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初恋の君に真紅の薔薇の花束を……  作者: 萩野紫苑
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 今度こそ、自分の恋を応援してくれるであろう従弟のロベルトから届けられた手紙には『朝食前に必ずお読み下さい』という添え書きが付いていた。

 その筆跡から、不老不死の魔物の類いではないかとかねてから母のマリー・ルイーズも疑っている、アントニウスが出会った頃からヨボヨボヨ老人なのに、未だに現役でロベルトの侍従長をしている、絶対に逆らわない方がよいタイプの生き物がロベルトに命じられて書いたものだと察せられた。


 手紙の内容は、正直、アントニウスが想像もしていなかった内容だった。

 確かに、時々見かけたジャスティーヌのドレスは他の令嬢ほど豪華でも華美でも奇抜でもなく、どことなく前に見たことがあるような気がするドレスが多いなと思う程度だったが、ロベルトの手紙を読むと、アーチボルト伯爵家の窮状は想像を絶する状態のようだった。

 何しろ、国王の甥と言う立場から見ると、アーチボルト伯爵は重臣の誰よりも伯父の信頼を受け、公にはただのブリッジ仲間と称して大臣でも政治顧問でも、戦略参謀でもない、国王の私的な相談役という、何の恩賞も受けぬ立場だが、実際のところは国王の懐刀にちがいない。アントニウスは勝手に、ブリッジで国王が適当に負けて、それなりの褒美を取らせているものだと思っていたが、ロベルトの手紙によれば、アーチボルト伯爵がブリッジで国王に勝ったことは一度もなく、国王の私的な相談役としての報酬も貰わず、代々受け継がれてきた、だだっ広い領地を少ない税収と持ち出しで運営しているとのことだった。

 エイゼンシュタインの場合、税率は国王が定めた最高値を超えなければ、各貴族は自由に所領の民に対するに税率を定めて良いことになっている。元々、財力があり直轄領が王都周辺の大きな街に限っている公爵家を除けば、富豪で知られる侯爵家や伯爵家はそれなりに高い税率を所領の民に課している。理由は、民から徴収した税金の中から、国が定めた税金を領主が納め、差額が領主の収入になるので、民に課す税率が高ければ高いほど、領主の収入は高くなる。しかし、アーチボルト伯爵家の所領の税率は、国に納める税金に気持ち上乗せしているだけで、所領のからの収入は微々たるもので、あとは夫人のアリシアの采配で特産品を市場に流すなど、何とか収入を増やして体裁を保っているというのだ。

 そのため、異例ではあるが、見合いに際してジャスティーヌとアレクサンドラが舞踏会でロベルトにエスコートされても恥ずかしくないようにと、支度金まで出したとのことだった。

 つまり、今までドレスを作っていないアレクサンドラのドレスを作り、ましてや社交界デビューのための、国王陛下に正式な謁見をするための仕度に関わる費用、それが捻出できる状態にはなく、それが出来なければ、事実上、アレクサンドラを正式に社交界デビューさせることができないという事になる。


「なんて事だ!」

 アントニウスは呟くと、取りあえずアーチボルト伯爵家を訪ね、アレクサンドラの仕度に関わる費用は、すべて自分が負担することを告げなくてはと、急いでミケーレに食事を寝室へと運ばせた。


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