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脇役の分際 ぷらす。  作者: 猫田 蘭
高校生編こぼれ話
3/25

彼と彼女のメール (拍手お礼+α)

   8月下旬、某日。


 そろそろ寝ようかな、と電気を消したとたん鳴り響いたショパンの『革命』に、私は飛び上がった。この着信音はヤツだ。会長だ。

 うっかりこんなセンセーショナルな音楽を設定してしまった自分の軽率さにうんざりする。彼の最近の行動はわりと衝撃的で、気分的にはほんとにこんな感じなんだけど、これ、心臓に悪すぎる。何かもうちょっと穏やかなのに変えよう。


 メールやり取りするには微妙な時間だよね、私達そんなに親しくないんだから、10時以降はご遠慮願いたいよ、と文句を言いながらメールを開いた。


 Frm:光山 海人

 Sb:Hさんについて


 こんばんは。

 今日様子を見てきたよ。

 と言っても城の中を偵察

 しただけなんだけど。

 ユーシウス殿下が先頭に

 立って、謀反を起こした

 みたいだった。

 王様含め王族は軟禁状態

 だけど、殺されてはいな

 かった。確か、盛沢さん

 が気に入ってた小さな子

 も、元気そうだったよ。


 彼女はまだ見つからない

 ようだけど、うまく逃げ

 回ってるらしい。

 また、状況が変わったら

 報告するね。


 ……あー、うん。なるほど、夕食のあとにでもあっちに行って来たのか。私が穂積さんの事気にしてたからわざわざ報告くれたのね。じゃぁ、仕方ないか。


 おぉ、我が同志(ユーシウス殿下のこと)はとうとうやっちまったか。そばで見学できなくて大変残念だ。やっぱり親族にはあまり手荒な事できなかったんだなぁ。だよね、どう見てもそんな度胸なさそうだったもん。どうせ身近な誰かに唆されてその気になっちゃったんでしょ? ヤレヤレ。困ったお人だ。


 To:光山 海人

 Sb:Re:Hさんについて


 こんばんは。

 ご報告ありがとうござい

 ます。

 とうとう謀反ですか。

 堪え性のなさそうな方で

 したからね。

 彼女が一応無事そうで、

 ちょっと安心しました。

 そのうち会えたら、是非

 ご家族へ、手紙を書いて

 もらってくださいね。



   9月初旬、某日。


 日曜日の寝坊を堪能していると、パッヘルベルの『カノン』が鳴り響いた。うぁー。誰だ、この至福の時間を邪魔するのは。この着信音は基本的にメール全部に設定してあるので、内容を見るまでは犯人が分からない。


 仕方なくもぞもぞと手探りで携帯をさぐりあてて確認すると会長だった。


 Frm:光山 海人

 Sb:ルビア様から


 伝言です。

 「養子縁組の手続きがあ

 るので、近々フォレンデ

 ィアに来るように」

 だって。

 何故そんな話に?

 オレが聞いても笑うだけ

 で、絶対教えてくれない

 んだ。


 んぎゃあああ!

 なに、あの話まだ消えてないの? ルビア様も乗り気なの? 大体、私が王妃様の親族の養女に入ったとして、私が会長と結婚なんかしたらますますその一族だけ栄えてしまうじゃないか。そんなの、他の一族からしたら絶対面白くないと思う。

 ということは、結婚する前に私を片付けちまえって事になって、またもや暗殺の標的になっちゃうじゃないか。却下却下。アリエナイ。てゆーかほんと、無い。


 それにしてもこんな内容がカノンで届くのはやはり釈然としないな。ただでさえ結婚式で使われやすい曲だ。逆に縁起が悪い。何かこう、丁度良い曲は無いものかな……。


 To:光山 海人

 Sb:Re:ルビア様から


 それはおそらく何かの間

 違いです。勘違いです。

 もしかすると幻聴です。

 耳鼻科か精神科の受診を

 お勧めします。

 聞かなかったことにして

 とぼけておいて下さい。



   9月初旬、某日。


 次の週の日曜日、フレンチトーストとセイロンティーのブランチを優雅に楽しんでいると、SF映画で有名なあの曲が流れた。ほらあの、黒い鎧の人がシュコー、シュコーって言いながら登場する時のアレ。我ながらピッタリな選曲だとは思ったのだけれど、優雅な気分がダイナシ!

