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初恋の君に真紅の薔薇の花束を……  作者: 萩野紫苑
12

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12-10


☆☆☆


 幸せそうなロベルトとジャスティーヌの姿を見つけたアントニウスは、アレクサンドラの様子が知りたくてすぐに二人との距離を詰めた。

 あの日以来、サーベルを届けてくれたお礼、そのお返しの手紙、花束とクッキーの贈り物、それに対するお礼と、表向きアレクサンドラとアントニウスの間には文のやり取りはあったが、それはあくまでも表向きのもので、手紙に記されている言葉は型にはまったお礼の言葉ばかりだったし、アレクサンドラが何を考えているのかなど窺えるような言葉は一言も含まれていなかった。


「これはこれは麗しのジャスティーヌ嬢。我が従弟の幸せに満ちた笑顔を見ると、お二人の上に幸せの天使が舞い降りている姿が見えるようですね」

 アントニウスが声をかけると、ジャスティーヌが優しく微笑み返した。

「これはアントニウス様」

「我が愛しのアレクサンドラ嬢は、お元気でいらっしゃいますか?」

 アントニウスの問いに、ジャスティーヌはコクリと頷いた。

「はい。でも、最近はすっかりダンスの練習を止めてしまいましたの」

 ジャスティーヌの言葉に、アントニウスの脳裏に軽やかに踊るアレクサンドラの姿が思い出された。

「せっかく、あんなに練習したのにですか?」

 アントニウスが残念そうに言うと、ジャスティーヌは少し困ったような笑みを浮かべた。

「それが、父と練習をすると、どうしてもうまく踊れなくて、父が足を踏まれるのも蹴られるのも、もう懲り懲りだと練習の相手をいやがるものですから、すっかりアレクも練習をしなくなってしまいましたの」

「そうでしたか」

 いつものアントニウスなら、すぐに明日にでも伺いますと言うところだったが、あれほど深くアレクサンドラを傷つけてしまったことを思うと、アレクサンドラは自分になど会いたくないのではないかと、ただ秘密をバラされたくないためだけに自分に付き合ってくれているのではないかと、完全に弱気になってしまっていた。

「なんだ、なんだ? 我こそはと、ダンスの練習相手に名乗り出ないのか?」

 いつもと違うアントニウスの様子に、ロベルトがからかうように言った。

「それにアレクったら、最近はとても信心深くなって、毎日、教会にお祈りに行くようになったんですのよ」

 ジャスティーヌの言葉に、アントニウスは胸にナイフを突き立てられたような衝撃を受けた。

「アレクサンドラ嬢が教会に?」

「ええ、所領内の教会で、小さい頃からお世話になった神父様がいらっしゃるのですが、さすがに毎日なので、両親もびっくりしておりますの」

「ほお。それはもしや、どこぞの国に嫁ぐための準備ではないのか? 畏れ多くも、王太子の見合い相手に懸想する輩がいるそうだからな」

 ロベルトの茶化しているとも、嫌味ともいえる言葉を聞きながらも、アントニウスの頭に浮かんだのは、自ら命を絶とうとするアレクサンドラの姿だけだった。


 当然、アレクサンドラが命を絶ったりしないように、万が一の事があったら秘密をばらすと脅しているアントニウスだったが、もし本当にアレクサンドラが命を絶ってしまえば、アレクサンドラとアレクシスが同一人物だったことを証明する方法はなく、アレクシスの存在だって、伯爵の手でどうにでもごまかすことができる。そう思うと、アントニウスはいてもたってもいられなくなった。

「ロベルト、ちょっと話がある」

 ロベルトを無理やりカーテンの陰に引き込むと、できるだけ長くアーチボルト伯爵夫妻とジャスティーヌを足止めしてくれるようにアントニウス頼んだ。

「まさか、これから逢引きに行くつもりか?」

 単純に考えれば、両親と姉が留守にしている屋敷にアントニウスが押し掛けると言ことは、逢引きと言うよりも、夜這いという意味あいが強くなる。

「どうしても逢って話をしなくてはならないんだ。頼む、ロベルト。力を貸して欲しい」

 アントニウスの言葉に、ロベルトがアントニウスの腕をがっしりと掴んだ。

「アントニウス、アレクサンドラ嬢はいずれ私の義理の妹になる令嬢。例え従兄の君であっても、彼女に無体なことを働こうというなら、一切の協力は断る」

 きっぱりと言うロベルトに、アントニウスは頭を横に振った。

「想像神と、母の名にかけて誓おう。ただ、自分の想いを言葉にして伝えたいだけなんだ。決して、彼女に触れたりはしないと約束する」

「わかった。それならば、協力しよう」

 ロベルトは言うと、アントニウスの腕を放した。

 一足先にカーテンを出て、足早に広間を横切っていくアントニウスの背を見送りながら、ロベルトはいつの間にか女性陣に囲まれているジャスティーヌのところに戻った。


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