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「我が名は『ブラックムーン』!」

 修行パートは全カットで成長結果のお披露目からです。

 魔法が上達してからのはじめての潜入に成功したクロは、満足気な表情で夜の闇から姿を現した。


 さすがに枕元に立つのは緊張したが、うまくいったようだ。


 成長したクロは魔力の上昇以外にも変化があり、いくつかの技を習得している。


 なんと、影の中を移動することができるようになったのである。


 移動速度もなかなかのものであり、逃走にはもってこいの技だ。


 一応影の中の移動は魔力消費が激しいので、ずっと移動できないという短所もある。


 なんにしろ夜であったり広い影が存在する場所において、クロは凄まじいほどの足を手に入れた。


 今のクロが手にした力は、どれも義賊として活動するうえで役立つものばかりである。


 『影潜(かげひそ)み』……影に自分の体を沈める。

   魔力消費(小)

 『影拾(かげひろ)い』……影に物をしまい込む。

   魔力消費(小~大)

 『影足(かげあし)』……影の中を移動する。

   魔力消費(大)


(憧れの『ブラックムーン』に、また一つ近づいてしまった。自分の才能が憎い)


 そんなふうに調子に乗るぐらいには、クロの成長は目覚ましいものであった。


 魔法に名前をつけたのは、教科書に名前をイメージするとその魔法が使いやすいと書いてあったからである。


 クロの使う魔法は、教科書にも載ってはいなかった。


 よって、仕方なくクロが何日もかけて名前を考えたのである。


 ちなみに、クロ本人は名前をつけるうちに、ノリノリになっていた。


 今後活動するにあたって名乗る名前はもちろん『ブラックムーン』である。


 この名前は、クロの原点となった小説の主人公から取られている。


 クロの憧れというのもあるが、夢を与えてくれたあの小説の作者に届いてほしいという思いもあった。


 いつ書かれたものかもわからないし今でも生きているかも不明だが、もし生きていたらお礼をぜひ言いたいとクロは考えていた。


「世の悪徳貴族よ、震えて眠れ!」


 そう言って、クロはマントを翻す。


 そんなこんなで、今日から活動開始である。



──────────


 最近、貴族の間でまことしやかにささやかれている噂があった。


 なんでも、貴族を狙った盗人が現れたらしいのである。


 義賊『ブラックムーン』などというふざけた名前を聞いて、最初は誰もが鼻で笑った。


「そんな堂々と名前を明かして盗人をはたらく間抜けがいるのか。その間抜けに引っ掛かった貴族も大間抜に違いない」


 貴族たちはそう言いつつ、すぐに捕まるだろうと誰も気にしていなかった。


 しかし、一向に捕まらない。


 裏で悪い噂の絶えないあの貴族も、権力を振りかざして威張っているあの貴族も、次々と被害にあっていく。


 その一方で、貴族としての悪評のない者からは何も奪わない。まさしく義を冠する賊といえた。


 義賊『ブラックムーン』の出現により、貴族社会は急速に変化していく。


 これまで、貴族で外聞を気にするものはいなかった。


 平民から何を言われようと、貴族は生まれながらにして貴族である。


 責務を完全放棄しなければ、王からそこまで深く追求もされない。


 そして、貴族は魔法という絶対的な力を所有している。


 仮に謀反が起きても、魔法を使える者が滅多にいない平民など恐るるに足らなかったのだ。


 そもそも、魔法が使える一部の平民には、貴族に歯向かう理由はない。


 魔法の才を持つ平民は貴族に引き抜かれ、基本的に甘い汁が吸える。


 今の貴族に歯向かう者など、力の持たぬ弱者の徒党にすぎないのだ。


 貴族を支えるものは支持ではなく誇り。誇りから貴族としての責務を全うする者もいるが、一部はその誇りにあぐらをかく。


 端的に言えば、貴族の一部は腐っていた。


 しかし、噂が広がるにつれて、いつしか貴族は外聞を気にするようになった。


 誇りにあぐらをかいていた貴族は、表面上であっても正義に沿うことを強いられた。


 諦めが悪く、盗人を捕まえようと勇む貴族もいるにはいた。


 警備に人員も増やす者や、自ら魔法で出迎えようとする者、あるいは罠をはりめぐらせる者もいた。


 そのことごとくが失敗すると貴族は徐々に気づき始める。件の義賊は貴族をも上回る手練れだと。


 それでも正体を追う貴族は、次に痕跡を辿ることに専念した。


「義賊と名乗っていても所詮は盗人。盗品がどこかで発見されてから、その流通元を辿ればよい」


 ある貴族はそう言って、質屋などの盗品がありそうな場所の調査を始めた。


 結果的に、盗品は発見された。()()()()()()()


