巫女姫(偽)の溜息(拍手お礼短編修正版4+追加1)
二月中の拍手お礼の改稿+1編です。
溜息のいち。
王宮の廊下を足早に歩く青年の姿があった。
まるで後から追いすがってくる小さな足音から逃れるように、急いている。
「カイト! カイト、お待ちなさい!」
とうとう痺れを切らした足音の主が声をかけると、青年はため息を一つついて歩みを止めた。
「カイト! 何故わたくしとの結婚を断ったの!」
「ルビア姫……」
青年は困ったように微笑んだ。
「わたくしとも、レミアお姉さまとも、リリアとも結婚しないなんて。この国の何が不満なの?」
姫君は花のかんばせを真っ赤に染めて、心底信じられないというように青年をなじった。
「不満があるわけではないのです。ただ、オレには心に決めた人が……」
「な、なんですって! 一体どこの娘ですか!」
この国に、国王の娘達のお気に入りである青年に近付く女の影など無かったはず。
ルビアは己のうかつさに地団太を踏みたい気分であった。
「オレの、元々の世界の子です。学校で、色々相談にのってもらっていて。見た目は小さくて可愛いのに気が強くて、でもそれを必死に隠そうとしているところがまた可愛いんです。」
「ガッコウ……」
ガッコウ、というのは確か、同じ年頃の子供達が集う学び舎のことだっただろうか。
カイトの世界にはこの国にないものがたくさんある。
彼の知識や、行動によって、この国は少しずつ良い方向に変わってきた。そしてこれからも。
自分こそがその隣に立つのだと思っていたのに。少なくとも、姉妹の誰かが選ばれると、信じていたのに。その目には自分が映っていると、確かに感じたこともあったのに。
いつの間に、心が離れてしまったのだろう。
「その娘が、わたくしたちよりも大事なの?」
「……オレにとっては」
姫君は唇をかみ締めた。
「そう、ならばわたくしたちが見極めてあげる。その娘があなたにふさわしいかどうか。連れてきなさい!」
そして、くるりと振り向いて立ち去っていった。
こういう時に泣き顔を見せるのは、ずるい事だと思った。
……と、いう、夢をみたわけだが。
目を覚ましてから冷や汗をかいた。なんだ、あれ。悲恋モノのドラマか。キャストが知り合いだとなんだか居心地悪いな。
ところで、小さくて可愛くて気が強いのを隠している、相談にのってくれる子って私じゃないかね? (自分でいうか)
いや、これはただの夢だから、この場合私の願望が痛々しいというだけだ。それはそれで辛いものがあるけど。いや、しかし、それでも、夢で済むならそれで構わない。
~とある王宮の朝食の風景~
「どうしたの、盛沢さん? オレの顔に何かついてる?」
「う、ううん、今日もカッコイイな~って思って」
「そう? 盛沢さんも可愛いよ」
なんだこの新婚さんみたいな会話。まぁ私のとっさの答え方が悪かったんだけど。
会長は、ふ、と優しげに微笑んだ。やめてくれ、砂糖吐きそうだ。
「そういえば、オレの相談事、まだ言ってなかったね」
「はぁうあっ? あ、うん、色々あったものね」
あぶない、パンを落とすところだった。
「……実はね」
正夢かどうか、判明するまであと1分……?
溜息のに。
道場の掃除が終わって戻ってきた旦那様に、私はいつも紅茶を出す。
彼は、本当は緑茶が好きなんだけれど、私がずっと慣れ親しんできたアフタヌーンティーの習慣に、ちゃんと付き合ってくれる。
幸せだなぁ、と思う。特に何が、ってわけでもなくて。ただこの人とこうしていることがたまらなく愛おしい時間なのだ。
最近は、街の剣道道場というのはなかなか経営が苦しくて、だから生活に余裕があるわけではない。絶対苦労するから、と、両親は私がこの家に嫁ぐのを最後まで渋っていた。
けれども、無口だけど本当は優しいこの人と結婚した事を悔いた事はない。
一緒に縁側で寄り添って月を見るのがすき。
実家には無かった畳の上で、じゃれあうのがすき。
朝一番に、ちょっとかすれた声で「おはよう」って起こされるのがすき。
宗太さん、と呼ぶと「ん?」って振り向いてくれるのがすき。
とても、すき。
わたしはいま、とてもしあわせなの……。
と、いう夢を見たわけだが。
んきゃあああああああ、こそばゆいいいいい!
