うわさばなし。
盛沢さんについて?
まぁ、いいけど。どんな事が聞きたいの?
……そうね、彼女と同じクラスになったのは今年が初めて。でも、噂はよく耳にしたかなぁ。たとえば、「おうちはお金持ちらしい」とか「成績優秀」とか「口がかたい」とか。有名ね。あとは、ちょっと悪意を感じるようなのもあったかな。「学校の理事にコネがあって、先生から贔屓されてる」とか、「あの胸は実は豊胸手術によるものだ」とか?
それから、「ボールは絶対持たせないほうがいい」っていうのは、一緒に体育をすれば一目でわかるから、これは噂と言っていいのかしら。
そんなことが聞きたいんじゃないのね? うぅん、じゃぁ、ちょっと変わった噂といえば……。「親の決めた婚約者がいるから恋人が作れない」っていうのは聞いたことある? あぁ、やっぱりこれはマイナーだったのね。
くるみがどこかから拾ってきた話なの。あの子ったらすぐに噂に振り回されるんだから。しかも最後まで聞かないし。困ったクセよねぇ。良子みたいに「それはそれで面白い」って言えればいいんだけど、どうも私には付いていけない時があるのよね……。だから本当のところ、元の話がどうだったのかは分からないんだけど……。ねぇ、私より良子に聞いたほうがいいんじゃないかしら? あぁ、そう。みんなに聞く予定なの?
うぅん、なにせくるみが聞いてきた事だから。なんでそんな話が出てきたのかはわからないかな。
流石に同じ学年でそんな特殊な境遇の子がいるとなると興味もわくものでしょう? 良子なんてわざわざどんな子なのか見物に行ったのよ! まったく、なんでも面白がるんだから。
これは私が勝手に考えた事なんだけど、ほら、盛沢さんって可愛いじゃない? 癒し系だし。そんな彼女にどうして恋人がいないのかなぁ、っていう話題が出た時に、「お金持ち」っていう噂と結びついて、誰かが適当に「婚約者でもいそうだよねー」なんて言ったんじゃないかと思うの。
そういう無責任な言葉を誰かがさも真実みたいに作り変えたんじゃないかなぁ、って。
……まぁ、面白いけど。
彼女の不幸な所は、そんなお話でも何故か全否定されにくい所よね。ほら、何て言ったらいいのかしら……。浮世離れしてる? そう、浮世離れしてる感じじゃない? だから、そういうちょっと変わった話も「もしかしたら」って思えちゃうのよねぇ。
でも同じクラスになってから大分印象は変わったわ。……えーと、そう、あの、お花をね? 盛沢さん、お花をいっぱい教室に持ってきてたでしょう? あんまり綺麗だったから、お庭が見たくなって話しかけたの!
最初ちょっととっつきにくい感じだったんだけど、というか、なんだか警戒されてるような感じだったんだけど……。いろいろやっかみを買いやすい人だから、人間不信気味なんじゃないの?
まぁ、そうなのよ。打ち解けちゃえば話しやすいし、すごく器の大きな人だなぁ、って分かったの。……信じられないような話でも受け入れてくれるし。いいえ、こちらの話。
果物が好きみたいよ? 特に苺。よく苺牛乳買ってるしね。あら、知らなかった? かなりの頻度で買ってるわよ。
あとは、そうねぇ……。残念ながら、誰が好き、という話はしないかな。うんうん、分かってる。もともとそれが聞きたかったんでしょ? 光山君との関係ね。やっぱり、みんな興味深々なのねぇ。
でも、あれは微妙な所だと思うな。良子がそのことで盛沢さんをよくからかうんだけど、結構ムキになって否定するの。だから、全く意識してないわけじゃないとは思うんだけど。そもそも盛沢さんって、あんまり男の子を意識した事ないんじゃないかしら?
そうそう、免疫なさそうよね。他人の恋愛相談なんかにはのってるみたいだけど、自分の事となると全くダメなんでしょうねぇ。無意識なのかわざとなのか、避けたがってるんじゃないかな、って思うの。だからこそあの「婚約者がいる」っていうお話も、もしかしたらあり得るかなー、って。
光山君のほうも、なんだかなぁ、って思うんだけどねぇ。構い方が悪いのよ。彼とは去年も同じクラスだったんだけど、今年になってかなり意外な一面を見た気がする。彼って、好きな子には意地悪しちゃうタイプなんじゃない? 案外子供だったのね。
盛沢さんみたいな子には、もっと正攻法で行くべきだと思うんだけど。いきなり近付き過ぎたせいで警戒されてるんじゃないかしら? え、そうなの? あれは最初から?
……変なの。盛沢さんって、王子様っぽい人が好きそうなのに。難しい人なのねぇ。
とにかく、私より良子に聞いたほうが絶対詳しいから。……くるみはお勧めしないわ。というより、くるみに聞いたりしたらあの子がまた何か誤解して騒ぎになるからやめてあげて。盛沢さんがかわいそうだから。お願いね。
「でも、そういえば米良さんって、盛沢さんと同じ中学出身じゃなかった?」
「うん、そうなんだけど、やっぱり新しい視線からも見てみないと良い作品がかけないかなって!」
「作品?」
「うん。できあがったらクラス会にでも持っていくから、由良さんも読んでね」
「……盛沢さんにはみつからないようにね」
「大丈夫。もうバレちゃったから」
「可哀想な盛沢さん……」
「この作品でデビューするんだ!」
「っ! 可哀想な盛沢さんっ!」
「がんばるぞーぉ!」