お姉ちゃんのもの
妹は昔から、私のものを欲しがった。
友達。
好きな人。
彼氏。
気づけば最後は、妹のものになっていた。
だから大人になってからは距離を置いた。
私は結婚して、静かな幸せを手に入れた。
優しい夫がいて、もうすぐ赤ちゃんも生まれる。
やっと自分の人生を守れたと思っていた。
──あの日までは。
実家で妹が言った。
「お姉ちゃん、私も妊娠した」
私は少し驚いた。
「そうなんだ」
でも妹は楽しそうだった。
「相手、誰だと思う?」
胸がざわつく。
妹は笑った。
「お姉ちゃんの旦那」
頭の中が真っ白になった。
妹は平然と続ける。
「お姉ちゃんが幸せそうなの、ずっとムカついてたんだよね」
そして私のお腹を見る。
「だから同じパパの子、作ってみた」
私はしばらく黙っていた。
それからゆっくり聞いた。
「その子、産むの?」
妹は迷いなく答えた。
「もちろん」
そして笑う。
「だってさ」
私のお腹を見て言った。
「兄弟になるんだよ?」
私は小さくうなずいた。
それから静かに言った。
「そっか」
バッグから封筒を取り出してテーブルに置く。
「じゃあこれ、見て」
妹は不思議そうに中を見る。
中には書類が入っていた。
弁護士の名前。
慰謝料請求。
養育費。
認知。
不倫の証拠。
妹の顔が固まる。
私は静かに言った。
「全部そろってるよ」
妹が顔を上げる。
「なにこれ」
私は答える。
「あなたがうちの夫と会ってた記録」
スマホの画面を見せる。
写真。
メッセージ。
ホテルの出入り。
妹の手が震える。
私は言った。
「あなたがうちの夫に近づいた日から」
少しだけ微笑む。
「全部知ってた」
妹は黙る。
私は続けた。
「あなた昔からそうだから」
静かな声で言う。
「私のもの欲しがるでしょ」
妹の顔色が変わる。
私は立ち上がった。
お腹の赤ちゃんが動く。
優しく撫でる。
そして妹を見た。
「でも今回だけは違うよ」
妹が震える声で言う。
「……なにが」
私は静かに答えた。
「あなたが壊したと思ってる家庭」
少し間を置く。
「もうとっくに終わってたから」
妹の目が見開かれる。
私は最後に言った。
「あなたがうちの夫と寝た最初の日」
静かに笑う。
「私、離婚の準備始めたの」
妹は何も言えない。
私は玄関へ向かった。
ドアの前で振り返る。
「おめでとう」
静かに言う。
「そして、ありがとう」
ドアを閉める。
外は春だった。
でも妹の人生だけが、
その瞬間から静かに崩れ始めていた。




