婚約者(偽)の日々(拍手お礼修正3+追加1)
そのいち
会長のお仕事の都合上もうしばらくこちらに滞在する事になって、たいへん暇なので(お姫様達の襲撃を避けるため宰相室で本を読んで過ごしていたのだが、いい加減飽きた)ケセラン様を萌えキャラ化してみることにした。
何故こんなアホなことを考えついたのかというと、やっぱりあの5人戦隊への救済策というか……。ほら、憎たらしいだけの相手のために頑張るのって、モチベーションが上がらないじゃないか。やる気を出せば、もしかしたら戦闘能力も上がるかもしれないし、そうしたらあの「死のサイクル」から逃れられる確立だって…・・・どうかなぁ。(望み薄そう)
ケセラン様の萌えキャラっぽいところ
・へんな語尾
・まるい
・しろい
・ふわふわ
・ちっちゃい
・浮いている
・たまに光る
……あれ、結構揃ってる気がする。なのになんで萌えないんだろう。燃やしたくて仕方なくなるんだろう。
あぁ、性格か。あの偉そうで自己中で気まぐれで空気読めなくて陰険でねちっこくて常識なくて図々しいところがだめなんだ。
そういう性格でも許されるのって、こう、神経質そうな研究者タイプで、もちろん実力もあって(ココすごく大事!テストに出るくらい大事!)ひょろっとしたモヤシっ子系だけど美形で、メガネかけてて白衣着て無表情だけどたまに笑って……って萌えええ!
やば、ケセラン様、擬人化したらもしかしてイケるかもしんない。(あ、その際は変な語尾と甲高い声はなしの方向で)なんだか私の中にあるイケナイ部分が反応した気がする。
うわぁ、私ってマゾっ気もあったんだ。
そりゃそうか、色々理不尽な目にあってきたもんね……。そういうのに目覚めないと耐えられなかったんだね、可哀そうな私。(ほろり)
……ケセラン様の研究から、また一つ知らなくて良かった自分の秘密に気付いてしまいました。
そのに
まだまだ暇なので、こんどはキャベ……キュピルをもうちょっとなんとかしてみようと考えた。
時間つぶしにしてももうちょっと別な事すればいいだろう、と自分でも思うのだが、どうしても粉々に砕け散った子供心を再生したくなって。だってさ、魔女っ娘のマスコットって、可愛くてしかるべきじゃぁないか? できればもふっとして、肩とかに乗っちゃって、癒し系でいてほしいじゃないか。
肝心な魔女っ娘達があまりそれらしくない、というのも問題だが。
せっかく3人ともタイプの違う可愛い子なんだからさ、もうちょっとふりっふりの衣装に変身してよ。色とりどりのハート型の光線とか撒き散らしてよ。可愛くて装飾過剰なステッキ振り回してよ! ぴんちになったらもう一段階変身して、さらにヒラヒラの装飾増やして見せてよ!
あぁ、もう、私本気であの魔女っ娘達のプロデュースしたくなってきた。そしてついでにアイドルとして売り出して……! その為にもキュピルをなんとかしないとな。
キュピルの萌えキャラっぽいところ
・へんな語尾
・まるい
・浮いている
・たまにくるくる回る
・へんなうたを歌う
・かばんのなかに住んでいる
なんだ、キュピルって結構マスコットキャラとして優秀じゃないか? ……キャベツでさえなければ。大玉のキャベツに、頭に見合わぬほっそい身体がくっついてるんじゃなければ!
せめてさぁ、頭は可愛い妖精っぽい女の子で、身体の方はキャベツをベースにしたドレスを着てるって形ならなぁ。それならあの口うるささも、やっぱり空気読めないところも、実はなんの役にもたってないところも、「まぁ妖精さんだからね」って大目にみてあげられるんだけどなぁ。見るからにキャベツだもんなぁ。
そういえばあんな大きなキャベツをいつも鞄に突っ込んで持ち歩いてる瀬名さんって、案外力持ちだな。相当な重量がありそうなんだけど。
キャベツといえば、お好み焼きが食べたい。あんな大玉なら何人分作れるだろう。そうだ、今度の調理実習は是非ともお好み焼きを推そう。ああいうのは大人数で食べた方が美味しい気がするし。
ついでに「うっかり間違えて」キュピルを刻んだとしても、それは仕方の無い事故だしな、ふふふ……。初対面でお腹にまぁるい痣を作られた恨みはまだまだ忘れていないのだよ?
