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脇役の分際 ぷらす。  作者: 猫田 蘭
戦隊のおしごと
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戦隊のおしごと 「承」

   ぎゅらるるるるぅ!


 彼(いや、女の子かもしれないけど、なんとなく男の子っぽい気がする)は、私が入っているボールに鼻を近付けすんすんと匂いをかぐと、再び鳴いた。

 幸い外部の音は、ボールについている機能でフィルタリングされて聞こえてくるからよかったものの、直接こんな間近で聞いたら鼓膜破けちゃいませんかね?

 あ~も~、早く来て捕獲してくれないかなぁ!


 あらやだこの子ったら、ボールをぺしぺし叩きだしましたよ? 正直、すっごく怖いんですけど。壊れない? ねぇほんとに壊れない? と、実はガタガタ震えていたら、いきなり視界が真っ暗になった。

 一瞬、自分が恐怖に耐えられなくなって気絶でもしたのかと思った。

 でも、残念ながら違ったみたい。あぁ、己の無駄な図太さが口惜しい。今だけでいい、簡単に気絶できる豆腐メンタルでありたかった!


 私の精神がもっとヤワだったら、意識を失っている間に全てをヒーローが片付けてくれちゃってて、「なにがあったの?」「大丈夫、もう終わったんだよ、なにもかも」「そう……。ありがとう」(抱き合う二人。カメラズームアウト)な~んてエンディングを迎えられたかもしれないのにぃっ!


   ぐるるらるるぅ~


 真っ暗な闇の中、さっきとは明らかに違う、喉を鳴らすような鳴き声が聞こえてきた。そしてずりずりっと、何かがこすれるような音も。そのたびにふにゅふにゅっとした振動が伝わってくる。一体なんなんだろう……?


   ぐりゅ~、ぐりゅりゅ~ぅ……ずりっ、ずりっ。


 んむぅ、もしかしてこれ、甘えてる声だったりしないか?

 真っ暗になったのはつまり、あの巨体で抱きかかえられちゃったからじゃなかろうか。なんでそんなに気に入られたのかはわかんないけど、これじゃ撮影どころじゃないよなぁ。もういい加減、私はお役御免だと思うんだ。だから早く助けて!


 戦隊のみんなの声が聞こえてきたのは、約10分後。

 おそいよっ、ヒーローによっては3分しか活動できなかったりするんだからもっと迅速に駆けつけてよっ!

 や、みなさんにも実生活の都合があるってのはよーく分かってるし、勝手な事言ってる自覚はあるんだけどさ……。真っ暗で心細かったんだよぅ。(めそめそ)


「あ、あれじゃねぇ?」

「そうね、固体データも、……間違いないわ。一致した」

 中山君、もといレッドと、ホワイトの声だ。

 ……戦隊名を決めるための会議は何度となく開いているんだけど、毎回決裂するから未だに「なんちゃらレッド」って呼べないんだよね。うっかりケセランホワイトなんて呼んだ日にゃ、友情にヒビが入りかねんしなぁ。


 でも「イキルンジャー」も「タエルンジャー」も却下されちゃったし。

 ほかに彼らを見ていて思いつく名前なんかあるか? 少なくとも私にはないよ。(まぁ、ラストが「レンジャー」にならないから、意味を成さないという正論の前には沈黙するしかなかったが)

