なう ろーでぃんぐ(拍手お礼修正+1)
いちにちめ
子供の頃はまっていたRPGが、アプリになっていたのでついついダウンロードしてしまった。あんまり懐かしかったから夜更かししちゃったよ。さ、寝よ寝よ。
ぐぅ。
私の名前はクミ・モリサワ。ギルドの受付のおねーさん……の助手である。
色っぽいアヤメ・ヌクイおねーさんが「あらン。今日は何のご用かしらぁ」な~んて冒険者さんたちの相手をしている後ろで、依頼書の整頓をしたりギルドカードの発行手続きをしたりしている。地味な仕事だが気に入っている。
今日もまた、お仕事を探しに一人の若者がギルドを訪れた。
「おっす、アヤメねーさん。なんか派手な仕事探して来いってケセラン様がうるさくってさぁ」
ケセラン様というのは、誰もそのお姿を見た事はないが大変な有名人だ。遠くの国からわざわざやってきて、この町に大規模な傭兵団を作り上げた。
しかしあまりに過酷な労働条件に、一ヶ月もたたぬうちにみんな抜けてしまって結局現在も在籍しているのは5人だけだ。あの5人が何故まだ所属しているのかは分からないが、なんだかケセラン様には黒い噂が付きまとっているので誰も聞くに聞けない。なにかものすごくまずい秘密を握られているらしいというのが一般的な見解だ。
まぁ誰にでもそういうのってあるよね。他人が聞けばたいしたことなくても、本人にとっては絶対に知られたくない秘密。(彼らにそんな大した秘密があるとは思えないしな)
それはともかく、このヒショウ・ナカヤマというよりによって一番しっかりしてなさそうな人物が隊長らしいのだがやっている事はもっぱらケセラン様のパシリである。
「派手なオシゴトねぇ……。なにかあったかしら、クーちゃん」
クーちゃん……。いや、いいんだけど。略すほど長い名前じゃないよね、私。
「そうですね。あぁ、これなんかいかがですか?商隊の護衛ですが、ここ、結構大手なんです。名前売っておくのも悪くないですよ」
彼が入ってきた時点で開いておいたファイルから、募集要項や雇用条件の書類を取り出した。
何を隠そう私はこの5人に大変同情的だ。幼馴染で何故か隊員になってしまった魔導師のキララ・ネギシを通して治療師ナナエ・ミズハシさんとも交流があるし、傭兵団に入るまでは町の自警団に所属していたソータ・リンドウには引ったくりを捕まえてもらった恩がある。
もう一人のイツキ・フクシマについては……よう知らんが。ギルドに併設してある酒場でナンパしている姿しか見た事ないな。あのひとなにやってんの?
「商隊の護衛かぁ。ちょっとこれ借りてっていい? ケセラン様に聞いてくるわ」
そんな判断でさえ自分でできないのかお前は。だからパシリ呼ばわりされてんだぞ! とは言わずに、「汚したり破損したり無くしたりしたら強制で受けてもらいますから」と注意して渡してやった。
コピー機とかないから書き写すの大変なんだよ、あれコピー機?って、なんだ……っけ……
えーっと、昨日なんの夢みたんだっけ。なんか、夢の中でもゲームやってたような? う~ん……。まぁ、いいや、学校いかなきゃ。
ふつかめ
今日も今日とてちょっとやりすぎた。だってだって、懐かしくてつい!
ささ、早く寝よーっと。
ぐぅ。
私の名前はクミ・モリサワ。ギルドの受付のおねーさん……の助手である。
色っぽいアヤメ・ヌクイおねーさんが「うふン。またきてねぇ」な~んて冒険者さんたちの相手をしている横で、手配書を貼り付けたり採取依頼品の整理をしたりしている。地味な仕事だが気に入っている。
今日もまた、お宝を売りに3人娘がギルドへやってきた。
「やっほー、アヤメさん元気ぃ?」
女の子だけのトレジャーハンターとしてちょっと名の知れている『フェアリー』の一員、リョーコ・ヒミさんはいつも元気だ。このグループはしょっちゅう掘り出し物を持ってくるが、一体どうやって見つけてるんだろう……?
