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脇役の分際 ぷらす。  作者: 猫田 蘭
戦隊のおしごと
22/25

戦隊のおしごと 「起」

「プロモーションビデオなう!」

 五月半ばのある日のこと。

 夜遅くに一人(適切な単位が思いつかん)でやって来たケセラン様は、いつもの3割増しにむかつくドヤ顔で、もふりと膨れ、言った。

「しもべ共の働きをカッコよく編集して中央に送るなう! 自分達の目で見れば、もっと役に立つ武器を送ってくるに違いないなう!」

 さも、戦隊のためにいい事を思いついた風に言いきったけど、どうせ次のボーナス査定が近付いてきたから、点数稼ぎしようって腹に違いないんだ。俗物めっ!

 しかしなぜそんな話を私にするのか。勝手にやってくれ、頼むから。


「だからしもべの助手、一緒に来るがいいなう。オマエも撮影に協力するなう」

「……ぇー」

 私はなんとか、「一緒に行けない理由」を探すことにした。幸いなことに、いっぱい転がっている。

「私はほら、大気圏外で行動できませんし」

「今回のミッションは地上なう」

「運動神経悪いですし」

「動かなくていいなう」

「危険ですし」

「丈夫な入れ物を用意してやるなう」

「何たくらんでるんですか?」

「とてもいいこと、なう」

 ニタリ、という不穏な効果音が聞こえたような気がした。

 ……い、嫌な予感しかしない!


     ***


「出して~~、出せー、毛玉っ!」

 中からべちべち、と叩いても蹴っても叫んでも、ケセラン様いわく「丈夫な入れ物」なだけあってびくともしない。声も漏れないほど密封されているらしい。うわぁい、ありがたいようなありがたくないような!

 現在私は、とんでもなく巨大な工場の廃墟の中にぽつりと置かれたボールの中にいます。なぜか右手にはハンディカメラを持たされて。(あ、これ最新のやつだ。CMで見た!)

 あ、いや、カメラを持たされたことよりもこんなところに一人で放置されたことのほうが重要事項だけど! それ以前に、ボールの中に入っている事の方が問題か? あぁ、もう、どこから突っ込めというのか!


 ボールは直径約1M、私が膝を抱えてちょっとゆったり座れるくらいの大きさだった。外からは、ゆらりと炎を宿した透明な玉にしか見えなかったんだけど、中に入ってみれば全体的に黒い。そしてちゃんと平らな床がある。うぅむ、不可思議な。

 ケセラン様によればこの玉は二重構造で、床部分は常に一定の角度を保ち(いわゆるジャイロ効果ってやつ?)、衝撃吸収力にすぐれ、ひっくり返されようが放り投げられようが齧られようが踏まれようが大丈夫、だそうな。

 ……えー、大事な事なので二回言います。「ひっくり返されようが放り投げられようが齧られようが踏まれようが」大丈夫。


 言い換えれば私、今からそんな目に遭わされるってことだよねええええ! たすけて! ケセラン様が私を脅して無理やり中に入れて、蓋をする寸前にぼそっと「……たぶん」なんて付け加えやがったからとっても不安です。

 これから、このボールを何者かが襲って、私はたまたま巻き込まれた被害者としてきゃーきゃー助けを求め、ついでに被害者視点の映像も撮って、私を助けるために戦隊がいつもより頑張る効果も期待されているらしい。一体この私にどんだけ兼任させる気なんだ、毛玉めっ!

 な~んで無関係の一般人が、どう考えてもオーバーテクノロジーの玉に閉じ込められてて、なおかつビデオ撮影してるんだよおかしいじゃないかっ! って、最後まで抗議したんだけどなぁ……。


 何をしようとここからは逃げられないらしい、という結論に達した私は仕方なく、体力温存のために楽な姿勢で座り込んだ。

 あぁ、なんてことだ。よもやまさか、仮にも地球の平和を守っているはずのケセラン様に人質に取られるなんて。……あ、いや、でも、もともと戦隊の命もケセラン様にとっての人質だった。そうか、これはヤツの十八番なんだ。

 それより、私これからどんな目に遭うんだろう。


 確か、今回のミッションは「絶滅危惧種の密売摘発時に逃げ出した*$%*(例によって発音不可能)の幼生の保護」だと聞かされた。えーと、たぶんワシントン条約みたいなものが宇宙にもあるんだと思う。

 簡単に言うと、商品として取引してはいけない希少な動物を密猟者から助ける際に、保護対象の赤ちゃんが逃げ出してしまったので、その子を無傷で捕まえて群れに帰す、という任務だ。

 うん、いかにも正義の味方らしい、応援したくなるミッションだよね。

 だがしかし!

 こんな頑丈な謎の球体に入れられている時点で、そんな微笑ましいものだとは思えない! 絶対キケンなんだ。だってだって、その赤ちゃん、私が入っているボールを、ひっくり返したり放り投げたり齧ったり踏んだりできるサイズなんだよねぇ?


   ぎゅふ~~らるるるるるるぅ!


 上空から、おそらく鳴き声が響き、ばさっ、ばさっ、という羽音が聞こえてきた。

 ……アレ、しかも空飛ぶイキモノなんだ?

 というかボールが置かれている廃工場は、天井が崩れているので空が見える。おそるおそる見上げてみると、細長いようなそうでもないような微妙なシルエットがぐんぐん近付いてきた。なんだ、ありゃ? ちょうど逆光になって見えないなぁ。

 形は……うん、長い。そして多分、翼なんだろうなぁ、アレ。左右に何かのびてて、なにやら動いている。

 思わず考え込んでいる間に、「その子(だって、赤ちゃんだもの)」はとうとう着地した。衝撃でボールが跳ねる。な、なるほど、衝撃吸収力に優れているだけあって、なんかフワっとした感じしかしなかったけど! でも、でも、うわああああ!


 自分に対して相手があまりに巨大な場合、近くから全体を捉えるのはとても難しい。けれども私は、それがなんなのか(というか、少なくともなんと呼ぶべきものなのか)、わかった。

 龍。ドラゴン。ケツァルコアトル。たぶん、そんな風に呼ばれるものの一種だ。

 実際、全部が混じったような形をしている。うろこに覆われたなが~い胴体、おなかのあたりはちょっとぽっこり。そして、翼。

 あ、アハハ、私ったらとうとう伝説のイキモノとご対面しちゃった?(うれしくにゃい!)


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