最強付与師の悪役令嬢 〜勇者パーティーから追放されたので自由に生きます。今更帰って来てと言われても無理です。今最高に楽しいので!〜
「アルビダ、もう役立たずのお前はもういらない。パーティーから追放させてもらう! そして婚約も破棄だ!」
Aランクダンジョン攻略の祝勝会で、唐突に婚約者兼パーティーリーダーであるドリトスに追放宣言を宣告された。
は? 何? 私ちゃんと役に立ってましたよね?
いーっぱい色んな付与しましたよね?
戦闘強化付与、魔力強化付与、身体強化付与、あげればキリないくらいの付与しましたよね?
私の付与がなければ、Aランクダンジョンクリアできなかったと思いますが?
「どうしてですか? 私の付与は役立っていたはず」
「はははっ、お前の付与が役立っていた? ちょっと力を強化するレベルだろ?」
ドリトスが私を馬鹿にしたように嘲笑う。
ふざけんなし。お前さ、私の付与の凄さ分かってないの?
攻撃力三倍の付与とか私にしかできないよ?
それがちょっと強化するレベルですと?
「最強の魔術師イライザが、パーティーに入ってくれることになったから、必然的にお前を追放するのは当たり前だろ? パーティー人数の最大数は五人なんだから、一人追放しないと、イライザをパーティーメンバーに加えられないだろ? こうなると、攻撃を何もしないお前一択なんだよ。これは他のメンバーも了承済みだ」
だからお前を追放するのは当然だ、とばかりに言い放つ。
ドリトスの腕にしなだれながら絡みつくイライザは、豊満な胸にくびれた腰、庇護よくそそる顔、どう考えてもドリトスは、この見た目にやられたのだろうってのが分かる。
すみませんね。貧乳で。
「そうですか、分かりました。この婚約解消は、国王陛下が認めているんですよね?」
私とドリトス第二王子との婚約は、王命で決まった婚約。
国王陛下の許可がなければ、婚約解消など簡単にできないはず。
「なっ、そんなのは後で報告してどうとでもなる!」
あからさまに動揺しているドリトス。
納得、国王陛下の許可なく、私を追放&婚約解消しようとしてますね?
まぁ、想像はついていたけれど。
「分かりました。ちゃんと国王陛下の許可を得てくださいね」
「いちいち、そう言うところが鼻につくんだ」
「キャッ!?」
いきなり第二王子であるドリトスが、私の頬をビンタした。
急な衝撃に頭がくらくらする。
こんなことするなんてDVですよ?
ん? DVってなんだ?
意識が朦朧とする。これはビンタされたからではない。
何かよく分からない知識が、脳内に入ってきて気持ちが悪い。
——これは何!?
車、電車、飛行機……この世界にない乗り物。好きだった小説やゲーム。
知らない知識がどんどん頭に入ってくる。
頭が痛い……。
「何を黙ってるんだ! お前の上から目線には、ずっとイライラしていたんだ」
ちょっと黙っててば! 五月蝿い声が耳にまとわりつき煩わしい。
頭が割れるように痛い……。
そもそも、あんたが私を殴ったから、頭痛くなってるんでしょ?
ドリトス? イライザ? そして私、アルビダ・ゲスダッセル。
これ知ってる!
知ってるって何を?
ん!?
——ちょっと待って!?
この世界って「聖華の聖女と悪の華」の世界じゃ!?
私、悪役令嬢アルビダ・ゲスダッセルに転生してる!?
これ、序盤でごねて、国外追放されて死んじゃう運命の、物語を盛り上げるために作られた、モブ悪役令嬢じゃ。
——いやいやいや、無理すぎ!
なんで序盤で断罪される、モブ悪役令嬢に転生してるの!?
とりあえず、頭を整理したいのでこの場を去りたい。
「分かりました、婚約解消、パーティーからの追放、二点了解しました。国王陛下に報告お願いしますね」
「え? 」
私が簡単に了承したからビックリしたのか、ドリトス王子が固まる。
いや、もう抗ってもダメなの分かってるので、私、断りませんわ。
正直な話し、頭が痛いのが治らないので、とっととクソ王子とは訣別したい。
「でわ、失礼します」
「ふぁっ!? アルビダ?」
急に貴方とはもう話しませんわと
そういってクソ王子の前から踵を翻し、その場を後にした。
幸いにも、祝勝会をしていた場所は宿屋も兼ねていて、その三階に部屋をとっていたのですぐに一人になれた。
自分の部屋に戻り、今の状況を冷静に確認する。
どうやら私は、前世でハマっていたゲーム【聖華の聖女と悪の華】の乙女ゲームの世界に転生したらしい。
よくラノベで異世界転生ものは流行っていたけれど、まさか自分がそうなるなんて。
思いもよらなかった。
部屋の寝台に横になり、色々と脳内整理する。
やっと頭の痛みも治ってきた。
時間をかけやっと、前世の記憶と今世の記憶が融合した。
とりあえず、今の私は物語を盛り上げるための序盤で断罪される悪役令嬢。
追放されて、婚約解消までされて終わりじゃない。
キレてパーティーメンバーに何度も危害を加え、断罪されるのだ。
もちろん、そんなことをするつもりは全くない。
クソ王子にだって、なんの未練もない。
女癖が悪く、ずっとアルビダは振り回されていた。
だから、断罪されないためにも、クソ王子に関わらないの一択だ。
このゲームは、序盤のアルビダからの嫌がらせを回避し断罪した後に、聖華の聖女を育て世界を救うと言うのが、このゲームの醍醐味。
そこには色んなルートがあるから人気が出た一つ。
クソ王子だって序盤でしか出てこない。
私と同じゲームの脇役。
「よしっ! 決めた。聖華の聖女が登場する前に舞台をさろう」
と言うことで、私がこれからすることは領地に戻り、お父様に婚約解消を報告して、その後は……ひっそりと領地で暮らせたら最高!