「今日は、珍しいもの持ってきたんですよ」
そう言ってアキコ・ユラさんが鞄の中からなにやら固そうなものを取り出した。あぁっ、そっと置いて! 机磨いたばっかりなんだから。一見おっとりしたお嬢さん風なのに、彼女は意外とがさつと言うかなんというか。
「んん~? これって魔法石の塊? クーちゃん、これっていくらくらいだっけ?」
アヤメさんは、少しは換金表くらいチェックするべきだと思う。
カウンターに座ってうふんあはん言ってるだけじゃ駄目だと思うんだ! 仕事をしろ。
「重さにもよりますけど、まぁこの大きさならこのくらいですかね」
私がさらさらっと書いた金額を覗き込んでクルミ・セナさんが「キャー」と喜びの悲鳴を上げた。
「やったやった! キュピルすごぉい」
「きゅぴー」
ん?
「あれ、今なんか……」
クルミさんの鞄の中から何か聞こえたような……っていうかキュピルって何。
「なななななな、なんのことかな!」
「やぁねぇクルミったら。へんな声出しちゃって!」
リョーコさんとアキコさんの動揺っぷりが尋常ではない。一体なんだというのか。
「え、あ、あ、えっと、そう! そうなの、私、嬉しいと変な声出しちゃう癖があるの。困ったきゅぴぃ」
い、痛々しい! クルミさんの捨て身の誤魔化しに免じてスルーしてあげよう。
ところで彼女の鞄の端っこの方から緑の野菜(?)がはみだしてるけど。夕食の食材? そういえば今日の夕食は何にしよう。お好み焼きとかいいな。あれ、お好み焼きって、なんだ……っけ……
ふぁぁ、よく寝たぁ。なんかお腹がすく夢を見たような気がする。今日の朝食は和食だといいなぁ。
みっかめ
ゲームも大分進んで、本筋に入ってきた。そうそう、こんな話だったよねぇ、とか思いつつやっぱり止められなくて今日も夜更かし。いけないいけない、さぁ寝よう。
ぐぅ。
私の名前はクミ・モリサワ。ギルドの受付のおねーさん……の助手である。
色っぽいアヤメ・ヌクイおねーさんが「いやぁン、お世辞言っても何もでないんだからぁ」な~んて冒険者さんたちの相手をしているその向こうで、違約金の取立てをしたり喧嘩の仲裁(ギルドカード抹消しますよといえばイチコロさ)をしたりしている。地味な仕事だが気に入っている。
今日は、お偉いさんがやってくるのでギルド内になんとなく緊張した空気が漂っている。いつも、床を掃いてカウンターを磨くくらいの手入れしかされていないこの建物が、本日はなんだか華やいでもいる。
それもこれもたった一人のオキャクサマのために。
「こんにちは。お世話になります」
こーのきらっきらしたにーちゃんはカイト・コーヤマといい、どっかのお貴族様のぼんぼんである。
貴族らしく王宮とかで謀略に満ちたお話し合いでもやってりゃいいものを、生意気に腕も立つらしく、王様からの勅命でいろんな所のゴタゴタを片付けたり、各組織との交渉役として派遣されているのだ。って王様のパシリじゃん。やーい、パシリ。
まぁそれはいい。それはどうでもいいんだけど、なにせ彼は王様のお気に入りで(パシリとはいえ)強いうえに顔もいいので、訪問がある度に町の女の子達がキャーキャー騒いで用もないのにギルドに殺到するのだ。
普段は「むさい、ばっちい、なんかこわい」と言って絶対近寄ってこないくせにさ。……まぁ、そのご意見がそんなに間違っているとは言わないけれど。
とにかく、そんな無駄な混乱を収拾するために働くのは私なんだよ。
これって給料外のお仕事だよね?だってカイト様とやらも町の女の子たちも、ギルドに所属してないんだもん。私のお仕事はギルドに所属する人たちのお世話だもん。
はいはい、そこ、押さないでー、ロープより内側には入らないでー、ってあぁ、鬱陶しい!
