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脇役の分際 ぷらす。  作者: 猫田 蘭
高校生編こぼれ話
5/25

四月馬鹿の後悔(エイプリールフール限定拍手お礼改稿+α)

 私はさっきから壁の一点をじっと見つめている。


 じぃぃぃぃ~~~。


 別に、なんの変哲もない私の部屋だ。部屋の南にはバルコニーがあって、この時間は優しい月の光が差し込んでいる。東の窓は鎧戸を閉め、カーテンを下ろしてある。北側には廊下に続くドアがあって、そちらには今のところ全く用がない。

 私は、西側の壁に掛かっているカレンダーをベッドの上に座りこんだまま見つめている。

「4月、1日……」

 4月1日。エイプリールフール。なんだかとてつもない嘘をつかなくてはいけない使命感にかられる日だ。


 もう日付は変わってしまった。卒業してから高校時代の知り合いにはこちらから連絡をとったことはないから、こんな日にいきなりメールなんて送ったら怪しまれるだろうか。いいや、しかし!

 しかし、やらねばならないのだ。だってエイプリールフールなんだもん。やらなきゃこっちがやられるのだ!(被害妄想)

 私は意を決して、メールをぽちぽちと打ちだした。朝6時に送信するようにセットしてぇ。うふふ、反応が楽しみだ。


 たっぷり朝寝坊をして満足した私は、被害者たちから届いていたメールをニヤニヤしながら開いていった。

 一番乗りは水橋さん。なるほど、テニス部の朝練で早起きし慣れてるのね。


 Frm:水橋 奈々枝

 Sb:びっくりしたよ!


 おはよう!

 もー、すごくびっくりし

 たんだから(>_<)

 下にスクロールするまで

 完全に信じちゃってたよ

 (^_^;)

 良いエイプリールフール

 をありがとう。


 騙されてなおかつ「ありがとう」と言える彼女は菩薩様のようだ。拝んでおこう。(なむなむ)さて、お次は……。


 Frm:氷見 良子

 Sb:あり得ると思った


 おはよ。

 朝からやってくれたね。

 最後の文章に気付くのが

 もうちょっと遅かったら

 くるみとアキに電話する

 とこだったよ!

 いやぁ、でも残念。

 ほんとだったら良かった

 のになぁ(´―`)


 信じてもらうために送ったメールなんだけど、あり得ると思われたのがなんだかショック。いや、いいんだけど、私が悪いんだけど。まぁいいや、気を取り直して次、次。


 Frm:根岸 きらら

 Sb:気をつけないと


 おはようございます。

 すっかり騙されるところ

 でした。仕返しはさせて

 もらうから覚悟してね?

 それにしても盛沢さんっ

 て、ネタの為には身体を

 張るタイプなのね…。

 3年も付き合いがあった

 のに意外な一面でした。

 でも、ネタの選択は注意

 しないと、また大変な事

 になるんじゃない?

 おもしろかったけど。


 えーと、「覚悟してね」とか「また大変な事に」っていう所がちょっと怖い。すごく怖い。……あとで謝っておこうかな。間に合うと良いんだけど。


 Frm:由良 明子

 Sb:喜んじゃった


 もー、ぬか喜びだった。

 おはよう。

 ヨーロッパに行けるんだ

 と思って、早速トランク

 を引っ張り出すところだ

 ったよ。

 スクロールが長いなぁ、

 って気が付いて良かった。

 いつか、本当になったら

 絶対行くからね?


 これ、どう見ても目的と過程の重要度が逆転してるよね。内容のおめでたさではなく、外国に行けることに喜んだね? 旅行、行きたかったのかな。


 ともかく次で最後だ。あの慌てものの瀬名さんがどう引っかかってるのか、楽しみで楽しみで。(わくわく)


 Frm:瀬名 くるみ

 Sb:きゃー!


 ええっ、どうしようどう

 しよう!

 とりあえずおめでとう。

 でも、光山君はどうする

 の?

 もちろんそういうのは本

 人の意思が一番大事だけ

 ど、ちゃんと話し合った

 方がいいと思うよ?

 ごめんね、私が口出しす

 る事じゃないのは分かっ

 てるんだけど。

 でも、ええと、是非出席

 させていただきます!


 ……うん。私、いい仕事した。見事引っ掛けたよ。しかもまだ気付いてないよ。瀬名さんたら、なんて微笑ましいうっかりさんだろう。このメールは保存決定だね。


 ところで、この返事はまるで私が光山君とお付き合いしてるみたいじゃないか? そりゃぁ、好きだとは言われたけど。異世界での婚約は有効らしいけどいやしかし!

 そういえば気長に待つって言われたけどいつまで待つつもりなんだろう? 待たれるとプレッシャー感じちゃうんだけど。できれば私に気付かれないように待っててくれたら嬉しかったんだけどな! ……な~んて都合のいい事を考えていたら、携帯から『森のくまさん』が鳴り響いた。

 なんというタイミングだろう、これは光山君だ! まさか私の思考が洩れてた? 流石に勝手過ぎましたごめんなさい! 心の中でぺこぺこ謝りながら、おそるおそるメールを開いた。


 Frm:光山 海人

 Sb:結婚するって?


