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王族揃っての排斥運動は瞬く間に社交界に知れ渡っていった。
招待客のリストからもれた者、挨拶をしても言葉を返して貰えない者、最初は理由に思い当たらなかった当人達も、繰り返されるその出来事に一族で理由を探し、そして全ての出来事がアーチボルト伯爵家に対する陰口が原因であると思い至るに及んだ。しかし、どの貴族も謝る相手がわからないまま困惑し、社交界の日陰者に日々落ちぶれていく姿は、経済危機を家族の努力で助け合って補い、ドレスを工夫し仕立て直し、着回していた当時のジャスティーヌやアーチボルト伯爵夫妻よりも、もっと哀れでみすぼらしかった。
何しろ、権力におもねる事を唯一の特技とする貴族達にとって、爵位の高さよりも王族のおぼえのめでたさは何よりも大切だ。例え、侯爵であろうと、王族に無視されるのであれば、仲間と思われないように距離を置くのが当たり前。例え貧乏伯爵家であろうが、娘が王太子妃になることが確定しているアーチボルト伯爵家と懇意にしたいと、あの手この手で接近を計るのが当然の流れだった。
王族からの徹底的な排斥を受けた貴族の中には、アーチボルト伯爵家を訪ね許しを乞おうとした者も居たが、王妃から遣わされたメイドや護衛に追い返され、誰一人伯爵に目通りする事すら叶わなかった。
徹底した排斥活動は、夜会に出席するジャスティーヌの目にも明らかだった。
なんとか許しを乞おうと、ジャスティーヌに近づこうとしても、すぐにロベルトをはじめ、王族の面々がすかさずジャスティーヌの周囲を囲み、不埒な者からジャスティーヌを隔絶した。
自分に近付こうとする人を阻まれるのは、ジャスティーヌにとってはある意味慣れっこだったが、アレクサンドラ演じるアレクシスのそれとは違い、完全な悪意とも、憎しみともとれるその行動は、ジャスティーヌを深く傷つけ、いつの間にかジャスティーヌを屋敷に引き込まらせる結果となった。
それは、ジャスティーヌだけに留まらず、ジャスティーヌが屋敷に引きこもると、アレクサンドラもそれに倣って屋敷から出ようとしなくなった。
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父からの手紙を手に、アントニウスはカウチに腰を下ろした。
もともと外交的で、部屋に留まることのないアントニウスが自分の部屋に半ば籠城しているのは、押しかけ女房ならぬ、母のマリー・ルイーズが一階のサロンを我が物顔で使っているからだった。
「きな臭いことになってきた・・・・・・」
一ページ目を飛ばし、二ページ目に進んだアントニウスは、コーヒーテーブルにカップを置くミケーレに言った。
「まさか、ポレモスでございますか?」
ミケーレは顔色を曇らせて問いかけた。
「さすがだな。いよいよ戦になるようだ。父上から、私も名ばかりとはいえ、陸軍に籍を置いているのだから、帰国するようにとのことだ」
アントニウスは言うと、続きのページにさっと目を通した。
アントニウスが一ページ目を飛ばした理由は簡単なことで、母のマリー・ルイーズがこちらに滞在しているときの父からの手紙の一枚目には、小言と母の様子を尋ねる言葉が綴られているだけなのを経験から学んでいたからだった。それでも、以前ならば一応は目を通したものの、母と屋敷の一階と二階に日中住み分けるほどに険悪な今、母を想う父の言葉など、アントニウスを苛立たせるだけだった。
「ミケーレ、父上がこの状況をお知りになられたら、なんとおっしゃられるだろうな?」
アントニウスの問いに、ミケーレは一瞬考えてから話し始めた。
「私が存じ上げる旦那様でいらっしゃいましたら、愛は自ら勝ち取るもの。他人に世話を焼いてもらうのも、他人の世話を焼くのも、本末転倒とおっしゃられることと存じます。ですが、先頭に立たれていらっしゃるのが奥様となりますと、旦那様は『良きに計らえ』の一言ではないかと・・・・・・」
さすがに、独身時代のマリー・ルイーズに仕え、共にイルデランザに移住しただけあり、ミケーレの読みはアントニウスの考えと全く同じだった。
「アントニウス様、もし、帰国なさるのであれば、一度、アレクサンドラ様のご機嫌伺と、それから、ロベルト様にもご挨拶に伺われたほうがよろしいのではございませんか?」
「そうだな、支度をしよう。父上の手紙では、今日にも、明日にも、こちらを立てと書かれていた」
「そのような急なお話でございますか」
ミケーレは言うと、すぐにアントニウスが王宮に向かう支度を整えた。




