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初恋の君に真紅の薔薇の花束を……  作者: 萩野紫苑
13

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13-6


☆☆☆


 アントニウスは、帰国するとアレクシス姿のアレクサンドラに告げて以来、社交界デビューの手順の打ち合わせに伯爵を訪ねることはあったが、アレクサンドラに会おうとはしなかった。


 ジャスティーヌからお詫びの手紙を受け取ったロベルトは、自分の誤解をアントニウスに謝り、ジャスティーヌがほぼ毎日のように手紙を送るようになると、それこそご機嫌でアレクサンドラの社交界デビューまでの日数を指折り数えて過ごすようになった。


 肝心のアレクサンドラは、社交界デビューに備え、最後の礼儀作法の見習いに時間を割き、国王陛下への謁見の練習も何度となく重ねていた。

「私もすごく緊張したけれど、大丈夫よ。人生で一回きりの事だから」

 ジャスティーヌに励まされながら、アレクサンドラは毎日の練習を怠らず、ただただ立派なレディになるようを努めていた。



 そんなある日、突然の訪問客に伯爵家は大騒動になっていた。

 理由は、近くを通りかかったマリー・ルイーズの馬車が脱輪したため、取り急ぎ伯爵家の屋敷にマリー・ルイーズを招くことになったからだった。


 正式な社交の場ではないこともあり、マリー・ルイーズの訪問に、ジャスティーヌだけでなく、アレクサンドラも挨拶をすることになった。


 マリー・ルイーズはアントニウスの母親とは思えないくらい若く美しい女性だった。生まれ持った高貴な血筋も明らかな、堂々とした威厳を放つ姿に、アレクサンドラは圧倒された。

 気の早いマリー・ルイーズは、ロベルトがジャスティーヌにぞっこんという事もあり、もはやジャスティーヌは姪も同じと、ジャスティーヌが戸惑うほどにはしゃいでジャスティーヌと公の場ではなく、非公式に直接話す機会を持てたことを喜んだ。

 そして、ジャスティーヌにうり二つのアレクサンドラが姿を現すと、マリー・ルイーズの目はアレクサンドラに釘付けになった。


 線が細く、たおやかな花のようなジャスティーヌに対し、アレクサンドラは今まさに咲きほころうとしている大輪の芍薬のようで、そのすっと一本筋が通ったような凛々しさが、レディらしさの中に少しだけ中性的な美しさを醸し出していた。

「まあ、本当に瓜二つなのね」

 マリー・ルイーズは言うと、わざわざ立ち上がってアレクサンドラの手を取った。

 ジャスティーヌの美しさを知っているマリー・ルイーズからすると、アレクサンドラの美しさを想像することはたやすかったが、それでも実際に目にしたアレクサンドラの美しさは、マリー・ルイーズの予想をはるかに超えており、息子のアントニウスが完全に骨抜きになってしまうのも当然だと納得できるものだった。


「いつも、アントニウス様には、大変お世話になっております」

 アレクサンドラがお礼を言うと、マリー・ルイーズは気さくな調子で話し始めた。

「主人ったら、とうとう見合い話から逃げるために、エイゼンシュタインに女性を囲ったに違いないと、もう大騒ぎで。あまりに騒ぐので、私もたまらなくなってエイゼンシュタインに避難してまいりましたのよ。でも、アレクサンドラさんの美しさを見たら、主人も納得でしょうね」

 マリー・ルイーズの口にした『見合い』という言葉に、アレクサンドラは一瞬ドキリとしたが、何事もなかったかのように話に耳を傾けた。

「ジャスティーヌさんは、語学が堪能でしたわよね。アレクサンドラさんはいかがかしら?」

 突然の問いに、アレクサンドラは申し訳なさそうに語学が得意でないことを答えると、マリー・ルイーズは何事もなかったように話を続けた。

「そう、でも心配する必要はないわ。私も、あまり語学は得意ではなかったのよ。でも、愛の前に言葉なんて、大した問題ではないのよ。自分が苦手なら、相手に話せるようになってもらうという手もあるわけですし」

 マリー・ルイーズが楽しそうに話をしていると、馬車の近づく音がし、家令のコストナーがアントニウスを案内してきた。

「母上!」

 自分に黙って伯爵家を訪問している母に怒っているのか、アントニウスはかなり不機嫌な様子だった。

しかし、美しく着飾ったアレクサンドラが目に入ると、アントニウスは一瞬言葉を失い、それから再び母の方に視線を戻した。

「まあ、ずいぶんとはやかったのね、アントニウス。あなたがもう少し気を利かせてゆっくり来てくれれば、将来の姪と、もっと仲良くなることが出来たのに、本当にイルデランザの男はせっかちで困るわ」

 母の言葉に、アントニウスは大きなため息をついた。

「あなたのせっかちなところは、本当にお父様そっくり」

 マリー・ルイーズは言うと、しぶしぶ立ち上がった。

 それから、突然の訪問と伯爵家のもてなしにお礼を言い、半ばアントニウスに引っ張られるようにして伯爵家を後にした。


「アントニウス様、なにも言わないで帰ってしまったわね」

 アレクサンドラを気遣うように言うジャスティーヌに、アレクサンドラは静かに微笑み返した。

「最近は、いらしても、お父様とお話ばかりでしょう」

「アントニウス様の仕事は、私をエスコートして社交界にデビューさせるところまでですもの。あとは、私自身の問題よ。お父様と」

「どうしてお父様なの?」

 ジャスティーヌは不思議そうに問いかけた。

「アントニウス様が、ジャスティーヌが王太子妃に決まれば、うちと縁戚関係を持ちたい貴族も沢山出てくるだろうから、私も家の為に誰かに嫁がないといけなくなるだろうって。だから、あとはお父様次第よ」

 アレクサンドラは言うと、既に影も形も見えなくなった馬車の去った方向に目をやりながら、サロンを後にした。


 数日後、国王陛下に正式に謁見し、その夜の舞踏会にアントニウスにエスコートされて出席することで、アレクサンドラの社交界デビューは果たされる。そうすれば、アントニウスは国に帰ってしまうのだと思うと、アレクサンドラは言葉にできない感情で胸が押しつぶされそうになった。

 そんなアレクサンドラの後姿を見ながら、ジャスティーヌはアレクサンドラが実はアントニウスに恋をしているのではないかと考えるようになっていた。


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