 今朝瀬名さんからメール

 が来たんだけど、春休み

 に知り合った留学生と結

 婚してイギリスに行くん

 だって?

 オレ、そんな話聞いてな

 いんだけど。

 よくもまぁ、そんなこと

 考え付いたものだね?

 いい機会だからちょっと

 話し合いたいな。とりあ

 えず、今日家に行くから。

 逃げないでね?


 血の気が引いた。いや、もう条件反射で。だってなんか怒ってるんだもん! 怖いよ!

 そして畳み掛けるようにもう一つメールが。


 Frm:竜胆 宗太

 Sb:なし


 根岸から聞いた。

 結婚するそうだな。

 おめでとう。

 式には行けそうもない。

 幸せになって欲しい。


 ……ね、根岸さんんんんん! ちょっとなにそれ、なんで竜胆君巻き込むの。今の彼には特に結婚ネタは鬼門なのに! あと、なんで式への参列のお断りまでされてるの。一体どんなアレンジして送ったの?


 えーっと、とにかく予想外の所に飛び火したようなので、何とかしなくてはいけないよね。光山君はなんだか怒っているようだし、竜胆君はまた卒業式のときみたいにショックを受けている気配がする。だめだ、さすがに良心がうずく。

 というわけでまずは竜胆君から。(光山君はしぶとそうだし)腹をくくって電話を掛けてみた。


   ぷるるるる、ぷるるるる、ぷるるる、ぴ。


「……はい」

「あ、竜胆君? 突然ごめんなさい。今、時間いい?」

「いや……かまわない」

「えっと、メールの件なんだけど」

「もともと盛沢には好きな相手がいるらしいのは知っていた。気にしなくて良い」

 そんな嘘っぱちまだ信じてたんだ! ていうか信じてなおプロポーズしたんだ! すごいな、竜胆君。惚れそうだよ、もうちょっと時間くれれば。

「や、そうじゃなくて」

「あぁ。済まない、余興は誰か他のやつに……」

 余興? 私が彼に余興を頼みたがってることになってるの? あらゆる意味で鬼か。根岸さん鬼か。この鬼!


「違うの、それは根岸さんの冗談! 元はと言えば私の冗談から始まったんだけど、とにかく嘘なの!」

「……嘘?」

「エイプリールフール。今日、4月1日でしょう? それで……」

「嘘、だったのか?」

 すみません、ある意味全て嘘でした。多分竜胆君の中の私も虚像です。よくわかんないけど大和撫子みたいに思ってるんだよね?

「そうなの。結婚なんてできないって言ったでしょう? あれはつまり竜胆君が嫌いだとかじゃなくて、早すぎるって言いたかったの。言葉が足りなくてごめんね?」

「……嫌いじゃ、ないんだな?」

「う、うん」

「そうか。なら、いい」

「うん、あの、変な誤解させてごめんなさい。じゃぁ、またね?」

「あぁ」


   ぷち。ぷーっ、ぷーっ。


 ふぅ。胸のつかえも取れて非常にスッキリした。あぁ、もっと早く誤解を解いておけば良かったなぁ。お付き合いするかどうかはともかく彼はなんというか、癒しなんだよね。安心する。これでもう気まずさとおさらばだ、やったね! と気分がやや向上したところで、さぁ次。


 恐る恐る、光山君に掛けてみる。どうか、どうかまだこちらに向かっていませんように!


   ぷるるぴ。


 取るの早っ!

「やぁ。そろそろ掛かってくると思ってたよ」

 あれ、思ってたほど怒ってないよ? むしろ上機嫌だけど……は!

「まさか、あのお怒りメールは」

「うん、エイプリールフールだからね。びっくりした?」

 きいいいい、やられた!

「まぁ一瞬ビックリしたし、流石にちょっとカチンときたんだけどね。オレへの返事も保留でそんなこと言い出すなんて。でもすぐに気付いたよ」

 バカバカバカ、私のバカ。この人があんなにアッサリ引っかかるわけないじゃん! なに焦って電話してるんだよぉ。

「瀬名さんの勘違いは解いてないから、早めに連絡した方がいいよ。かなり本気にしてたから」

「……ハァイ」


   ぷち。ぷーっ、ぷーっ。


 思わずさようならも言わずに切ってしまったけどいいや。ヤツも私を騙せて満足しただろう。こうなるのが嫌だったから彼をイタズラの対象から外したのに、瀬名さんめぇ。(自分でまいた種だけどさ)


 さて、このあと瀬名さんから発信された情報がめぐりめぐって篠崎さんやら手越さんやらに尾ひれ背びれ付きで辿り着き、本気にした彼女たちが我が家に押しかけてきて一騒動あったりしたのだが……。それはまた、別の話。(ということにしておきたい)


 教訓:エイプリールフールの嘘は、明らかに嘘と解るものに限る。


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