でも、でも萌える、すごく萌える、なにこの胸の高鳴りは。
あぁ、いいなぁ、これは良い。私、帰ったら竜胆君に猛アプローチしようかなぁ。4月に存在を認識してから、なんかいいなぁとは思ってたんだよね。純和風な雰囲気と、切れ長の目もツボだったし。あと、密かに勉強会のとき、骨ばってて長い指によく萌えてます。もしかしてこれは恋じゃないかしら!
~とある王宮の朝食の風景~
「おはよう、姫君」
「あ、おはよーございますー(ぽけー)」
「……盛沢さん、なんか機嫌良い?」
「あー、うん、すごく良い夢みたの……(うっとり)」
「……へぇ(なんかおもしろくない気がする)」
「幸せって、案外近くにあったりするのね」
「……どうしたの盛沢さん、嫌な事でもあったの?」
「ううん、わたしはいま、とてもしあわせなの……(はふぅ)」
「そ、そう? (どうしよう、このこ)」
溜息のさん。
私と彼は、大学は一緒だけれど学部が違う。
お互い束縛するのもされるのも好きじゃないから、一々相手のスケジュールを調べたりはしない。だから、タイミング次第でたまにこんな場面にも出くわしてしまう……。
「ねー樹ぃ。今夜うちにおいでよぉ」
「んー、そうだなぁ」
別に異性としゃべるな、とか合コン行くな、なんて言わない。私だって誘われたら行く事もあるし。世界の人口の半分位は異性になるのだから、当然関わらなければ生きてはいけない。そんな独占欲はない。
しかし! 一応彼女という存在(つまり私)がいるのだから、最低限の一線は守れよ! なんだ、「そうだなぁ」って。そりゃぁ私と付き合ってるのはわざわざ公にはしていないけど、なんとなく私の立場がないじゃないか。私が一方的にあんたを好きで、無理に付き合ってるみたいじゃないか! 許せん!
チャラそうな見た目と全く反しないその性格、今日こそ叩きなおしてくれる。
「福島君、ちょっといいかしら?」
嫉妬というよりは義憤に燃えて、私は他人行儀に声をかけた。この野郎に誠実さという言葉を教え込まねばなるまい。
「あ、クミ……」
あきらかにうげっという顔をするなら可愛げがあるものの、悪戯が見つかった小学生みたいに笑うとは言語道断。
さぁ、どう料理してくれようか、な。
とゆー夢を見た。
不完全燃焼で未だに怒りが解けない。帰ったら後ろからどつきたくなるかもしれない。いや、これは夢だから。私が勝手に彼の人格を歪めているだけで、もしかしたら彼は一途な人かも知れないから。けれど、あぁ……ムカつく!
~とある王宮の朝食の風景~
「おはよう、盛沢さん」
「……おはよう」
「どうしたの、なんか……機嫌悪い?」
「ものすご~~く腹が立つ夢を見ちゃったの。しかも、夢とは思えなくて」
「あぁ、そういう時って、怒りをどこにぶつけたらいいかわからなくなるよね。オレもたまにあるよ」
「意外。かいちょ……カイト君って、あんまり怒らないイメージだったから」
「そりゃ、オレにだって色々あるよ(遠い目)」
「へ、へぇ(どうしよう、なんかまずい事聞いちゃった?)」
溜息のよん。
「盛沢ぁ、メシくわして~」
ヘロヘロのヨレヨレという状態で中山君がマンションの前に落ちていた。
落ちていたって言うか、行き倒れていた?
「なぁに、またバイトクビになったの?」
「それがさぁ。大型テレビ運んでる時に緊急呼び出しがあって……。落としちゃったんだよなぁ」
未だにケセラン様の呪い(?)から逃げられず、彼は予想通りフリーターになっていた。会社員じゃ、フレックス利用しても追いつかないもんね。
といっても、突然バイト中に消えたり、今回のように高額商品を取り落としたりすることが多いので、悲しいことに長続きしない。
今回は宅配のバイトだったようだけど……。
「なー、早く事務所作って俺を雇って~」
しかし、中山君の一番の問題は、この他力本願さなんじゃないかと最近気付いた。せめて「一緒に店を開こう」とか、そういう考えは出てこないのか。自分はあくまで雇われる立場でいたいのか。責任は全部私にお任せしておきたいのか!