 ちっ、これも駄目だな。


 Frm:光山 海人

 Sb:わかった


 リリア様にカマをかけた

 らあっさり答えてくれた

 よ。

 いつの間にかオレ達の婚

 約の話が発展してたんだ

 ね。盛沢さんは知ってた

 んだよね?

 レミア様がドレスの採寸

 したがってるよ。


 まだその話引きずってるんだ? 私先週お願いしたよね? とぼけといてってお願いしたよね? なんで自分から探ってんの? 嫌がらせか! 知ってしまったなら仕方ないけど、じゃぁ止めろよ。なんでそんな暢気に伝言預かってくるのさ。私が知っていたからってそれを承諾したわけではない事くらい分かってるくせに。


 あの人最近私のこと困らせて楽しんでるんじゃないかって気がしてきた……。


 To:光山 海人

 Sb:Re:わかった


 レミア様の妄想が暴走し

 ただけのことです。

 責任は負いかねます。

 あとはご自分でなんとか

 始末してください。



   9月中旬、某日。


 土曜日の夜はちょっと夜更かしする事にしている。勉強は11時までにして、そのあと気分転換に2時間ほど費やす。だからまぁ、起きてはいたんだけど、けど……。

 『サマータイム』が気だるげにメールの着信を知らせたのは、ヨガの立ち木のポーズ(母直伝)をしていた時だったので、バランスを崩して転びかけた。


 なんでまたこんな古めの曲にしたのかというと、もともと携帯に入っていたのに加えて最近の話題が夏のできごと(って言い方するとなんか意味深だな)に関するものばかりだから、ちょうどいいかなーって。でもやっぱりこれもしっくりこない。

 何故だ。どうしたらいいんだ!


 Frm:光山 海人

 Sb:招待状


 王様から、盛沢さん宛て

 のパーティの招待状を預

 かってるよ。

 と言っても、主役はオレ

 と盛沢さんなんだけど。

 婚約披露パーティだそう

 です。


 それはともかくまたHさ

 んの様子を見てきたよ。

 傭兵団を率いてどこかの

 国の要塞を占拠してた。

 場所を特定できたから、

 直接会えた。

 忙しそうだったから手紙

 はまた今度って事になっ

 ちゃったけど、オレ達が

 無事に戻ったって確認で

 きてほっとしたって。


 えーっと。おちつけ、まずは落ち着け、私。一個ずつ突っ込むんだ。一個ずつ。まず一つ。

 婚約披露パーティーってなんだよ! 自分で何とかしろって言ったでしょ? 言ったよね? なのになんで王様まで巻き込まれてんの。どこまでその話膨れ上がっちゃったの? そんなおおごとにしたら、あんたあっちでお仕事やりにくくなるでしょうに。


 この際だからはっきり言ってやろうかな、「懐柔しなきゃいけない派閥の娘さんと結婚しろ」って。いや、分かってるんだろうけど。そんなこと一番分かっていらっしゃると思いますけど。優秀なおつむをお持ちだから。

 それとも、これをエサにして敵味方をはっきりさせようという魂胆なのかね?


 そして、あの、穂積さん。どうしちゃったのあなた。こっちにいるときは目立たない大人しい子だったのに、なんでそんな思い切った行動に出ちゃったの。いや、まぁ、巫女姫召喚だからな……。彼女が旗印になって何らかの争いが起こるのもそんなに不思議じゃないんだけど。


 To:光山 海人

 Sb:Re:招待状


 パーティは、何とか辞退

 できないでしょうか?