と、新学期の家庭科実習がとっても楽しみになった私なのでした。
そのさん
まだまだまだ暇なので、今度は会長をやっつける方法を妄想してみた。
肉弾戦では絶対敵いそうにないので(だって私はか弱いおんなのこ。会長に限らず大抵の相手には負ける自信がある)やはり精神的に追い詰めるべきだよね。噂という武器を有効活用するべきだよね。
本人を眺めながらこういうことを考えるのはちょっと気持ち良い……。
手段1:トリッパーであることをばらす
欠点:私が頭のおかしい人扱いされる
手段2:実は良い人などではないことをばらす
欠点:私がフラれたかなんかで逆恨みしていると思われそう
手段3:いっそ流言飛語を流す
欠点:本人が笑ってそのまま流してしまいそうでむかつく
手段4:こちらでの宰相姿を、コスプレ写真だと言って売りさばく
欠点:カメラも携帯も手元にない。そして、入手ルートを聞かれると私が困る
あぁ、だめだ、陥れる方法が見つからない。やはり地球に帰ってからではだめな気がする。やはりこっちにいられる、今のうちになんとか工作しないと。
なんだかんだと会長も頭が上がらない姫君達に、なんとしても協力してもらわないと!
私は本をぱたりと閉じて立ち上がった。
「散歩に行ってきます」
「だめ」
い、いま一瞬の間も無くだめって言った! 書類から顔も上げずにだめって!
「もう少しだから、ここにいて。他の本、用意しようか?」
「座ってるのに疲れちゃって。歩きたいんです」
「じゃぁお茶入れて? 盛沢さんって、紅茶入れるの上手なんでしょ?」
どこから仕入れてきやがった、その情報。あと、私はあんたのメイドじゃねぇ!
「い・や・で・す! 外に行きたいんです。会長じゃない人とお話しておきたいんです」
「ますます駄目だよ。今、姫君達と組まれたら、オレもちょっと困った事になるし」
コイツ、気付いてる……! 気付いて監視してたのか。いやむしろ監禁? 鍵かかってそう。
ですよねー。私の地にも大分気付いたなら、私がそういう行動に移りそうな事くらいわかりますよねー?
「だから、ずっとそばにいてね?」
ニッコリ笑って言う会長の顔面に、私は想像の中で拳をめり込ませたのでした。
そのよん
会長は姫君達と私が必要以上に接触するのを大変警戒している(私がいつ裏切るかと、全く信用してないんだよ失礼だね、うふふ)らしく、本当に朝から晩まで私にベッタリである。
そんな姿が更に誤解を呼び、既に城の中での私は「宰相様が溺愛する謎の婚約者」という不本意な扱いを受けている。いや、あの、ほんと違うんです、監視されてるんです、誰かタスケテ。おはようからおやすみまで見張られてるんです、勘弁して。
本日もきっちり寝室まで送り届けられ、やっと開放された気分でストレッチなどしていると、扉を叩く音がした。はて、こんな夜更けにどなたかな? 先触れも寄越さず来るとは、お忍びだよねぇ?
