁそれは悪くない考え方だと思う。けれども。

「でも、私のお小遣いにも限度というものがありまして」

 それ以前に何故私がそのバイト代を支えねばならんのか。


 いっそスポンサー企業でも募ればいいじゃないか。

 CMで「私達は、地球平和のために売り上げの3%を戦隊に寄付しています」みたいな文字を流してもらってさ。それで、戦隊の名前をつける権利なんかも競売にかけるの。どうだろう、今風でいいと思うんだけど。


「それはできないなう。あくまでも地球人には秘密裏に動けとのお達しなう」

 ち。きっとコイツの上層部にも何か目論見があるんだろうけど、融通利かんなぁ。

 っていうか、私は? 私地球人。戦闘員でもない地球人ですよ? 助手だから戦隊の一員みたいな扱いなんだろーか。迷惑な。


「う~ん。時給は10円くらいですか? だとすると、私の手持ちで、ええと……」

 さすがに全額渡さなくていいよね。まぁ、返ってこなくてもギリギリ、本当にギリギリ我慢できるのは、5万くらい? (戦隊への同情料として)


「一人当たり1000時間雇えますけど。多分一年もちませんよ」

「オマエ、ヒドイ女なう。けちなう。今時幼稚園児のおつかいだってもうちょっともらえるなう」

「えええええ!」

 ケセラン様の立場に立って、ケセラン様らしい時給を考えたのに! 「支払われるだけ感謝するなう!」とか言い放つに違いないと思ったのに。


 いやいや、それよりもここは、「酷い」というより「非道」の代名詞みたいなケセラン様から「ヒドイ女」扱いされた事にショックを受けるべきか?


 思わず動揺してしまった私は、結局言われるがままにお金を差し出してしまった。

 ケセラン様は、上機嫌でぴかぴか光りながら帰って行く。くそぅ。

「……鴉にでも襲われたらいいのに」

 夜の闇の中ぼうっと白く浮かび上がる後姿を、私はありったけの恨みを込めて見送った。(あ、今のセリフ聞こえてたらどうしよう)


 GW明け。

 大学構内で私を「ラコたん」と呼ぶ一派(あのラフティングに参加していた連中だ)をどうやって始末してやろうか、と少々荒んだ目をした私の元へ、ケセラン様がまたしても単独で尋ねてきた。


 さては再び金の無心か、戦隊にバイト代が出てるなんて話も聞かないし、この前のお金はどこに消えたんだ! どうせゲーム買い込んだんだろう。


 今度は一銭たりとて取られてなるものか、と身構えた私に、彼は言った。

「返しに来たなう」

 一瞬、耳を疑った。

「え、返すって、まさか、え?」


 思考がきちんとまとまらない。パニック状態なんだなぁ、私。だって、あのどケチのケセラン様が、借金を踏み倒さずに、催促もされずに自主的に返しに来たなんて!

 大変だ、これはきっと悪い事が起こる予兆なんだ、私の悪運も尽きちゃったんだ、だから川に流されたりしたんだ。

 あぁ、今までの思い出が走馬灯のように……。


「しもべの助手ごときに借りを作ってはナメられるなう。利子もつけてやるから感謝しろなう」

 むっかつくぅ。利子ったってお小遣い程度じゃないか。5万貸して、一ヶ月で千円とか。

 あ、あれ、でも銀行の預金の利子より高い。かなり高い! ケセラン様しゅげぇ! ……のか、それとも日本の銀行が酷すぎるのかは、あんまり考えたくないなぁ。


「ありがとうございます。でも、どうやって増やしたんですか?」

 どうか、うちぅの超技術でコピーした偽札とかじゃありませんように。もしくは、渡したお金を前金として人を雇って、銀行を襲撃させたなんて言いませんように。


「株なう」

 なるほど、シンプルでわかりやすい。

 ケセラン様には、株式トレーダーの才能があったのかぁ。意外。(だって空気読まないし、相場の動きなんて更に読めそうにないんだもん)そういや株のゲームに嵌ってるとか言ってたっけ。ってことはゲームも無駄にはならなかったんだなぁ。