 推薦入試が迫っています

 し、これ以上はお手伝い

 できません。

 お願いですからあとは自

 分で何とかして下さい。

 光山君ならできます。


 Hさんは、だいぶ逞しく

 なったようですね。

 元気そうで何よりです。

 傭兵団ってことは、誰か

 と戦ってるんですか?

 ユーシウス殿下ですか?

 太陽信仰の国ですか?


 思わず質問してしまった。ち、一回のやり取りで収まるように気をつけていたのに。だって穂積さんが何してるのか気になって!


 返事はすぐに来た。


 Frm:光山 海人

 Sb:それが


 オレにもちょっと理解で

 きないんだ。

 「世界がバラバラだから

 私が一つに戻さなきゃ」

 って言ってたから、特に

 これといった敵はいない

 んじゃないかなぁ?

 むしろ新しく国でも作る

 つもりなんだと思う。

 そのための計画が着々と

 進行中で、忙しいけど楽

 しいって言ってた。


 はい、建国ルートみたいですね? 世界を一つにとか、大それた事考えたなぁ。流石だぜ巫女様。そういえば彼女を呼んだ声の主には会えたんだろうか?

 しかし、なんかこっちにいたときと違って生き生きしてそう。ご家族に手紙書く時間も無いとは、よほど忙しく行動してるんだな。こりゃ、帰ってきそうにないなぁ。


 それにしても、ちょっと前まで目立たないように逃げ回ってたのに、もう傭兵団作り上げて砦の占拠したとか、早すぎない? 時差ってどうなってんの。


 To:光山 海人

 Sb:Re:それが


 つまり彼女は覇王にでも

 なるつもりなんでしょう

 か…?人って変わるもの

 なんですね。

 早く始末をつけて、こち

 らに帰ってきてくれると

 良いのですが。

 彼女はあちらに残る事を

 選びそうですね。

 光山君みたいに行き来で

 きれば便利なのですが。

 でもそういえば、状況を

 教えてもらうたびに事態

 が激変しているのは、も

 しかして数ヶ月単位で進

 んでいるのでしょうか。

 何にせよ、命だけは大事

 にしてね、とお伝えくだ

 さい。



   某月某日?


 部屋で静かに本を読んでいると、テクノ調に編曲された『森のくまさん』が鳴り響いた。あぁ、会長だ。

 なぜこの曲に落ち着いたかと言うと、やっぱりもともと携帯に入っていたのと、何よりすごくしっくりきてしまったからだ。理由は分からない。けれども色々試した結果、彼の着信はこれで落ち着いた。


 Frm:光山 海人

 Sb:明日


 8時に迎えに行くね。


 うわぁい、嬉しくない。いやだなぁ、行きたくないなぁ。結局押し負けて頷いてしまった私も悪いんだけど。でもレミア様が他所の国に嫁ぐ前にどうしても会長の結婚式が見たいとか、わざわざ手紙までくれたんだもん。しかも日本語で!


 私、翻訳魔法掛かったままだからフォレンディアの文字だって読めるんだけど。(でも英語とかには対応してないんだよ、ほんと不思議)なのに、お願いするなら誠意を見せなければと、会長から習ったたどたどしい字でお手紙くれたんだもん!

 あんな健気な事されたら無視できないよぅ。


 To:光山 海人

 Sb:Re:明日


 はい、分かりました。

 …ほんと、フリだけです

 よね?

 終わったらすぐ帰れます

 よね?


 Frm:光山 海人

 Sb:楽しみだね?


 ドレスはレミア様の自信

 作らしいよ?

 オレにもまだ見せてくれ

 ないんだ。花婿が先に見

 るのは縁起が悪いって。

 早く盛沢さんが着ている

 ところを見たいな。

 楽しみだね。


 か、肝心の答えが全く書いてねえええ!わざとか、わざと私の不安を煽ろうとしているのか! この根性悪っ!


 ……私の明日はどっちだ。

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