うんそれだわ。
何もしなくダラダラニート生活。
だって一応、公爵令嬢って立場だしね。お金ならある。
この三年間、王命で第二王子とパーティー組まされ、ずっとこき使われてたんだもん。
これからの人生は、ゆっくり暮らしてもいよね。
——あ、そうだ。
パーティーメンバーに常時付与していた身体強化を解かなくちゃね。
これでずっと奪われていた、魔力が戻ってくる。
ふふふ、今後は今まで見たいな動きができないと思ってね。
まぁ私の付与がなければ、Sランクパーティーになんてなれない、クソ雑魚メンバーばかりなんだけどね。
あいつらは爵位を継げない、貴族令息ばかりの集まりだったんだから。
冒険者として功績を上げて、後に騎士団長になるか、爵位をもらうために冒険者になっているのだから。
さてと、目的も決まったことだし、今日は早く寝て明日に備えよう。
★★★
早起きして馬車に乗り込み、ゲスダッセル領地へ向かっている。
本当は朝食もついていたんだけれど、ドリトスたちに会いかねないので、みんなが起きてくる前に宿屋を出た。
朝食を食べ損ねたから、少しお腹が空いているが致し方ない。
領までは急いで馬車で走っても三日かかる。
今日は中継地点にある村で食事をとり、早めに休んで次の日に急ぐことにした。
三日目、後少しでゲスダッセル領地に到着する。
この辺りは深淵の森が近くて、たまに強い魔物が出たりするんだよね。
「え!? 何!?」
急に馬車が止まる。まさか魔物が出たのかしら!?
馬車から様子を覗くと、先にいた馬車の人たちが襲われていたようだ。
「ん? あれはワイバーン!?」
ワイバーンはAランク魔物でかなり強い。それと戦ってる!? 三人じゃ無理でしょ。
助けに行かないと!
馬車を降りて助けに向かう。
「手助けします!」
「令嬢が危険だよ! どうにか私たちで討伐するから」
「大丈夫、私こう見えてかなり強いんです。冒険者をしていたので、貴方たちをフォローします」
「だけど何の装備もないじゃないか! 危険だ」
「私は付与師です。今から貴方たちの力を強化します」
目の前の男の人たち三人に向けて付与を発動する。
「《身体強化》《攻撃力強化》」
ワイバーンにはデバフを。
「《防御力弱体》《攻撃力弱体》」
これで余裕でしょう。
一人の男が剣を振り上げその勢いでワイバーンの首を落とした。
「なんだこの力!?」
付与した三人が驚いている。まぁ私が付与したらこんなもんよ! どうですか?
「一体何をしたんだ!? こんな規格外の付与は聞いたことない」
ワイバーンを倒した男の人が駆け寄る、身なりからして貴族だろう。
あとの二人はこの人の護衛だろうか?
「私、最強の付与師なんで、これくらい普通です」
王子たちは当たり前のように私の付与をこき使っていたが、本当はこの反応が普通なのよ! ふふん。
久しぶりに褒めてもらえて気分がいい。
「最強の付与師……納得だ。自分の体じゃないようだ」
貴族らしき男は、片目を隠していた。怪我をしているからだろうか? 訳あり?
「ええと、僕はエリシオン・リュクシーク。感謝するよ」
リュクシークって隣国の名前! ってことはこの人は王子!?
