表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋の君に真紅の薔薇の花束を……  作者: 萩野紫苑
13

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/181

13-3


☆☆☆


 アレクサンドラを無事屋敷まで送り届けたという知らせに、アントニウスは安心するとともに、あのような無防備な姿を他の誰にも見られずに済んで良かったと思った。

 今となっては、手の届かない高嶺の花となってしまったアレクサンドラだが、全ては自分が蒔いた種、自ら刈り取り、大人しく身を引くことこそ潔いと思うほかなかった。

 それでも、あの細い腰に誰かが腕を添え、あのスッと伸びた背に誰かが腕を回し、アレクサンドラとダンスを踊るかと思うと、アントニウスの胸は激しく痛んだ。

 社交界デビューを飾り、最初の数回の舞踏会は自分がしっかりと傍でアレクサンドラを守るつもりではいるが、今回の散財で激しく怒っている父を宥めるためには国に帰って事情を説明する必要があるし、国に帰れば、次いつエイゼンシュタインに来る許可を父から貰えるかもわからない。もしかしたら、次にアントニウスがエイゼンシュタインに来た時には、アレクサンドラは誰かと婚約、いや、結婚しているかもしれない。そう思うと、情けないと思いながらも瞳が潤み、涙が零れ落ちそうになった。

 他のどんな女性を見ても、アレクサンドラのように愛することはできないだろうと、アントニウスは思った。

 いままで、色々な浮名を流し、独身の女性だけではなく人妻とも浮き名を流したアントニウスだったが、どんな時も男としての欲望が前面に現れ、相手を思いやる気持ちは後からしかついてこなかった。しかし、アレクサンドラを前にすると、常にアレクサンドラを思いやる気持ちが前面に現れ、自分が男であるという事をもっと現実的にアレクサンドラに感じてもらいたいと思いながらも、結局は抱きしめ、口付ける以上の事は出来なかった。

 それでも、ダンスの練習をした時の輝くばかりのアレクサンドラの笑み、無理に口づけをした時の困惑し、恐怖を抱いた瞳、どのアレクサンドラもアントニウスの中では何にも代え難い大切な思い出だった。

「私と言うのは、とことんバカな男だ。この世界で一番愛した女性を一番傷つけてしまった」

 声に出して言うと、その罪は何物にも代えがたく重いことだと言う実感が更に重くアントニウスにのしかかってきた。

 あれほど、初恋の相手のジャスティーヌの事で心を悩ませ、ドギマギしていたロベルトを散々からかってきたアントニウスだったが、もしかしたら、アレクサンドラこそが、アントニウスにとっての初恋にして、初めて愛した女性ではないのかという気がしてきた。

「これでは、ロベルトの事を笑えないな・・・・・・」

 自嘲気味にアントニウスが呟いたところへ、執事のミケーレがやってきた。

「ロベルト様、奥様がこちらにお見えになられるそうでございます」

 静かに告げられた言葉に、アントニウスは驚いて目を見張った。

 アレクサンドラとの別れの一時を静かに過ごそうと思っていたアントニウスにとって、母の登場は想定外だった。

「そんなこと、なにも手紙には・・・・・・」

「ただ今、奥様のお荷物が届きまして、奥様は直接、国王陛下にご挨拶に向かわれたとのことでございます」

 ミケーレの説明に、アントニウスは大きなため息をついた。


 事実、アントニウスがアレクサンドラの為に投じた資金は、現金で渡したわけではなく、あちこちの有名店に伯爵邸を訪問させ、アレクサンドラに必要と思われる、ありとあらゆる身の回りの品を準備させたわけで、それらすべての請求書はミケーレが伯爵家の家令であるコストナーの受領サインを確認したあと、最終的には公爵家の資産を管理するザッカローネ公爵家の家令であるクレメンティのところで支払いの手続きが完了する。つまり、クレメンティであれば、アントニウスが何に幾ら費やしているか全てを把握している訳で、出費の用途を家長である公爵に問われれば、当然クレメンティは明細を全て公爵に報告したに違いない。つまり、女性ものの下着からドレス、身の回りの物をすべて一から用意しているのだから、相手はまともなレディではないと考えるのも道理で、そのせいでエイゼンシュタインの別宅にアントニウスが旅の踊り子を囲っているなどと言う疑いを父が持つに至ったのだろうと、アントニウスは諦めていたが、まさかそれを真に受けて母のマリー・ルイーズが乗り込んでくるとまでは思っていなかった。

 しきたりや決まり事の多いイルデランザでも、大公位継承権を持つ公爵家の嫡男として育った父は、自由な母とは違い、何事も勝手に決めて押し付ける傾向が昔から強く、アントニウスが花嫁探しにエイゼンシュタインに足繁く通っていること事態を快く思っていなかったが、妻のマリー・ルイーズから『あなただって、自分の想いを貫き通したのですから、アントニウスにも機会を与えるべきです』と言われ、モゴモゴと何か言いながらも、諦めてアントニウスがエイゼンシュタインに来るのを許してくれた。しかし、このタイミングで母がエイゼンシュタインに乗り込んできたとなると、アントニウスの行動が原因で天変地異的な夫婦喧嘩をしたか、自ら事の真偽を確かめてくると啖呵を切って家出をしてきたかのどちらかと言うことになるだろう。


 もちろん、最初から現金を渡すという手もあったのだが、そういう援助のしかたをアーチボルト伯爵夫妻が好まないだろうことは、あの夫人の恥じらう様子からわかっていたので、アントニウスは敢えてすべてを自分で手配することにしたのだが、女性を囲っている疑いをかけられたとなると、母の追及をかわすのは非常に困難なうえ、まだ塞がってもいない失恋の傷口を深く何度もえぐられて塩を塗り込められる事になるのは想像に難くなかった。


「はあ、なんだって母上が・・・・・・」

 アントニウスはため息をつくと『体調が悪いと伝えてくれ』と言い残し、自室に引きさがることにした。


☆☆☆



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