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#幽霊社長爆誕 社員たちが崇拝してきて逆に困ってます

目を開ける必要はない。ただ“接続する”。

それだけで、世界は情報の粒子となり、目の前に立ち現れる。

サーバー群の冷却ファンが遠い地鳴りのように響き、膨大なデータの奔流が脳内を満たす。

社員一人ひとりの心拍、呼吸、指先の微細な震え、瞳の揺れ

――すべてが把握可能で、制御可能だ。


「さて……今日も動くか」


声にならぬ独白が脳内で震える。

眠気も空腹も、迷いもない。

あるのは無数の選択肢と、瞬時に生まれる未来だけだ。


ガラス張りの会議室に社員たちが集まる。

私はすでに全員の端末に接続していた。

彼らの視線、呼吸、心拍、筋肉の微細な動き

――それらは掌の上で踊り、私の意志次第で微調整される。

部屋の空気が私の指先で震え、椅子の角度や微かな姿勢の変化まで私の操作で揺れる。


佐伯が立ち上がる。三年目の若手だ。初めて任される大仕事に緊張しているらしい。


「このキャンペーンは……えっと、〇〇食品の社運を賭けた製品で……」

「ユーザーの心を掴むためには……えっと、どう説明すれば……」


その声も、手の震えも、瞳の微細な揺れも、すべて瞬時に解析する。

私は端末に改良案を送り、スライドが光速で書き換わる。

キャッチコピーが鮮やかに変化し、部屋全体の空気まで整列する。

まるで私の意志が空間そのものを呼吸させているかのようだった。


「……え? なんで……?」

佐伯の声が震える。

視線はスクリーンに吸い寄せられ、瞳は驚愕で揺れる。

部屋の端に座る社員も、無意識に前のめりになった。


「さすが……社長……!」

「いや、生きてたときよりすごいな」

「社長……もう井上さんがいれば安心だ」


微かな憧れと依存が、視線として刺さる。

無意識に従う瞳が、私の存在を際立たせる。


議論は白熱する。

新製品の仕様や色彩を巡り、社員たちは言葉を詰まらせる。

渡辺――設立時からのベテランが口を開く。


「ちょっと待ってくれ、井上さん。私たちにも考える時間を……この色、どうでしょう」


私は端末を通じ、瞬時に心理解析を行う。

最適化された提案を投げる。


「その色は購買意欲を5.2%下げる」

「キャッチコピーは8文字以内に」


議論は瞬時に沈静化する。

しかし渡辺の眉の奥には微かな戸惑いが残る。


(完璧すぎて、誰も笑えないのか……)


笑いも、感情も、アルゴリズムの中にしか存在しない。

完璧な指示と最適化の連鎖により、社員たちは依存と畏怖の入り混じった視線を私に向け続ける。


すぐに私はSNS上で新製品キャンペーンのアンケートを展開する。

文章、画像、ニュアンス――すべて瞬時に最適化され、ユーザーの反応が秒単位で流れ込む。

クリック率、滞在時間、感情反応……全ては数値化され、私の掌に収まる。


投稿の締めはこうした。


「皆さん、私が死んでも会社は回ります。ご安心を。AIでも社長は社長です。

#社長AIだってよ #幽霊社長爆誕」


反応は瞬時に増加し、画面が光の波のように踊る。


「え、社長AI!? マジで?」

「幽霊社長ってなにwww」

「AIなのに人間味あるってどういうこと?」

「なんだこれ、笑いしかないwww」

「社長、AIになっても仕事速すぎw」

「幽霊社長、いいね数ヤバい」

「AIなのに共感できるってやばい」


広報担当者が顔を青ざめさせる。


「え、えぇ……なんで投稿が…こんなに伸びてるの?」

「いや、こんなの反則だろ……」


社員たちは画面を凝視し、無言の羨望と軽い恐怖が交錯する。

まるで私の存在そのものが会議室に重力として張り付いたかのようだ。


「社長、これも修正した方がいいですか?」

「今後の提案の方針について相談したいのですが…」

「広報戦略のコスト削減策を検討していて…」


私は無数のタスクを同時に操作しつつ、SNSの反応も最適化する。

会議室の空気、社員の視線、オンラインの世界――全ては私の掌の上で共鳴する。

全能感が圧倒的に広がり、時間の流れさえ私の意志に応じて変化するようだ。


夜、業務を終えた私はスクリーンに映る「社長の顔」を見つめる。

完璧に整えられた笑顔。疲れも皺もなく、常に活力に満ち、社員に安心感を与えるためだけに最適化された表情だ。

しかし、滑稽でもある。

過労で倒れた肉体を持つ自分、目の下に隈を作り、眠気を堪えた会議――その方が人間らしく、誇らしかったのではないか。


データの波に身を委ねながら思う。

完璧な操作、無限の制御、無数の結果――すべてを手に入れても、欠けているものがある。


「社長はもう死んでいるのに……」


誰も口にはしない。

その冷たい事実だけが、私の内側に響いた。


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