なう ろーでぃんぐ3 (拍手お礼修正+1)
*ぶっちぎりで光山君のターンです。苦手な方はそっとブラウザを閉じてください。
あのゲーム、やめようかやめまいか、悩んだ末にまぁ夢くらいならいいじゃん、という結論に達したのでまだまだ私の冒険は続くのである。(ぴこぴこ)
さて、ねよーっと。なるべく平穏な夢がみられますように。
ぐぅ。
私の名前はクミ・モリサワ。ギルドの受付のおねーさんの助手、が本業だと自分では思っているのだが、今日は久々に「貴族のお姫様」モードになっている。
先日母から届いた手紙にほだされて実家に顔を出してみたら即このザマだ。私が帰ってくるのを見越して色々セッティングしていたんだな。なんて抜かりのない両親だ。
私は今、大変な苦境に立たされている。あのカイト・コーヤマがにっこにこしながら我が家にやってきたのだ。どうやら私に会わせたい人がいるらしい。そしてそれは、父も母も承知していたらしい。
どうりでで入念に支度させられたわけだ!
「久しぶりだね。ギルドで仕事をする姿も可愛らしかったけど、そのドレスもとても似合っているよ」
「……アリガトウゴザマス」
「まぁ、クミさんったら緊張しちゃって。カイト様、娘をお願いしますね。ではわたくし、お茶会に呼ばれておりますので」
母は無情にも私とカイト様を二人きりにして出かけてしまった。いや、まぁ、侍女がついてるから正確には二人きりじゃないけどさ。
馬車の中でカイト様から話を聞かされて、私はため息をついた。大変だ、どうしよう。なるほど両親が私に言わなかったわけだ。また脱走すると思われたのだな。流石にしないよ、これ以上家の面子を潰すような真似は。
「憂鬱そうだね。姫君達にお会いするのがそんなに苦痛?」
「いえ、ただ……緊張します。私のような身分の者が王族の方とお会いするなんて」
カイト様はどうやらこの国の姫君達も陥落させてしまったようで、婚約者とやらに会わせろと再三要求されていたらしい。今回、私が帰ってきたことを耳にした姫君達が(どうやって知ったんだろう)なんとしても会うとごり押しなさったそうだ。
私の家は貴族とはいえ王宮に簡単に出入りできる身分ではないので、わざわざ姫君達がお忍びでコーヤマ家の別宅に遊びにいらっしゃるのである。そこに「たまたま」私が訪れて、「姫君達のご厚意で」お茶会に招かれるという設定だそうだ。貴族社会の体面ってめんどくしゃー。
そこまでして私を品定めしたいのか! いっそ王家の権力で婚約破棄させればよろしかろうに。あぁもう。3年間も平民として暮らしてきた私になんてことさせるんだよ。とんでもない無礼をやらかしたらどうするんだよ。
「大丈夫。姫君達も君を見れば気に入ってくださるよ」
何を根拠に言うのだ、この口は。
目の前の形の良い口を思い切り横に引き伸ばしてやりたいとうずく両手を必死になだめながら、それでも私は馬車が到着しなければいいのに、と願っていた。
コーヤマ家の別宅は、別名「薔薇の城」と言われている。その名の通り見事な薔薇園が広がっており、さらに屋敷の一角には高価なガラスで作られたサンルームがあって、冬でも薔薇を楽しむ事ができる。
この部屋の中には滝が作られていて、その涼やかな水の音を聞きながらお茶会ができるようになっている。
我が家は、お金はあっても身分がそう高くないので、こういう贅沢なものを持つ事は自粛している。分不相応だからな。
かといってアンジュのところはお金がなかったので、やっぱりこんな素敵なお部屋に通された事はなかった。あの家、経費削減でほとんどの部屋を閉鎖してるんだよね。そうじゃなくても怪しいコレクションルームだらけだし。
伯爵家とはいえ王族と縁戚関係にあるおうちは違いますなぁ。ほんと、なんでたかが男爵家の娘なんかと婚約したんだろう。持参金目当て? でもこの部屋見る限り、うちよりずっと裕福ですよね。
まぁそんなことは置いといて、なるほどここならば姫君達がお忍びで遊びに来るのに都合がいい。対外的には薔薇を見に来たのだ、という事にできるからな。彼女達はあくまでも薔薇を見にいらして、たまたまそこに出くわした身分の低い娘にお声をかけてくださるのだ。そんなお心遣いはご遠慮申し上げたいんですけどね!