こういうのをもしかしてダメンズとかいうのではないだろうか。
と、大急ぎで食事の支度をしながら思う私はいわゆる「だめんずうぉーかー」認定されちゃうんだろうか……。
って感じの夢を見た。
こわっ。ケセラン様こわっ! ほんとに将来の中山君はああなっていそうだ。私が面倒をみているかどうかは別として。
あぁ、しかし同情が深すぎるからあんな夢みたのかな? 「可哀想ってのは惚れたってコトさ」っていう名台詞が頭の中をグルグル回る。スポーツ漫画に出てきそうな、歳に不相応なほど童顔の彼はそんなに好みじゃないはずなんだけど。
えー、まさかわたし、ええええ。
~とある王宮の朝食の風景~
「おはよう。……どんな夢見たの?」
「あ、おはようございます。変な顔してます?」
「変っていうか、ものすごく悩んでるように見えるけど」
「ええ、その、自分でも意外な趣向があったのかもしれないと、将来が不安になって」
「……へぇ(将来が不安になる趣向って、一体どんな夢みたんだろう)」
「まさかわたしが、あんな、あんな……うぅっ」
「まぁ、人には言えない趣味の一つや二つ、誰にでもあるよ(……ふ)」
「え? え、えぇ? (どうしようすごくまずいこときかされた!)」
溜息のご。
深夜、目が覚めると腹が立つほどお綺麗な顔の男が隣で寝ていた。いわずもがな、私の夫である海人だが。
私は何でこの男と結婚してしまったのだろう。未だに自分でも分からない。顔はすきだった、それだけ。
四六時中顔を突き合わせていると劣等感に苛まれる。なんでももっている、なんでも与えられるひと。優しいのは確かだけれど、真意が見えない。まるで、その名の通り海の底を覗き込むような不安しか返してくれない。
なんだか泣きたくなった。
「眠れない?」
いつから起きていたの、なんて馬鹿な質問だ。彼は気配に聡い。私の視線に気付いたんだろう。
「まだ後悔してるんだ?」
彼は私の葛藤をよく分かっている。なのに逃がしてはくれない。都合が良いから私を選んだくせに、真綿にくるむように甘やかそうとする。
ねぇ、私、あなたといると苦しいの、と言うと、そう? と私を抱き寄せた。
「大丈夫、なにも難しく考えなくて良いんだよ。全部オレにまかせておけばいい」
そして私は、どんどん逃げ場を失って、この男に絡めとられて行くのだ。
っていうものすごく見ちゃいけない夢をみた。
飛び起きて叫んだね。「いやあああああああっ」て。おかげで護衛の皆様が飛び込んできたけど知ったことか。
ホラー映画よりも怖かったよ! トラウマものだよ! ここ最近のよくわからん未来シリーズの夢の中、間違いなくワーストワンだよ。あんな居心地の悪そうな結婚生活するくらいなら一生中山君の面倒見るほうがマシだし、糸の切れた風船(凧よりしっくりくるよね)みたいな福島君と腐れ縁を保つほうがマシだし、ってゆーか竜胆君らぶ? みたいな!
絶対、絶対に高校だけであいつとは縁を切らねばならない。なんだか今のままだとなし崩し的に「便利」という理由だけで彼女にされてしまう気がする。いいや、確信した。
これはただの夢などではなく本能からの警告なのだと確信した!
~とある王宮の朝食の風景~
「おはよう、今朝はすごい騒ぎだったね」
「……オハヨーゴザイマス」
「あれ、また機嫌悪い?てっきり怖い夢を見たんだろうと思ったんだけど」
「ものすごく、このうえなく、史上最悪の悪夢でした」
「誰かにに追いかけられたとか?」
「追いかけられたどころか、捕まってました」
「……(監禁される夢?)そっか、怖かったね」
「とても、言葉で言い表せないほど恐ろしくて不快な夢でした」
「……ところで、なんで丁寧語で話すの?最近はもうちょっと砕けてくれてたと思うんだけど」
「いいえ、このほうが楽なので! (必死)」
「……まぁ、そのうちに慣れてね(にこっ)」
「(ぷるぷるぷる)」