 なんと盗品はバラバラに分解されて、貧民街のゴミ漁りが使う質屋に持ち込まれていた。


 金や宝石や立派な額縁に入れられた素晴らしい絵画、有名な職人が手掛けた美しい調度品──その全てが、見るも無惨なクズとして各地に散らばっていたのだ。


 足がつかないやり方で、弱者へ財をばらまく。義賊としての無慈悲なまでの効率的なやり口。


 あれらの宝をゴミ漁りぐらいしか見向きもしないような姿に躊躇なく変える義賊に、貴族たちは騒然とした。


 価値を損ねてまで弱者への施しをする徹底さに、感心する者さえいた。


 抵抗が無意味であるなら、悪評を立てないように良い貴族を装うほかない。


 こうして腐った貴族たちの間では『ブラックムーン』の恐ろしさは定着していく。黒い月が出ている限り、我らの悪事は許されないのだ、と。


 噂は平民にまで広がった。

 なんでも貴族の悪事に天誅を下し、弱者に施しを与える者がいるそうだ、と。


 実際に貧民街の治安が良くなっており、そこの住む者の身なりも少し整っていた。


 また、貴族が不正に蓄えていた資本が義賊によって流通することで、景気も少しばかり良くなっている。


 義賊『ブラックムーン』の正体は、現在も判明していない。


 正義の貴族、復讐に取りつかれた元王族、幽霊など、様々な正体の噂が立っている。それらに唯一共通しているのは、黒いマントを羽織っていることのみ。


 弱きを助け強きを挫く『ブラックムーン』は、このようにして世間を賑わす存在として認知されていくのだった。



──────────

 