一応ドアの前の見張りの人がチェックしているはずだから、それなりのご身分の方だよね。どうしよう。
「失礼致します、クミ様、一の姫様がお越しです」
おおぅ。レミア様ですか。こいつは都合がいい。できればルビア様のほうが焚付けやすいんだけど、会長のいないところでコッソリお話できるのならいっそリリア様だって良い。(失礼)
「はい、あの、もう夜着なのですが失礼に当たりませんか?」
「構いませんのよ、わたくしが突然うかがったのですもの」
レミア様は、私の答えを聞くより先に入っていらっしゃった。……いや、何も文句なんてないです。ただ、結局似たもの姉妹なんだなーって思っただけ。
侍女の皆さんにはお茶の用意だけしてもらい、人払いをした。アレ、前にもこんな感じの事があったような。なんだか密談慣れしてきたようで自分が怖い。
「わたくし、今日は姉妹を代表してまいりましたの」
レミア様はひとしきり「まだ夜は冷えますわねぇ」だのと時候の挨拶みたいな話題を一時間ほどしてから、やっと本題に入ってくれた。長いよ、前置き。
「カイトとクミさんが結ばれるにあたって、わたくしたちは納得いたしましたけれど、まだ色々と問題があるのです……。気を悪くなさらないでね?」
一気に気分が向上いたしましたが? 小躍りしたいくらいには。
だよねー、王様お気に入りの、出自のはっきりしないうえに(異世界から来てる事はトップシークレットらしいよ?)しょっちゅう城を空ける若い宰相なんてただでさえ気に食わないのに、更に出自のはっきりしない小娘が出てきて、城内を歩いてるんだもんねぇ。
会長にはそれでも実績があるから簡単には蹴落とせないけど、代わりに私を叩き落そうという流れができるのは自明の理だよね。
自分の娘を会長に嫁がせたい貴族なんてのもいっぱいいそうだしな。
「えぇ、よく分かります。もともと、私、カイト君と結婚なんて、そんな大それた事は……」
「でも安心なさって。とても良いことを思いつきましたの。と言っても、これはリリアの案なのですけれど」
ひとのはなしを、きけ。
「わたくしたちの母方の親戚に、子供のいない家がありますの。身分は伯爵家なのですけれど、それなりに力のある家です。そこに、養女という形で籍を入れてくださいな」
い……いやだ!
そもそも、だ。何でこっちでそんな心配されにゃあならんのだ。どうあっても会長を囲い込んでおきたいのは分かる。しかし、そこに私は必要ないはずだ!
「そうすれば、クミさんの身元をとやかく言う方達も静かになりますわ。リリアったら、姉のわたくしが言うのもなんですけれど、本当に賢い子ですの」
まぁ、お后様のご親族が後見に付けば、そりゃぁ黙るしかないだろうさ。でも根本的に間違ってる。
「あの、私はこちらで結婚する予定は無いのですが……」
もちろん地球でもないがな。ヤツとは、ない。ないといいなぁ! (弱気)
「まぁ、そうでしたの? どうしましょう」
どうにかしなきゃいけない事態でも発生してるんですか?
「わたくし、お友達にお話してしまいましたの。だってお二人とももう、いつ結婚なさってもいいお年ですし、きっと近々正式に紹介されるでしょう、って」
れ、レミアさまああああああああ!
あなた、確かオットリしてるキャラなんだから、そんな早々と爆弾発言しないでくださいよ! なんでそんなに気が早いの。
「いえ、少なくとも私達の世界では、20代から30代で結婚するのが一般的なんです。それにまだお互い学生ですし、当分予定は……」
「それは、随分ゆっくりですのねぇ。うらやましいですわ」
……そういえば、こちらの世界の慣習で言えば、レミア様はもうそろそろ適齢期が終わってしまうのだ。会長への想いを諦めて、どこか他所に嫁がねばならないのだ。なんて理不尽なんだろう。でも王族の女性というのは結婚が仕事だからな……。
「では、こちらで先に式だけでも挙げておいてはいかがかしら? ね、きっと楽しいですわ。ドレスはわたくしに用意させて下さいね。あぁ、どうしましょう、妹達にも知らせなくては」
だからこそ、吹っ切るためにもせめて会長の結婚式を見たい、というお気持ちは理解できなくも無い、が。その夢は私が叶えなければいけないんですかね?
「え、や、あの……!」
「こうしてはいられませんわ。ではクミさん、夜更けに失礼致しました。また後日、詳しい事が決まったらお知らせしますわね」
「あの、あのっ」
そうして、すごいハイテンションのまま、私が口を挟むことも許さずレミア様は立ち去ったのである。
……はやくおうちに帰りたい、と心底思った夜なのでした。