「ギルドはいつ来ても大盛況だね」
「いえ、いつもはもっと整然と、閑散としていますが」
このバカ騒ぎに比べたら多少の刃傷沙汰なんぞ大した事ではない。刃物持ち歩いてりゃ機会があれば抜くさ。心構えはできている。
それになんだかんだ言いつつ皆ちゃんと並ぶしな。そもそも列ができるほど栄えてない。
ところが興奮した集団の心理と言うのはおそろしい。女の子の中にはたまに、「自分はおんなのこだから」というのを免罪符にとんでもない事をやらかすのが混じっている。
どさくさに紛れて抱きついたり髪の毛引っこ抜いたり、へたすると装飾品むしったりな。記念品が欲しいのは分かるが、傷害罪だから。窃盗罪だから。一人がやると我も我もと殺到すから性質が悪いんだよ。個々は大人しいのに、集まると怖い怖い。
王様のお気に入りに万が一でも怪我なんてさせちゃぁなんねぇ、とギルドの上の方からお達しがあって、結局毎回彼のためにそこら中に入場規制のロープを張って案内(といいつつ何かあったら身を挺して守れと言われているが、こんな非力な私にどうしろと)して回っている。
ちくしょー、アヤメおねーさんはなにをしているんだ! は、今日は旦那様のお誕生日で休みか! 万年新婚さんめっ。
「クミさん、だよね? アヤメさんから色々聞いてるよ」
「はぁ……」
色々って、なんか話す事あるのか、私について。
「君と直接話してみたかったんだ。今夜、夕食に誘っていいかな?」
「えっ」
こいつがとんでもない事を言った途端、ロープの向こう側が一瞬シーンと静まり返り、次の瞬間けたたましい悲鳴が上がった。
悲鳴と言うかもう、怒号? ひぃ、殺意を感じる! 今もしかして私、この町の女の子の大半を敵に回した? え、なんでこんなことに?
「いえ、あの、私っ、結構です」
身の安全を図らねばと必死で声を張り上げた。みなさーん、私は無実、むーじーつー!
あなたたちのアイドルと二人でお食事なんかしませんよー、とアピールするつもりで言ったのだが、何故かそれはそれで気に食わない人がいたらしい。
「ちょっとあの女、カイト様のお誘い断るなんて何様なのっ」
お誘い受けたら受けたで怒るくせにいぃっ、と叫び返したくなるようなクレームがどこかから上がった。どうしろってゆーの。
「夜はあの、宿題が……宿題……は!」
そこで目が覚めた。ははは、今日こそ夢の内容をきちんと覚えてたぞー。てゆーかまた夢の恐怖で飛び起きたパターンだよ。
私、どれだけ会長がらみで怯えてるんだろう。ショックのせいか、ここ三日分の夢を全部思い出した。
夢の中でも私って地味な職種についてたなぁ。RPG世界で事務職とは我ながらなんて堅実なんだ。しかも受付のおねーさんの助手とか。見た事ないよ。
まぁ、ゲームでギルド行く度に同じセリフしか言わないうえに座りっぱなしのおねーさん見てて、きっと裏方が頑張ってるんだろうな、と思っちゃったせいだろうけど。
しかしケセラン様率いる傭兵団とか、絶対所属したくないよね。そっちの事務員としてこき使われているよりずっといい夢だったよね、うん。ごめん、5人とも、夢の中でさえ助けてあげられなかった。ガンバレ。
キュピルは、お宝探知の才があることになってたのかな? いや、ちがうな、もしそうだとしてもきっと本当の探し物だけは探せない探知機に違いない。アレがそんなに役に立つはずが無い。
どうせ「こっちにある気がするきゅぴー」と言いながらミスリードして、たまたま運よく何かを見つける、というパターンに決まってる。
そして……会長。最近ヤツのファンらしきお嬢さんがたからの視線が痛くて痛くて、視線で刺し殺されそうなんだよ。そのせいであんなオチになったんだろうな。
あーもー、まだ朝の4時だよ。もう一回ねよーっと。今度こそ安眠できますように。
宿題?抜かりなくやってあるからだいじょー……ぶ……。ぐぅ。
よっかめ
あんな夢をみてもゲームはなかなか止められない。というか、物語は佳境に入っているのだから止めたらなんだか悔しいじゃないか。くそぅ、中ボス強いな!よし、今日はここまで。
ぐぅ。
私の名前はクミ・モリサワ。ギルドの受付のおねーさん……の助手である。
