わたしは監視する。
わたしには彼の営みはまるでわからない。
何故四足で歩かないのか、毛繕いもなしに生活を出来るのか。ボサボサの頭部の毛はいつも不格好で、わたしからして見ても異様だと喉を鳴らすばかりだ。
そして気を抜けばすぐわたしを構いたがるクセがある。仕方なく触らせてやるのだけれど、わたしだって暇ではない。何度か頭を撫でられてやったあと、もうよせと身を捩ると彼は名残惜しそうな貌をして、手を離す。
侮れないものだ。あの手は魔の力でも備わっているらしい。
彼はとてつもなく頼りなく、自分を守らない。だというのに、わたしの世話だけは欠かさず行う。自身のメシよりも先にだ。まったく、わたしがいなくては何一つことが進まないというのに。
故にわたしは、彼が無理をしないよう今日も監視を続ける。
朝には身体がなまらぬよう、ストレッチも兼ねた狩りの練習。糸くずの塊を鼠と見立て、戦うのだ。決して遊んでいるわけではない。
疲れたら、彼がわたしのためにと用意したメシを食らう。これがなかなか、美味である。名前はわからぬが、香ばしい魚の香りに、わたしの好物の味が染みていて、ついしゃぶり尽くすように食らってしまう。
腹が膨れたあとは昼寝。怠けるためではなく、体力を温存するためだ。日当たりの良い所は事前のパトロールで調査済みなので、問題は無い。
わたしが寝ている間、彼は自分のことをやっているようだが、カタカタと音が響いて、少し耳障りだ。けれどそれがまた、わたしの瞼を落としていくのも事実であり、癪である。
が、寝るのにも飽きてくるので、たまに彼をからかいに行く。ちりちりと毛が波立つような、動く絵画の前を歩くと、彼は決まってわたしを退けようとする。慌てたような貌が、わたしの心をくすぐる。
思わず喉を鳴らしてしまうのは、彼を好いているからではない。心地良さに甘えているだけだ。
また一眠りしたあと、透明な壁の外が暗くなるので、晩が来たとわかる。そうしてわたしは、彼がよく立つ水場へと赴くのだ。彼の用意するメシは決まった時間に来るから、わたしも慣れてしまっている。
しかし今日は、彼は失敗をした。どんなに嗅いでもメシの匂いが立たない。これは……わたしを待たせているのか? それとも、忘れているか?
仕方がない、わたしは彼がいるいつものスペースへと向かう。鳴いてやると、わたしに気付いて狼狽した様子を見せていた。慌ただしいやつだ。
『ごめんねぇ』だとか鳴いていたが、わたしはそんな名前ではないだろう……いつもお前は『かわいい』と言っているのに。
夜半、彼は寝床に行く。ふわふわと雲でも被ったような布を身体に覆い、眠りにつく。わたしは、彼の寝息を聴いたあと、その雲へ飛び乗る。すん、と鳴らした鼻で彼の匂いを嗅いだ。
わたしがひとつ欠伸をすると彼は気付いて、また構いだした。懲りないものだ。
今日も彼はいつも通り。これで、わたしも安心して眠りにつけるというもの。
わたしには彼の営みはわからない。
けれどそれでも、この頼りない彼を見守るのが、わたしの役目なのだと、今では思う。
彼の瞼が閉じたのを見て、指をひと舐めしたあと、わたしは隣に丸まった。