「いい子にしてるね。これならこのまま眠らせちゃえばだいじょぶだね」

「今回は珍しく楽に終わるな」

「……あぁ」


 ピンク、ブルー、ブラック! 全員揃ってる。

 よかったぁ、あとは回収してもらうだけだ。思ってたより楽だったな。というか、私、まったく意味なかったよね? ケセラン様、ざまぁ! 思惑が外れたな。

 ついでに、評価アップどころかマイナスされろ、の呪いを掛けておこう。


 外では戦隊が運搬方法について話し合っている。先に睡眠銃で眠らせてからケージに入れるか、ケージに誘導してから眠らせるか、という暢気なやりとりだ。

 ……あ、アレ? 私の回収方法は? なんかちょっと不安になってきたんだけど。

「でも、ほんとおとなしいねぇ。なんでこんな子が逃げちゃったんだろう?」

「ビックリしたんだろ。密輸業者があんなもんいきなり撃ったから」


 あんなもんって何だ! えー、戦隊ってやっぱり、私が思ってる以上にキケンな任務こなしてるのかなぁ。それで時給1100円はやっぱり可哀想か……。

「なにか抱えているようだが?」

「それは+&の実の模型なう。*$%*の好物なう」

「へぇ~、ケセラン様、やるじゃん!」

「カタチは本物そっくりで、匂いもたっぷりつけてあるなう! あの匂いで*$%*は酔っ払うなう」


 ふふん、と得意気に膨らむケセラン様の姿が目に浮かんだ。なるほど、これってそういうものだったんだ? つまり、猫にとってはマタタビみたいなものってこと?

 あ、いやしかし好物と言うからにはもしかして、もしかして……。食べられちゃったりもするのだろうかっ?

 い、一刻も早く助けてほしい!(がたがた)


「まぁ、せっかくおとなしく丸くなってるんだから、眠らせちゃいましょう。変につついて暴れたら面倒だわ」

 最終的にホワイトが結論を下し、それじゃぁ、という段階になって、ケセラン様がわざとらしく声をあげた。

「ああー、そういえばさっきから助手が見当たらないなう! もしかすると*$%*が抱えている玉の中に入っているかもしれないなう~。好奇心が強い現地人はこれだから困るなう!」


 お、おまええええええええええええええ!

 まさか、戦隊に知らせてなかったのか! それでさっきから私の救助方法についての話題が全く出てなかったのか!


 なぜ私がこの、なんとかの実(模型)の中に紛れ込んでいるのか、という疑問は誰からも出てこなかった。まぁ、言わずもがなだしね。ケセラン様が犯人に決まっていると察してくれたんだよね?

「とにかく、眠らせてから回収……は、無理そうね」

「ガッチリ抱え込んでるもんな」


 うん、それは、内側からでもなんだかわかる。一筋の光も入ってこないほど巻きつかれてるからなぁ。こりゃ、解すのに骨が折れそうだ。

「この子がせめて、身体のばしてくれたらねぇ」

「じゃぁちょっと、俺がじゃらしてみるからその間に回収頼む」

 ……戦隊リーダーによる、命がけの「竜じゃらし」が始まった。


 数分後。

「なぁんだ、こいつかわいいなぁ」

 こんなにでっかくなかったらうちで飼いたいくらいだぜ、と言いながら巨大な頭を撫でるレッド。

 すごいすごい! 魔物使いとかの才能があるんじゃないか?


 この子も撫でられて悪い気はしないらしく、私の頭上からは喉を鳴らすような声が再び聞こえてきた。巻きついていたはずの身体はぐんにゃりのびて、私が入っているボールは右手に握っているだけ、という状態になった。

 よし、じゃぁそろそろ助けてくれてもいいんじゃないかなっ? かなっ?(きらきら)


 4人がそ~っと近付いてきて、私を回収するチャンスをうかがいはじめた時、私の目に不吉な光景が映った。

 調子に乗ったレッドが首の辺りを撫で回しだしたのである。

「すとっぷ、すと~っぷ!」

 そ、そこはらめえええええええええええ!


 無駄とは知りつつも、私は思わずぺしぺし、と内側から壁を叩いて警告した。が、レッドはお構いなしにまずいところを触りまくっている。

 くそぅ、外部からは映像も音も入ってくるのに、なんでこっち側からは何も届かないんだ。えぇい、誰か止めろよ、特に根岸さんっ!


 くるるぅ、くるるぅ、と定期的に聞こえていた喉を鳴らす音が、ピタリと止まった。そして。


   ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 すさまじい鳴き声と共に、雷光。そして突然の雨。

 ……あーぁ、やっちまったなぁ。(モウダメニャ)


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