「クロ、今日の仕事の手伝いありがとうございます。これが報酬です、またよろしくお願いしますね」


 そう言われ報酬を受け取ったクロは、少し伸びた背で頭を下げて返事をする。


「こちらこそありがとうございます、ブラウン神父。またしばらく()()ができたので、お手伝いは少し先になりますが……。その時はよろしくお願いします!」


 クロが義賊をはじめて、数年が経った。


 相変わらず神父のもとで手伝いをしているが、ゴミ漁りはしなくなった。


 教会の仕事が増えて、収入が十分もらえるようになったのである。


 自分でばら撒いた金品を自分で回収することに、気が引けたというのもある。


 義賊『ブラックムーン』は、あくまでも弱者のために盗みを働く。盗みで得たものを自分の利益にするのは、信念と反している。


 原作の『ブラックムーン』も、盗みで私腹を肥やす真似はしていない。 


 今では貧民街もある程度、治安が良くなりつつある。働く場所も見つかったクロが、困窮することはなくなった。


 極貧生活を送っていたブラウン神父も、少し肉付きがよくなってぽっちゃりしている。


 少しは恩返しできたのかもしれない。そう考えながら貧民街を巡回するクロ。


 教会での手伝いがてら、クロは町の治安維持のための見回りもしている。


 義賊として金品をばら撒いても、当初の貧民たちはそれで得たお金を酒や賭け事などに費やしていた。


 これはまずいと考えたクロは、片っ端から指導していくことにしたのである。


 指導の甲斐もあって、最近はゴミ漁りを卒業して真っ当な職を見つけたものもいる。


 景気が良いのもあって働き口が増えているらしい。喜ばしいことである。


「ちっす、姐さん。今からお帰りで?」


 そう言って声をかけてきたのは、クロより少し年下の少年である。


 名前はグレンといい、ぼさぼさの灰色の髪が特徴だった。


「そうだけど、グレンは最近どう? 何か身の周りで暴力沙汰とかはない?」


 グレンと出会ったのは、クロが見回りを行っているときだった。


 クロが恫喝されているグレンを助け出してからは、グレンから姐さんとしたわれている。


「いや、無いっす。今の貧民街で姐さんを恐れず、治安を乱すやつなんていませんよ」


 今のクロは貧民街において、一目置かれるようになっていた。


 5年の修行で培ったのは、魔法だけではない。


 体力なども付いたクロは魔法を使わずとも、貧民街のトラブルを解決できるぐらいには力を付けていた。


 義賊であることを隠すためにも魔法を知られるわけにはいかないが、魔法なしでもやりようはある。


 乱暴者10人を相手した時は、クロもさすがに冷や汗をかいた。

 幸いにも夜だったこともあり、なんとかバレないように魔法を行使して各個撃破をすることで事なきを得た。


 その10人がこの貧民街で幅を利かせていたらしく、それらを撃退したクロに手をだしてはいけないと認識されたらしい。


 グレンと別れたクロは、住処に戻り義賊としての活動の準備をする。


 真っ黒で全身の肌を覆いつつも動きやすい服とズボンを身に付け、ゴミ漁りで手に入れた黒いカーテン生地でできたマントを身にまとう。


 最後に顔の口から下を覆う黒いマフラーを巻いて、出来上がりである。

 

 これは何もかっこつけているわけではない。クロにとってはかっこいいのも事実ではあるが。


 光を通しにくい黒色の装備は、クロの影を扱う魔法と相性が良いのである。


 マフラーの影はは『影拾い』による収納場所となっており、盗品や小道具を入れたりしている。


 また、黒い服によって体に光が当たらないので、咄嗟に服の中の影に『影潜み』で潜ることもできる。


 こうして体を隠すことで、魔法の攻撃による衝撃を無効化できるのだ。


 マントも服と同じ役割をしつつも、顔も隠せば咄嗟に全身を『影潜み』で影に沈めて身を守れる。高いところから落下しても無傷である。


 この装備によって明かりが確保された屋内であっても、力を発揮することができるのだ。


 成長期なのか、クロの魔力量も増えつつある。

 『影足』による移動距離も伸び、夜の屋外に出たクロは誰にも追うことはできない。


 こうして無敵となったクロだったが、最近悩みがあった。


 貴族の悪い噂を、あまり聞かなくなったのである。


 しかし、世に蔓延る悪がそう簡単に消滅するはずがない。悪党が巧妙に身を隠していることは、クロにも分かっていた。


 そこで、クロは手当たり次第貴族の家に潜入して、情報を集めることにした。

 たまたま入った所が悪徳貴族なら、なおよし。


 仮に情報が見つからなければ、義賊としての活動も危ぶまれるだろう。悪い貴族がいなければ、義賊もお役御免である。


 だが、原作の『ブラックムーン』も平和になった最後には、隠居してハーレムを作っていた。


 平和な世であることが、一番である。義賊の活動は無理やりするものでもないので、焦らずやっていこうと考えるクロ。


 (というわけで今日からは、いざ潜入!)


