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初恋の君に真紅の薔薇の花束を……  作者: 萩野紫苑
15

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15-20


☆☆☆


 アレクサンドラの前から去り、逃げるようにして馬車に駆け寄るアントニウスのために御者は慌てて馬車の扉を開けた。

「屋敷へ」

 それだけ伝えると、アントニウスは目を瞑り馬車の揺れに身を任せた。

 あれ以上一緒にいたら、人目も構わずアレクサンドラを抱きしめ、口づけてしまいそうな自分が怖くなり、伯爵に辞去の挨拶もせず、アレクサンドラを心配して姿を見せた夫人にも挨拶しないまま、逃げるようにしてアレクサンドラを庭に置き去りにしたことをアントニウスは深く反省した。

 離れがたく、自分の何かをアレクサンドラのそばに残して置きたくて、一番のお気に入りの上着をアレクサンドラの肩にかけたままにしてきたが、もしかしたら、帰国を前に上着を返さなくてはと、伯爵は気を回すかもしれないと思うと、一言、自分の代わりにあの上着だけでもそばに置いておいて欲しいとアレクサンドラに言い残さなかった自分の余裕のなさが恨めしかった。



 伯爵邸をはなれ、屋敷が近づくにつれてアントニウスは、もう二度とアレクサンドラに逢うことができないかもしれないという恐怖に襲われた。

 屋敷に戻り、荷物をまとめ国に帰り、そしてすぐに戦地に赴くのだと考えると、いっそ闇に乗じて伯爵邸に戻り、アレクサンドラを自分のものにしてしまいたいという欲望に苛まれたが、アントニウスは必死に自分の欲望を抑えつけた。

 それこそ、もしアレクサンドラを自分のものにするなどという愚かしい過ちを軽々しくも犯し、もしも自分が戦から生きて戻ることができなかったら、それこそ、死んでも死にきれない罪を犯してしまうことになると、アントニウスはぎゅっと手を握り締めて堪えた。



 屋敷につき、馬車が正面玄関前に止まると、アントニウスは御者に一言ねぎらいの言葉をかけ、ミケーレの開けた扉から屋敷の中に滑り込んだ。

 音をたてないようにして屋敷に入ったのは、母のマリー・ルイーズに姿を見られないようにするためだったが、アントニウスの心配は無用で、ミケーレがマリー・ルイーズはアントニウスが出かけてから部屋にこもったままだと教えてくれた。



 自分の部屋に戻ると、アントニウスはベッドに体を投げ出したい衝動を抑えながら、帰国する際に持ち帰るものをまとめた。

 ミケーレとアントニウスの暗黙の約束で、決められた場所においておけばすべてミケーレが荷造りの際にまとめて梱包してくれることになっていた。しかし、たとえ手にするのがミケーレだけとはいえ、アレクサンドラからの手紙を誰かに触れられたくはなかったので、アントニウスは自分でまとめ、貴重品を入れる箱に文箱ごと自分の手でしまった。


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