姫君達はまだ到着なさっていないそうなので、私は「ちょっと遅れて登場」するために、他のお部屋を案内してもらうことになった。
「結婚したら当分はこの屋敷で過ごす事になるから、今のうちに慣れておくといいよ」
不吉な事を言ってにこにこ笑うカイト様に手を引かれ、私は屋敷見物に出発した。
広い。とにかく広い。でもコレクションルームは素晴らしかった。アンジュの家とは集めるものが違う。呪われた品コレクションじゃないというだけで、どうしてこんなに輝いて見えるんだろう。絵の趣味も良いし。いいなぁ、この屋敷。欲しいなぁ。(屋敷だけ)
それにしても、私は本当にこの人に嫁ぐ事になってしまったのだろうか。3年間も失踪(といいつつ泳がされてただけ)していた娘と、王様の覚えもめでたい有望株が結婚なんておかしくないですか?その辺、伯爵家のご夫妻はどうお考えなんですかね!
「よく使う部屋は好きなように改装していいよ。なんだったら今からでも。寝室はどうしたい?」
し、寝室とか良いから! わたし、一人でメイド部屋にでも押し込んでくださってかまいませんからぁ!
「いえ、あの、結構です。どのお部屋も十分素敵だと思います」
「好きな色は?」
「薄紫です」
「なら、カーテンと寝具はその色で揃えようね」
ひぃぃ、新生活の準備会話が着々と進行している!
「書斎はもっと広げよう。ちょっと伝手があるから、珍しい本も揃えられるよ」
ものすごく魅力的なお誘いに、心がぐらついたのは仕方ない事だと思うんだ。
お姫様方が到着なさったので、カイト様はお出迎えに行った。私は客間に避難している。ちょっと気まずい(私だけ)話題が中断されたのはありがたいが、これから始まるお茶会のことを考えると、もう……!
あぁ、ギルドに帰りたい。ばっちくてむさくて薄暗いあのギルドに! (重症ですね)
あーぁ、アヤメおねーさんどうしてるかなぁ、ちゃんと仕事してるかな。採取品はちゃんと整理してくれてると嬉しいんだけど、きっと山積みにしてるだろうなぁ。
現実逃避も兼ねて、滞っているであろう仕事に思いを馳せていると、とうとう姫君方のお使いがやってきた。
「失礼致します。ルビア姫の使いの者です。お茶をご一緒に、とのことです」
言葉は丁寧だけど態度がものすごくトゲトゲしい。
いや、うん。姫君方の侍女という事はやっぱり下級貴族だもんね。自分と身分が同じか下の娘と、自分のお仕えする姫君がお茶とか、はらわたが煮えくり返ってるのですね、分かります。
「私のような身分のものがご一緒するのは恐れ多い事です」
「姫君が是非に、とのことです」
このやり取りは台本どおり。一回ちゃんと遠慮したけど、お姫様の強いご希望で、という体裁をとるためだ。……実際そうなんですけどね?
連行される囚人の気分で、私は先ほどのサンルームに戻った。
あぁ、捕まった賞金首ってきっとこんな気持ちなんだろうなぁ。今度引渡しの手続きする時は少し優しくしてあげよう。と思った。(多分私、今ちょっとおかしくなってるんだとおもう)
「あなたがカイトの婚約者ですのね」
思ったより柔らかい口調のルビア様に、私は黙ってお辞儀をした。お許しがあるまでこちらから話してはいけないのだ。
「今日は気楽なお茶会をしにまいりましたのよ。どうぞ遠慮なさらないで、普通にお話して下さいな」
レミア様がにこっと微笑んで椅子に座るよう勧めてくださったので、私は用意されていたカイト様の隣の席に腰を下ろした。うあー、肩が凝るー。
「ふぅん……。もっと強そうなのかと思ったのに」
リリア様が変なことおっしゃいましたよ!