 私が感心したように頷くと、ケセラン様は機嫌をよくして膨らんだ。もふーっと。こういうところはちょっとマスコットキャラらしくてかわいい、と思ってしまうのは、私も感覚がマヒしているということなのかなぁ。


 ところで株で増やすには原資が足りなかったのでは? いくらカツアゲしたんだろう。

「しもべ3号が随分溜め込んでいたなう。それでも足りなかった分は……」

 得意げに膨らんだケセラン様は長い冒険物語を語った。(ところでしもべ3号って福島君? 何やって溜め込んだの?)


「ようするに、ラスベガスに行って、酔っ払いをたぶらかして、スロットのコンピューターいじって、一山当てて、記憶を消してトンズラした、と」

「人聞きが悪いなう。フラれてヤケ酒飲んでた現地人に一夜の夢を見せてやっただけなう」

「はぁ。モノは言いようですね」


 スロットのコンピューターいじるとか、この星の法律なんかはどうでもいいんですか。宇宙人だから治外法権だってことですか。

「しかし実際に株をいじってみるとむずかしかったなう。そこで各企業の回線の……」

「うわーー!」

 前回と違って家の中には私と毛玉しかいない。だからこんな大声出しても大丈夫!


 今、インサイダー取引よりもまずそうな秘密を聞かされるところだったよね。ふぅ、あぶない。

 ケセラン様は宇宙生物だし、そうじゃなくてもどうしようもない存在だから仕方ないけど、私はこの件に関わってはイケナイね。聞いてない、なにもキイテナイ。


「そ、それで、戦隊へのお給料って、結局どのくらい出す予定なんですか?」

「そこが問題なう!」

 ケセラン様は、空気を読まないが細かい事も気にしない。よって、話を途中で遮られて、更に別な話題を振られても気にしない。よかった、単純な生物で。


「時給にすると計算が面倒なう。残業代なしの定給にするなう」

 ひどっ! と突っ込んだら、「ワタシだって24時間勤務の定給なう!」と主張された。……そういや24時間勤務だなぁ。ほとんど寝てるかゲームしてるか、だけど。


「一回の出動時間って、だいたいどのくらいですか?」

「2時間弱なう。まったく、無能なしもべどもなう」

 つまりケセラン様は、本来ならもっと効率よく捕まえられるはずなのに、5人戦隊が地上の建物への影響を考慮したりとか、捕獲対象が語る事情に同情したりとか、劣悪な環境におくと途端に動きが鈍るヤワな身体とかのせいで、無駄に時間が掛かっている、とお怒りなのだ。

 ……よかった、私、しもべの助手で! 秘密基地の管理人でよかったあああ!


「つまり、一時間もあれば本来は十分なう。あとは連中の無能さが悪いなう」


 というわけで、一時間あたりの時給の平均でいい、と主張するケセラン様をなだめてすかして持ち上げて、何とか一回の出動につき、一人1100円まで引き上げた。

 本当は1200円までなんとか上げようとがんばったんだよ、みんな……。


 いずれ会社を立ち上げて、お前らみんな雇ってやると豪語していたけど……私はもっとまっとうなところにお勤めできるよう、努力しよう。でも時代は就職難だからなぁ。(ごにょごにょ)

 いざとなったらケセラン様の会社の会計監査役とか、案外いいかもなぁ。


 みんなのお給料が1200円まで上がらなかった理由は、秘密基地のお家賃をそこから差し引く形になったからだ、という事は……けせらんさまとわたしだけの、秘密ということで。


 お茶菓子のグレード上げるから、許してね。

ケセラン様はあくまでも「株」にこだわっている模様です。

スロットいじりまくって稼いだ方が手っ取り早いような気もしますが……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