 そんなわけでクロは、夜の闇の中に溶け込んでいった。



──────────



 とある貴族の立派な屋敷の奥深く、地下に階段を下りる足音が響き渡る。

 長く続く足音が止まったのは、薄暗い牢屋の前だった。


「おらよ、これが今日の餌だ。ありがたくいただくんだな」


 そういって足音の主である男は、半切れのパンと少量のスープを檻の隙間から無造作に置く。

 檻の中でそれにがっつくのは、1人の少女だった。


 鮮やかな緑色の髪は汚れでくすんで見る影もなく、服装もとても質素である。だが、これでも少女は貴族だった。


 少女の名前はウィン・グリーム。グリーム家の長女である。


 貴族の長女がなぜ幽閉されている理由、それは次期王子の婚約者の座を狙った争いが間接的な原因であった。


 ウィンは、生まれながらにして異質な魔力量を宿していた。


 人の身ではありえざるその魔力量は、産声と共に部屋の中でちょっとした竜巻を起こすほどであった。


 魔法とは言葉を介することで、はじめて形を与えて操ることができる。


 逆に言えば言葉を介さなければ、頭の中の漠然としたイメージに頼るしかなく大それたことはできない。


 ましてや、赤子でそうした形のない魔法を目に見えて操るのは、異常というほかなかった。


 そんな人間離れした子どもでも全く怖がることなく、ウィンの両親は幸せな家庭を築いた。

 しかし、その幸せも長くは続かなかった。


 ウィンの母は、ウィンが幼い頃に亡くなった。


 原因ははっきりしなかったが、出産の負担が原因なのではと召使が話しているのをウィンは聞いた。


 父は一人でも、貴族としての責務と親としての責務の両方を果たし続けた。


 本来、それらの責務は1人だけで成しえるようには、考えられていない。


 加えて持病を持っていたウィンの父が、それらの責務を一人で果たすには限界があると気づいた頃には手遅れだった。


 最後には貴族としての責務は諦め、ウィンの側で親として最後を迎えた


 一人残されたウィンは、遠い血縁を頼ってフォレス家という貴族に身を置くこととなる。


 このフォレス家に来てからが、ウィンの本当の不幸の始まりだった。


 フォレス家は、婚約者候補の座を自分たちの娘に与えたいと渇望していた。そこに現れたのがウィンであった。


 王子の婚約者候補は、王族が所持する『杖』の未来予知によって決まる。


 その候補が出揃ってから、改めて誰がふさわしいかを決めるのである。


 しかし、婚約者の座をめぐる争いは、その『杖』による候補選定の前から始まっているのである。


 これは、競合する他の貴族の排除が、水面下で行われていることを意味する。


 極端に言うなら、自分以外の全ての貴族令嬢が検査を受けなければ、自分の家の娘が婚約者になれるということである。


 無論そんなに排除するのは不可能であり、可能でも表立ってすれば候補から外される。


 如何に悟られないようにライバルを蹴落とすかというのを、野心を持った貴族は常日頃から考えているのだ。


 そんな中、両親という後ろ盾を失ったウィンは、フォレス家にとっては邪魔者でしかなかった。


 さらに、もう一つウィンにとって不幸な事実があった。

 婚約者の選定で重要視されている要素の一つが、魔力量であったことである。


 『杖』の未来予知は、誰がどのくらい国に利をもたらすかを示す。


 そこでは、富や美貌、知能、魔力量、権力、人格、人脈、運といったあらゆる要素が加味されるのだ。


 なので、どの貴族にとっても選ばれる可能性があり、それが一部の貴族の競争を過激化させていた。


 未来予知の基準では、ウィンはその魔力量からして超有望株である。


 もし、ウィンが選定に参加すれば、候補に選ばれるのは確実といえた。


 養子として迎え入れたフォレス家としては、ウィンを懐柔する選択肢も存在した。


 しかし、貴族において最も信じられる血縁が、フォレス家ウィンの間では極めて薄い。権力闘争の勝敗を委ねるには、不安が残った。


 自分の強みが魔力量であるウィンが王族に嫁いでしまえば、フォレス家の必要性はなくなり裏切ることも考えざるを得ない。


 最終的にフォレス家が取った行動は、ウィンを自分たちに服従させることであった。


 『杖』による未来予知は、あらゆる要素を加味する。()()()()()()


 ウィンという絶大な力を飼いならせれば、その所有者であるフォレス家の娘が『杖』に選ばれるのも夢ではない。


「ウィン、君は今日から自分を人間と思ってはいけないよ。なぜなら君はフォレス家の所有物となったのだから」


 睡眠薬を盛られて牢に運ばれたウィンは、フォレス家の当主から耳を疑うような言葉を聞いた。


 幽閉されてから当初は、泣いたり抵抗したりもした。


 しかし、ウィンの風属性の魔法では、牢を突破することはかなわない。


 少しでも気に障ることをすれば、激しく折檻される。


 心を折るように執拗な折檻を受けたウィンの心は、次第に死んでいった。


 (フォレス家に従えば、痛い思いはしなくて済む。食事がもらえる。折檻を受けるのは、自分が悪いからにちがいない)


 そうしてウィンは従順に心を閉ざし、時間間隔も曖昧になっていた。


 ただただ動物のように、餌を貰って寝てを繰り返していたある日。


 牢の外から、聞きなれない声が聞こえた。


「君、誰? なんで檻に入ってるの?」


 声の主は、この家では見たことない黒い装束に身を包んだ人間だった。

 悪徳貴族は震えて眠れ!(なお一番震えて眠っているのは吾輩さん。)


 名前の由来は「風・緑」→「ウィンド・グリーン」→「ウィン・グリーム」というかんじで結構安直です。

 フォレス家は緑繋がりで(フォレスト)から取りました。


 歴史とか多言語に詳しい人から見たら、ヘンテコかもしれません。すみません、見逃してください。

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