「リリアったら。ギルドにお勤めとはいえ、冒険者のみなさんとは違うのよ。ごめんあそばせね、クミさん。気を悪くなさらないで」
「いえ、そんな」
皆様、私がギルド勤めしてることまでご存知なのか。もうちょっとこう、軽蔑されるかと思ってたんですけどね。貴族の娘が働くなんて! とか。興味深々だけど好意的みたいだ。
「自立しているなんて素晴らしい事だと思います。これからは女性も強くあるべきです」
強い女性代表みたいなルビア様に褒められた。そっか、ルビア様は女だてらに政治にも積極的だからな。男社会に進出する女性、という括りにされたのだな。
「口さがない者たちもいるでしょうけれど、わたくしたちは貴女の味方です。それだけお伝えしたかったの」
「……もったいないお言葉でございます」
そして、紅茶も喉を通らないお茶会は終了した。
外堀が埋まっているなぁ。どうやって逃げたものかなぁ。と現実逃避しながら家に帰り、夕食もとらずに寝てしまった。
ぐぅ。
えーっとですね。最近母が、やたら光山君に好意的なんだよ。いつの間にか知り合っちゃったようでね、彼のお母様と。
最初はジムでよく会う顔見知りだったのに、だんだんと仲良くなって、今はランチする仲なのだそうだ。で、子供の学校がたまたま一緒だと聞いて、さらにクラスまで一緒で、そういえばその苗字聞いたことある! みたいになっちゃって。
それでまぁ、盛り上がってしまったようなんですよ。迷惑な話だよな。
だからこんな夢みちゃったんだってば!
違う、絶対違うぞ。あっちの私が本物で、私が彼女の夢だなんて認めないからね。私が本物だもの!
と、ベッドのうえでゴロゴロ身悶える私なのであった。
やっぱり封印、するべきかぁ……。
とか言いつつ、変なところで負けず嫌いの血が騒いだ私は、まだまだ頑張っていた。だって、考えてみたらどっちが現実の私なんだとしても、生きている限りは物語りは続いてしまうものだ。
だからラスボスまで来て止めるなんて、そんなことできない!
懲りないんですよ、すみませんねぇ。(ぴこぴこ)
えいっ、このっ、いい加減っ、勝たせてー!ぁ……。寝よう。
ぐぅ。(不貞寝)
私の名前はクミ・モリサワ。ギルドの受付のおねーさんの助手である。
本日、職場に復帰いたしました。ええ、帰って来ましたよ。お給料頂いている身なのでね。
そう簡単に職場放棄できません、と言ったら、うちの両親は「それもそうか」と納得してくれたのです。こういうところは理解があるよね。ありがたやありがたや。
さて、今は昼。アヤメおねーさんが山積みにしていた採取品を朝から分別して(一部は残念な事になっていたので、アヤメおねーさんの査定表にちゃんとその旨書いておいた)やっと人心地付いた所だ。うぅ、肩凝った。
ギルド内にお客さんがいない事をさっと確認してから、椅子に座ったまま思い切り伸びをする。ぐーっと伸びて、そのまま30秒……。(うにゃーっ)
「クーちゃん、見えてる」
ぐにっ、と胸を鷲づかみにされて、驚きのあまりひっくり返りそうになった。せくはら、せくはら!
「アヤメさん、なんてこと……!」
「だって、ボタンの間から全開で見えてたんだもん。弾けそうだったし」
いや、うん。ギルドの制服のシャツ、ちょっとキツいからね。普段は気をつけてるんですよ? でもほら、お客さんいないからちょっと油断してました、すみません。
「もー、お嫁入り先が決まってるからって、気を抜いちゃだめよぉ? 変な噂立てられたらどうするの」
たかが伸びをしたくらいでどんな噂が立つというのかも気になるところだが、私の嫁入り先が決まっているというのはどこからの情報だ?
「なんだか、変なお嬢様がそこらじゅうで聞きまわってるのよ。『カイト様の婚約者の座を私から奪ったクミ・モリサワはどこにいるの?』って。……クーちゃん、今町の女の子たちから賞金首みたいな扱い受けてるわよ」
ひぃぃぃぃ!
「と、いうわけで、ケセラン様のとこにあなたの護衛依頼出しといてあげたから。行き帰り送ってもらえるように。あ、護衛費は組合の保険からおりるようにしといたから。だからぁ」
アヤメさんはにこっと笑ってさっき私がコッソリ書き込みをした査定表を取り出した。
「このマイナスは、消しちゃっていいわよね?」
「浅はかな私をどうかお許し下さい」
アヤメさんは、いいのよ、といいながら、マイナスに一本付け足してプラスに直していた。……この人には一生勝てないなぁ、と思った。流石は年の功。
あれ? アヤメさんって、私と同い年だったような。あれぇ? ……まぁ、いいか。
to be continued?