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脇役の分際 ぷらす。  作者: 猫田 蘭
戦隊のおしごと
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戦隊のおしごと 「転」

 伝説によれば、竜の顎の下には逆鱗げきりんがあるという。一つだけ逆さまに生えている厄介なうろこで、ここを触れられると激怒して、相手を殺そうとするのだそうな。

 まぁ、そんな不自然な生え方してる鱗、いかにも痛そうだからね! 触る方が悪い。


 というわけで、中山君にそこを撫でられた子竜は、伝説に違わず荒ぶりだした。アレだ、「目に映る動くものはみんな敵!」みたいな。

 と言っても子供だから、本人(本竜?)はただ、泣き叫んで手足(と、尻尾?)バタバタ振り回してるだけのつもりなんだろうけど……。いかんせん、おっきいんです。手に負えません。


 いやー、それにしても感情一つで雷雨を呼び起こすなんて、ほんと、宇宙には不思議な生き物がいるもんですなぁ。水不足に困る地域に派遣すればいいのに。(現実逃避)

 そんな危険な生き物と化してしまった子竜を前にして、戦隊は攻撃するわけにもいかず(だって、もともと保護対象だったからな! しかも子供だし)逃げ惑うばかり。


「きゃぁあ、きゃああああ」

 悲鳴をあげながらピンクがぴょんぴょんと子竜の攻撃を器用に避けてゆく。おおぅ、すごい。すごいよ水橋さん。さすが女テニのウサギさんだよ!

 そこへレッドとブルーが横から遠慮がちに麻酔銃を撃つも、子竜の周りには何らかのシールドでも張られているのか、なかなか当たらずにはじかれてしまう。


 私はといえば、生きた心地がしないままただひたすら身体を縮め、ゆらゆらと嵐に流される船の如く揺れる玉の中で震えていた。でも目は閉じない。だって、いつ脱出のチャンスが訪れるかわかんないから!

 でも持たされたデジカメには手振れ補正がついているとはいえ、画像は絶望的だろうなぁ……。


 だから、無人カメラで撮ればいいでしょって言ったのに! 現地人が撮ったリアルさがほしいなう、とかなんとか、どこぞの気難しい映画監督みたいな駄々こねたケセラン様が全部悪いんだ。

 そういうのはもっと興行収入あげてから言え! 全宇宙を泣かせてきやがれってんだ! 今泣きそうなのは私一人だからねっ?


「このままじゃ埒が明かないわ。弱点を調べるから、そのまま3人は気を引いていて! ブラックは盛沢さんが入ってる玉をお願い!」

「わかった」

 ホワイトがなにやら空中をかくような操作をすると、何もないところに緑色のグリッドが描かれて、いくつかのアイコンが出てきた。うわぁ、うわぁ、こんな状況じゃなきゃなああ!(興味深々)


 ブラックが子竜の下に回りこみ、私の真横に併走する。そして、こちらを見て黙って頷いた。

 ……うん、信じてる。


 しかし、なかなかチャンスは訪れそうになかった。なにせ、麻酔銃は通らない、他に保護目的で使えそうな武器はない、という状態だからなぁ。

 このままこの子に連れられて宇宙に行ったらどうなるんだろう、私。

 竜の生息する星に連れて行かれ、一日中ころころと転がされる光景が頭に浮かんだ。あ、アレ、おかしいな、それだけで涙が出そう。


 そもそもこのボール、大気圏突破に耐えられるくらいの強度はあるのかな? それ以前に酸素はもつの?

 仮に無事にその星に到着したとして、空気も食べ物も飲み物も補給できない(だって、ここからどうやって出るのかしらないもん。きっと私が逃げ出せないように、内側からは操作できないようになってるんだ)状態で、救助を待つハメになるのかなぁ。


 はたして、戦隊がその星に助けに来てくれるまで私は耐えられるんだろーか……。な~んて長期戦の覚悟をし始めた頃、ホワイトが「みんな!」と叫んだ。

 おおっ、とうとう打開策が検索できたか?(待ってました!)


「その生物には天敵が居るらしいの! 大きな赤い鳥みたいな……。レッド!」

「おう!」

「あなたがその鳥のフリをして、威嚇しながら南側にある廊下へ追い込んで! そこでブルーとピンクと私がシールドを中和するから、ブラックがあの珠を叩き落して!」

「と、鳥のフリして威嚇うぅ?」


 竜の天敵っていうと、ガルーダだっけ。なるほど、赤い鳥みたいな……。確かにレッドしか赤いのがいない訳だけれども、ホワイトもまた無茶振りしたもんだ。

 しかしここはなんとしてもレッドにがんばってもらわねばなるまい。


 がんばれ、やれ、レッド! 太極拳には「鶴のポーズ」とかいうのがあるみたいだよ! あのポーズをいきなり目の前でやられたら、たぶん誰だって怯むはず。私だって怯む。道行く人のほとんどが1、2歩は後ずさると思うよ、インパクトあるし。


「両手広げて、あなたのアレを発動させれば多分それっぽく見えるから!」

「あー、えっと、アレか。この前もらったヤツ?」

「そう、それ!」


 へぇ、また新しいアイテム支給されたんだ? こうやってそれぞれに違うものを与えて戦闘スタイルを特化させていくのか。ケセラン様、わかってるじゃん!

 あとはピンクだけかぁ。彼女には何がいいだろう。どうやら囮役が多いようだし、より目立つようにうさ耳とかどうかな!(ハイテク関係ない)


 準備をする、と言ってホワイトが姿を消してから5分ほど経っただろうか。突然ピンクとブルーが戦線離脱してどこかへ行ってしまった。多分、戦隊用の通信でホワイトからの何らかの指示があったんだろうなぁ。

 せめてこう、今は計画のどの段階だとか、知らせてくれてもいいと思うんだ。ただひたすら救助を待つだけって、想像以上に精神を削るんだから。


 よりによってここに残っているのは説明が苦手なレッドと、無口がデフォのブラックだけだもんな……。期待するだけ無駄か。

 ジリジリしながら待っていると、今度はレッドが唐突に子竜の前に飛び出して叫んだ。


「いっくぜぇ!『ブリリアントスカーレットシールド』ッ!」

 途端にぎゅいんぎゅいんぎゅいん、というものすごい音がして、名前の通り緋色に輝く光が工場の中を満たした。

 う、うわあああぁ、名前も恥ずかしければ音もうるさくて派手っ! なんでそんな名前平然と叫べるんだよ、すごいな。やっぱりキミは戦隊ヒーローにむいてるよ。


 レッドは両腕を広げ、子竜の行く手を遮るようなポーズで浮いていた。

 彼の腕から赤い光の粒子が下にむかって放射状にのびていて、それは一見マントのようにも見える。そして、相変わらずぎゅいんぎゅいんという謎の音は続いている。


 ところでシールドと言うからにはつまり攻撃から身を守るための機能なんだろうけれど、あの形状じゃ背中しか守れないんじゃない? 対面しちゃって大丈夫? それともああ見えて、あの光は正面もちゃんと守ってくれるのだろうか。


 レッドと子竜が衝突しそうになって、私はとうとう、ぎゅっと目を瞑った。


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