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脇役の分際 ぷらす。  作者: 猫田 蘭
むかしむかし
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むかしむかし~中篇~

【まず、どれを開けますか?】


→1.5年放置されてなおかつ腐らない、根性のある桃

  2.直立不動に見えて、ちょっとそわそわしているお地蔵様

  3.川下から逆流してきたらしい玉手箱

  4.中から小さく「だして~、あけて~」と声がするおわん

  5.ぴかぴかと、もしかするとモールス信号かもしれない光りかたをする竹

  6.ゆれたり寝返りをうったりと、マイペースそうな瓜


 よし、片っ端から開けてやろう、と決意した久実さんの頭の中に、突然謎の声が語りかけてきました。と同時に選択肢が現れ、カーソルがぴこぴこと点滅しだしたではありませんか。

「え、え?」

 戸惑う久実さんの前で、飛翔君は鉈を、奈々枝ちゃんは包丁を持ってにこにこ微笑みつつ待機しています。久実さんは迷いましたが、とりあえず5年放置の桃を選んでみました。


 ぴ。

→1.5年放置されてなおかつ腐らない、根性のある桃


「それにするの?」

「5年もいたら、飽きるでしょうから……」

 久実さんがこくり、と頷くのを見て、奈々枝ちゃんはギラリと光る、よく切れそうな包丁を振り上げました。桃は、期待からかそれとも恐怖によるものか、がたがたと震え始めました。

「え~いっ!」


   ぷす。


 気合いのわりに、奈々枝ちゃんの包丁はちょこんと桃に触れただけでしたが、桃は勢いよく真っ二つに割れて、中から男の子が出てきました。目の端にちょっぴり涙が滲んでいます。やっぱり怖かったのです。

「待ちくたびれたぞっ!」

「はぁ……」

 男の子は10歳くらいに見えました。

 異国風の立派な衣装を身につけて、手には綺麗な絵本を握り締めています。おそらく放置され続けた5年間、あれを読みながら暇を潰していたに違いありません。


「私の名はモモタロー。姫君、どうか私の国に共に帰り、私の妻になってください!」

「えっ、そんないきなり?」

 久実さんは突然すぎる展開に戸惑いました。

 昔話にありがちな一目惚れ作用は、久実さんには働かなかったようです。なにせ視界が悪く、相手の容姿など見ようがないのです。つくづく残念な仕様の子です。


「この本に書いてあったのだ。閉じ込められていた王族は、助けてくれた相手と結ばれるのがせおりーだと」

「は、はぁ……」

 確かに、囚われの身のお姫様が助けてくれた王子様とくっ付くのはお約束です。男女平等が叫ばれる昨今、それが男女逆転していけないということはありません。

 とはいえ、18歳の久実さんが10歳くらいのモモタロー君と今すぐ結婚というのは色々アレです。道徳的にアレなのです。


 ちょっと考えてから、久実さんは、ズルい大人の返答でいたいけな子供を誤魔化す事にしました。

「えーと、まずはお友達から……」

 そして久実さんは、先ほどから声が気になって仕方のないおわんを、そぅっと手に取ったのでした。


 おわんからは相変わらず「だして~、あけて~」と声がします。よくよく耳を澄ませると、中からぺしぺしと蓋を叩く音もします。本当に出たくて仕方がないのでしょう。

 気の毒に思った久実さんがおっかなびっくり蓋をずらすと、隙間から小さな男の子が出てきました。タロちゃんとは違う意味で小さいです。全体で3センチほどしかありません。


 彼はきょときょとと家の中を見回すと、にこぉっと久実さんに笑って見せました。まぶしいほどに邪気のない顔です。

「キミがボクを助けてくれたんだね? ありがとう!」

「……あっ」

 その男の子に、久実さんは覚えがありました。

 彼の名前は礼央。久実さんのおうちのご近所のご夫婦の子供です。一時期は久実さんの遊び相手として盛沢家で預かっていた事もあるのですが、いかんせん空気が読めないので早々にお役御免となりました。

 その後、彼は「都で出世する」と言って旅に出たらしいと噂で聞きましたが……よもやまさか、こんなところでトラッピングされているとは。


 礼央君は、おわんの蓋の間に箸の櫂をはさんで眠っていたところ、箸を流された挙句に蓋がぴたりと閉じてしまい開けられなくなってしまったのだそうです。とんだうっかりさんです。そんなところも変わっていません。

「アレ、もしかしてクミちゃんじゃない? クミちゃああああああんっ」

 礼央君は久実さんの正体に気づくと遠慮なく飛びついてきました。そのまま図々しくも袖をよじ登り、肩にちょこんと腰掛けます。そして更に、彼は言いました。

「ねぇねぇクミちゃん、なんでそんな変なカッコしてるの?」

 久実さんは思わず、礼央君を叩き落としました。


「お父様が餞別にって渡した『打ち出の小槌』はどうしたの?」

「あぁ! あれねぇ、使えなかったんだ」

 礼央君はにっこにっこ笑いながら事も無げに言いました。あわよくば取り返して自分で使おうという希望を一瞬で打ち砕かれ、久実さんはガッカリしました。


「なんかねぇ『結婚相手に振ってもらいましょう』って書いてあったよ? だからボク、お嫁さんを探しに行こうと思ったんだ」

 打ち出の小槌にそんな注意事項があったとは盲点です。

「あ、そうだ! クミちゃん、ボクと結婚しよう? そしたらクミちゃんがボクをおっきくして! 代わりにボクがクミちゃんのその変なのとってあげるよ?」


 ちょっと魅力的なお誘いでしたが、いかんせん礼央君と結婚した先は胃潰瘍の日々が待っていそうな気がしたので、久実さんはまたお返事を保留にして、楽しそうにころころ揺れている瓜を手に取ったのでした。