色っぽいアヤメ・ヌクイおねーさんが「やぁン、ほんとに、これもらっちゃっていいのぉ?」な~んて冒険者さんたちの相手をしているその影で、ブラックリストの作成をしたりちょっと後ろ暗い情報の売り買いをしたりしている。地味な仕事だが気に入っている。
今日は見慣れない二人組みがギルドを訪れた。
一人はやや小柄で、多分女性と思われる。頭からフードをすっぽりとかぶっているが布はなかなか上等で、どうやら身分のある方のお忍びのようだ。
もう一人は大変立派な体つきをした男性で、傭兵の見本のような人だ。私が持てば両手でも持ち上がらないであろう大きな剣を左腰にぶら下げている。刃こぼれしきっていて、あれはもう刃物と言うより鈍器だ。実際そのように使用しているのだろう。
女性らしきほうがアヤメさんに声をかけた。
「すみません、この町に有名な傭兵団があるとかで、こちらで仲介していただけるとうかがったのですが」
「有名な傭兵団~? もしかして、ケセラン様のとこかしらぁ?」
ちょっとちょっと、アヤメおねーさんや。情報料さえ頂いていないのにペラっともらしちゃだめですよ。
仕方がないので私はしぶしぶ口を挟んだ。
「まずは、システムの説明をさせていただきます。お二人はこちらのギルドに所属の方ではないようにお見受けしますので、情報料が発生します。そののち、ご希望であれば仲介も致しますが、そちらにも手数料が発生します」
ごそごそととりだした値段表を見せると、傭兵らしき方が頷いた。適正価格だと判断されたらしい。
しかし、ケセラン様の傭兵団は「ケセラン様が」ある意味有名というか悪名高いのであって、ご期待なさってるようなお仕事には向かないと思うんだ。たぶん。だって5人しかいないんだもん。
「こちらでご紹介できる傭兵団は3つほどです。失礼ですが、ご依頼のおおまかな内容などをうかがっても?」
二人は、一瞬視線を交わした。女性が頷いた。
「……よろしければ奥に個室がございます。どうぞこちらへ」
まぁ、お忍びで傭兵団雇いに来る理由なんてろくな事じゃない。そういう密談のためにちゃんとお部屋が用意してあるものなんです、ギルドには。
私はカウンターをアヤメさんに任せて、奥の部屋へ入った。
「……つまりこちらはお隣の大陸の、尊き月の巫女様であり、現在逃亡中でいらしゃるのですね?」
「幸い民衆は巫女様の味方だ。これを機に、悪政を敷く王家を討つ。そのために優れた傭兵団を必要としている」
はい、間違ってもケセラン様のとこは紹介してはいけない事例でした。あぶないあぶない。
「先ほどカウンターでお尋ねになった傭兵団は、少々特殊ですのでそのようなご依頼には適しておりません。代わりに、こちらの二つでしたら規模も大きく、戦場での功績も上げています。いかがでしょう?」
ケセラン様のところが特殊すぎるのであって、一般的な傭兵団は戦争屋である。戦に参加してなんぼというか……。
その道で食っていこうと自分で決めた奇特な連中の集団なので、紹介するのに良心は痛まない。
「いいだろう。どのくらいで集められる?」
「まずは団長クラスと交渉していただきます。こちらでできる手続きはそこまでです。あとは余程のトラブルがない限り、ギルドは関知いたしません」
しかしまぁ、ホヅミさんも大変だよねぇ……。あれ、ホヅミ……? 穂積、ってえーと……。
「あぁ、またあの夢かぁ」
ボーっとする頭で反芻する。そういえば穂積さんは実際、傭兵団を率いて砦を占拠して戦ってるんだよね、何かと。えーと、たぶん運命とかそんなのと。
ところで私の仕事内容がどんどんすさんだものになっていませんか? もしかして後ろ暗い所担当になってる? いや、好きだけど……。そういうの、割と好きだけど。
あの傭兵さんは、そういえばあんな顔してたっけなぁ? 全然覚えてないと思ってたけど、なんとなく似てたと思う。でも夢では常識的な金髪程度になっていた。やっぱり私、あの世界の色彩の豊かさにはなじめなかったんだな。
穂積さんはその後どうなったんだろう。また近いうちに、会長が見てきてくれるといいなぁ。ついでにお手紙の回収も。
さぁ、起きよう。
to be continued?