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初恋の君に真紅の薔薇の花束を……  作者: 萩野紫苑
10

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10-4


☆☆☆


 見合いの事件以降、王宮からの早馬には慣れてきたアーチボルト伯爵家も強制連行のような国王陛下からの至急のお召しには慣れることができず、今日は今日で、階段を転げ落ちそうになりながら迎えの馬車に押し込まれて王宮へと向かった。



 いつもなら、通されるのはサロンだったが、なぜか今日は国王のプライベートガーデンに案内された。

 プライベートガーデン自体は、内密の話がある際にリカルド三世に従って散歩と言うことで足を踏み入れた事があったので、何らかの重要な話があり二人きりで四阿で話す必要があるのだと言うことは直ぐに察しがついた。しかしながら、今現在、そこまで差し迫った機密事項があるとも思えず、ルドルフはどのような話の展開にも耐えられるように身も心も引き締めて四阿へ歩み寄った。

「陛下」

 声をかけると、リカルド三世は笑顔でルドルフのことを手招きした。

「ルドルフ、好きな場所にかけてくれ」

「失礼致します」

 ルドルフは一礼してから、四阿の端、リカルド三世の正面に近い位置に腰かけた。しかし、次の瞬間にはリカルド三世自ら席を立ち、ルドルフの隣に腰を下ろしていた。

「陛下・・・・・・?」

「ルドルフ、イルデランザとの和平に再び陰りが差していることは存じておろう?」

 考え得る最悪の話題に、ルドルフは背中を冷たいものが流れていくのを感じた。

 両国の間の緊張を取り除くために、エイゼンシュタインとしては珍しい政略結婚による関係の安定化を模索したのはルドルフ達がまだ若い頃の事だった。前国王の姪であり、リカルド三世の従妹でもあるマリー・ルイーズがイルデランザの皇嗣に嫁ぐことになり、多くの青年貴族が悔し涙を流したものだった。しかし、皇嗣ではなく大公の甥にあたる公爵家の嫡男のアラミスと結婚し、その後もマリー・ルイーズが息子を連れて里帰りを重ね、両国の和平を取り持ち、その息子であるアントニウスも王太子のロベルトとは本当の従兄弟のように仲良く育った今、両国の関係に陰りが差しているというよりも、六ヶ国同盟に加盟していない第三国の横槍が原因で、両国間の意見に一部対立が見られることと、六ヶ国同盟内で六ヶ国から同盟国を増やしていくかどうかでさらに意見が対立しているという方が正しいと、リカルド三世の相談役でもあるルドルフは考えていた。

「それに関しましては・・・・・・」

 ルドルフが返事をしようとしたところ、リカルド三世がそれを遮った。

「歴史はまさに繰り返すだ」

 感慨深げなリカルド三世の声に、ルドルフは自分の知らない急変があったのかと息を飲んだ。

「いったい、なにが?」

「本日、結婚の申し入れを受けた」

「ですが、イルデランザの皇嗣も我が国の王太子も、どちらも男子でございますが」

「ああ、言葉が足りなかった。そちの娘に関しての話だ」

「ですが、娘は二人とも、殿下の見合い相手でございます」

「わかっておる。しかし、いくらロベルトでも、二人も妻は迎えられぬ」

 父としては、二人とも妻にと言われても、ありがたくもなんともないのだが、さすがにそれを口にすることはできず、ルドルフは口を閉じた。

「我が甥のアントニウスが、そちの娘を妻に欲しいと」

 金槌で頭を殴られたような激しい衝撃がルドルフを襲った。

 確かに、はたから見れば娘は二人いるのだから、一人が王太子と結婚しても、もう一人をイルデランザに嫁がせられるということになるが、実際は、一人が二役しているわけで、物理的に距離の離れたイルデランザとエイゼンシュタインでは一人二役などできるはずもない。

「陛下、そのことでございますが、ジャスティーヌが殿下の妻に選ばれましたら、アレクサンドラは修道院に、もしアレクサンドラが殿下の妻に選ばれましたら、ジャスティーヌを修道院にと決めております」

 はやく不吉な考えを忘れてもらうべく、ルドルフはかつてからの計画を改めて口にした。

「何を馬鹿なことを言っている。もし、ロベルトが選んだのがアレクサンドラ嬢であれば、ジャスティーヌ嬢をロベルトの政治相談役に迎えるのが正しいとは思わなかったのか?」

「ですが、女性が王太子殿下や国王陛下の政治顧問となった例はございません」

「歴史と言うのは、重んじるばかりでなく、変えていかねばならぬものだ。それを修道院に送るなどと、言語道断! 父であるそちが認めても、国王である私が許さん!」

 父として、娘の能力を高く評価してもらえることはありがたかったが、どちらか一人しか表に出せないルドルフとしては、歴史は変えずに重んじてもらいたいと祈るしかなかった。故に、そこで王権を振りかざされても、無理なものは無理で、できない相談は、実現不可能なのだと説明できればどれ程楽だったろうか、しかし、流石のルドルフにもそればかりは口にできなかった。

「ここだけの話だが、ロベルトのハートを射止めたのは、ジャスティーヌ嬢である」

「では、本日これよりアレクサンドラを修道院に送る準備を致します」

 間髪を入れずにルドルフは言った。

「待て、ルドルフ! いつもはのらりくらりと答えを引き延ばすそちが、一体全体どうしたというのだ! なぜに、それほどまでに答えを急ぐ? いつもの、のらりくらりのルドルフはどこへ行ったのじゃ?」

 急ぐのには理由があるのだが、その理由を話せないルドルフとしては不敬ではあるが、しらばっくれる他に手はない。

「最近、あちこちで、のらりくらりとしていたのは、陛下に娘を売り込むためだったのだろうと勘繰られておりまして、これからは、少しでも答えを急ぐようにと努力をしておりまして・・・・・・」

 必死の苦しい言い訳も、既に心を固めているリカルド三世には馬耳東風だった。

「とにかく、我が甥、アントニウスがアレクサンドラ嬢を妻にと望んでいる限り、例えそちの娘とはいえ、両国の和平の為に勝手な行動は慎んでもらいたい」

 それこそ、男か女か親でも忘れそうな娘を嫁にと望まれても、そんな娘を嫁がせたりしたら、それこそ和平どころではなくなるじゃないかと、ルドルフは目の前が暗くなっていった。

「ただし、アントニウスがアレクサンドラのハートを射止められなければ、仕方のないことじゃ、よいな、ルドルフ・・・・・・」

 リカルド三世の言葉を聞きながら、ルドルフは意識を失っていった。

「誰ぞあるか! 急ぎ侍医を呼べ! ルドルフが倒れた!」

 国王の叫びに、控えていた護衛と侍従が一斉に四阿を目指して突進した。


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