「それにするのか?」

 連続で奈々枝ちゃんコレクションばかり開けられていくのを寂しそうに見ていた飛翔君が、鉈を持ってこちらへやってきました。そんな物騒なもの持ったまま嬉しそうにしないでほしいな、と久実さんは思いました。


「その瓜さ、山で自生してたんだよ。勝手にコロコロ転がって、面白いよな!」

「お願いします。あ、そっと。そ~っとですよ!」

「とぅっ」

 久実さんの忠告もむなしく、飛翔君の鉈はえらい勢いで振り下ろされました。すわ大惨事か、と思わず目をつぶると、パシっと小気味よい音が響いてけだるい声が聞こえてきました。

「もぉ、危ないわねぇ」


 恐る恐る目を開けて鉢を押し上げると、そこには美しい黒髪の女性が飛翔君の鉈を真剣白刃どりしている衝撃映像が! 彼女はふぁぁ、とあくびをしてから、鉈をぺいっと脇へ捨てると、髪をかきあげました。

「だ、大丈夫ですか……?」

 久実さんはおそるおそる声をかけました。なんだかすごく色っぽいおねーさんです。タロちゃんは何かを感じ取ったのか、久実さんの腕にぎゅうっとしがみつきました。

「あ~ぁ、おなかすいちゃった。ねぇあなた、おいしそうね」


 おねーさんはずいっと久実さんの方へにじりよると、その白い指で首筋を撫でてきました。ひいっと思わず息をのんでのけぞる久実さんにそのまま覆いかぶさって、なぜかちゃっかり胸元に納まっていた礼央君をつまみあげ、タロちゃんに押し付けます。


「ちょっと血ぃ吸わせてくれない?」

「ち、血っ? え、何でですか、お茶でも飲んだらどうですかっ」

「大丈夫大丈夫、痛くしないから」

「いやあああぁ!」

 そうして、まさに今、久実さんの首筋に牙が突き立てられようとしたその時。すぱ~ん、とおうちの扉が開きました。


「ひどいよアヤメちゃんっ! ボク、柿の木のところでず~っとまってたのに!」

 侵入者はてててててっ、とアヤメさんに走りよると久実さんからべりっと引きはがしました。みれば、アヤメさんとおんなじお着物を着た美少年です。ちょっと倒錯的で、久実さんはドキドキしてしまいました。


「ひどいよひどいよ、ボクをお嫁さんにしてくれるっていうから入れ替わったのに! こんなところで浮気なんてっ」

「あら、悟。これは浮気じゃないのよ? おなかがすいたからちょっとつまみ食いしようと思っただけ」

「ボクだけじゃ不満なの~っ? いくら天邪鬼だからってついていい嘘といけない嘘があるんだからねっ」


 悟君はうるうると涙を浮かべながらアヤメさんをなじります。アヤメさんはよしよし、と彼の頭を撫でました。ギャラリーは放置です。完全に二人の世界に入っています。

 久実さんはそろそろあほらしくなってきたのですが、ここでやめたら女が廃ると思い、ジレて点滅が激しくなってきた竹に視線を移しました。


【桃太郎】


あまりに有名ですし、そもそも本編の六月で散々使わせていただいたので今更説明するまでもないでしょう。

川から流れてきた巨大な桃に入っていた男の子が、キビ団子で仲間を集め、鬼を退治してお姫様を助けて帰ってくるお話。


私はこれで、「鬼門とは丑寅の方角である」と学びました。

色々面白い解釈があるので、興味のある方は暇なときに調べてみてください。


【一寸法師】


子供ができない老夫婦(とかいいつつ、実際は40代くらいです。しつれーしちゃいます)が神様にお祈りして、やっと授かったのは1寸(3せんち)ほどの男の子。


彼はおわんの船に箸の櫂、縫い針を刀にして都へ向かいます。

奉公先のお姫様が鬼にさらわれ、助けようとして自分も飲み込まれますがお腹の中から針でちくちく刺して鬼退治に成功。奪ったお宝の一つ『打ち出の小槌』を使って6尺(190せんち超え!)になってお姫様と結婚。めでたしめでたし。となるのですが……。


なんか、一寸法師の性格がものすごくどす黒いバージョンもあって、お姫様と結婚するために彼女に盗み食いの濡れ衣を着せて勘当に追い込むなんてエピソードもあるようです。

でも、うちのレオ君は「天然、無邪気、空気読めない」なので、それは無かったことにしました。


【瓜子姫】


瓜の中から可愛い女の子が生まれます。

瓜は、川から流れてきた、畑でとれたなど、さまざまです。

この女の子が何をするかというと、機をおります。そして、その可愛らしさや機織の技術が評価されて玉の輿に乗ることになります。


あるひ、おじいさんとおばあさんが家を留守にした隙に天邪鬼がやってきて、この女の子を言葉巧みに騙してすりかわるのです。知らない人が訪ねてきてもドアをあけてはいけないのです。良い子はちゃんと覚えましょう。

アポなし訪問には居留守でいいと思います。個人的には。


さてここからが問題なのですが、瓜子姫、アッサリ殺されちゃうバージョンがあります。この場合かなりえぐい展開を見せますから割愛。

結局おじいさんとおばあさんは入れ替わりに気付いて天邪鬼は退治され、生きているときは女の子が回収されます。

どうでしょう、この活躍しなさ加減。

特に救いの無いほうの話は子供の頃怖くてたまりませんでした。絵本の挿絵がまた怖くて……。


というわけで、案外マイナーな瓜子姫についてもっとよく知りたい方は、検索してみてくださいね。


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