「私はアルビダ・ゲスダッセルです」
「ゲスダッセル! 君はこの先にあるゲスダッセル領のご令嬢か。丁度そこに向かおうと思っていたんだ。一緒に向かおう」
なんだか一緒の馬車で領地に向かうことになってしまった。
まぁ私が乗っている馬車よりも、数倍豪華で広いからいいのだけれど……
「本当に君の付与は凄いよ! 能力を上げるだけではなく、下げることも出来るなんて……この力があればもしかしたら」
エリシオン王子は急に何やら考え込んでいる。
この力があればもしかしたらって言ったよね? 聞こえてたんだから。
何かを頼まれる未来しか見えないから、着いたらさっさと別れよう。
「ゲスダッセル領につきましたね」
「おお、初めて来たんだけど、賑わっているね」
そうなのだ。ゲスダッセル領はかなり栄えている。お父様の領地経営は優秀らしい。なのに、私の断罪でこの領地まで奪われてしまう。
そしてこの領地があのクソ王子のものになるのだ。
そんな未来には絶対させない。だって私は王都になんて二度と行かず、このまま引きこもる予定なので。
「では私はこれで、失礼しますわね」
「えっ、ゲスダッセル領まで送るよ! 私もゲスダッセル公爵に招待されていてね」
お父様何やってくれてんですか。
厄介ごとに巻き込まれたらどーするんですか。
「……そうですか、ありがとうございます」
領に送ってもらい、一緒にゲスダッセル邸に入る。
執事のポールがすぐに来て、王子たちをサロンへと案内していた。
私はお父様に王子が来たことを伝えるのと、婚約破棄されたことを伝えに執務室へと向かう。まぁ婚約破棄のことは、先に魔導伝書で伝えてあるけれど。
「お父様、失礼します」
「アビィ……今回は災難だったね。しかも! 可愛いアビィの頬を殴るだなんて、許せない。そんな王子こっちだって願い下げだ。国王陛下には、私からきちんと報告するからね。アビィは何も心配しないで、ゆっくりしたらいい」
よっしゃぁぁぁぁぁぁ!! のんびりニート生活の保証頂きましたわ!
「あと、エリシオン・リュクシーク様がいらっしゃいました。実はくる途中に偶然お会いして一緒に来たんです」
「なんと! そうなのか。では行かないとだな」
「王子はなんでこの領に?」
「何やら相談事があるらしい」
相談事!? ほらほら、これは巻き込まれる気配しかしませんね。
「では私はこれで失礼しますわね」
「いや、アビィも一緒に行こう。美味しい茶菓子を用意したんだ」
ぐぬぬ……そう言われたら断れない。
お父様とサロンに入ると、エリシオン王子は優雅に座りティーを飲んでいた。
「こんにちは、エリシオン殿下。ジーク・ゲスダッセルです」
「ゲスダッセル閣下、初めましてエリシオン・リュクシークです」
二人が握手をし挨拶を交わす。
私とお父様がソファーの対面に座り、しばらくの間茶菓子を食べながら雑談をしでいたんだけれど、エリシオン殿下が少し難しい顔つきになる。
「相談の件なんですが、実は……今封鎖されている鉱山に行く許可が欲しいんです」
「え!? 鉱山に!? だけど今あの鉱山にはアダマンタートルが居座っていて誰も近づけないように封鎖しているんだよ?」
「その、アダマンタートルに会いに行きたいんです」
アダマンタートルはSランク魔物でかなり手強い。甲羅の強度がやばすぎるからだ。大好物はアダマンタイト。鉱山からアダマンタイトが見つかった事により、どこからかやって来て居座ったのだ。
「だけど……かなり危険だよ」
「これを見てください」
隠していた片方の目を出した。
なんと目の色が赤く光ってる。さらに目のまわりも火傷を負ったような皮膚をしている。
「これは呪いです。これを治すためには万病に効くと言われている、アダマンタートルの甲羅が必要なんです! お願いしいます」
鬼気迫る勢いでお父様に訴えかける。
確かに呪いは怖い、解呪できなければ大変な事になる。
あのタイプの呪いは、火傷の後のような皮膚が広がるタイプだ。全身に広がれば終わりだろう。
「分かった……殿下と護衛の人だけでは危険だ。ゲスダッセルの騎士たちも用意しよう」
「ありがとうございます! それならアルビダ嬢がいいです!」
「え!? アルビダ!?」
「はい! 彼女ほどに最強の付与師は出会った事がない。彼女の付与により私はワイバーンを一撃で倒せました」
「なんと! アルビダの付与はそこまで凄いのか」
二人が私の付与の話で盛り上がっている。だけど私はそれどころではない。
ああああああああっ!!
私のニート生活これでなくなった。
隣国の王子から頼まれて、断れるわけないじゃん!!
こうしてアルビダはエリシオン王子と一緒に旅に出てアダマンタートルをサクッと討伐し、そのおかげで鉱山に再び出入りできるようになり、領地はさらに潤う。
エリシオン王子には懐かれ、クソ王子をざまぁしたり、この後も色々と巻き込まれアルビダの思っていた理想のニート生活は全くできないのであった。
読んで頂きありがとうございます!
楽しく書かせていただきました。ご希望があればこのお話の長編バージョンも書きたいなと思ってます。
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